連載《人体MAPS》 第27話「体温」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「体温
たいおん
《》
」です。

体温をはかってみる

 ここ数年、きっと毎日のように、体温計を使って体温をはかっているのではないでしょうか。

 わきの下に体温計を入れて、少し待つ。「ピピピー、ピピピ―」、と鳴ったら体温計の表示を見る。「38度5分(38.5℃)」。大変! 熱があるじゃない! 今日は学校をお休みしないと。そして次の日の朝、再び熱をはかってみる。「ピピピ―、ピピピ―」、すると、「36度6分(36.6℃)」。あら、熱が下がったね。もう学校にいっても大丈夫。こんなやりとりの経験があるのではないでしょうか。

体温にはどのような意味がある?

 この人間の熱、つまり体温のことだけど、これは一体どんな意味と役割があるのでしょう。

 平熱(へいねつ)という言葉を聞いたことあると思います。大体35度から36度くらいの、あなたが普段もっている熱のこと。これが風邪を引いたりして熱が37度を超えると、発熱、つまり「体の熱がいつもより高い」状態、と考えます。熱が高いときって、体が本当にしんどい。だから、食べものも消化の良いものとフルーツなど口当たりのよいものを食べて、おとなしくおうちでゆっくりと眠る。問題なければ、ふつうは数日もすればよくなってきます。考えてみたら不思議ですね、どうしてこのように熱が上がったり、下がったりするのでしょう。

平熱をたもつことには意味がある!

 まず、普段の熱、つまり平熱はどうして35度から36度くらいなのでしょう。

 あなたの体の中では、特に細胞の中でたくさんの「化学(かがく)反応(はんのう)」が起こっています。例えば、物質を分解したり、つくったりこわしたりする反応。こうして細胞は生きていくことができるわけですが、この化学反応が起こるためには、「酵素(こうそ)」という化学反応を“すばやく正確に”進めてくれる物質が必要になります。人の体の中の化学反応ってたくさんあって、化学反応にはそれぞれ適した酵素が必要なため、酵素の種類もたくさん必要となります。もし、この酵素がなかったら体の中の化学反応が進まないから私たちの細胞は生きていけません。だから酵素って、私たちの体の中で絶対必要な大切なものなのです。

酵素の弱点

 しかし、こんなありがたい酵素にも少しわがままな一面があります。何かといえば、酵素の働きやすい環境を用意してあげないといけない。その環境の一つに「温度」があります。

 実は、多くの酵素は大体37度くらいがはたらくためのベストな環境となります。あなたが平熱のときは体の中心部分はだいたい37度だから、ちょうど酵素がいちばん働きやすい環境に設定できている状態といえます。つまり、私たちの体の表面の温度がいつも36度くらいの平熱に保たれている理由は、酵素のはたらく環境を整えるためだということ。もし体温が低すぎたり、高すぎたりすると、酵素が働きをとめてしまう。これでは私たちは生きることができません。だから、平熱でいるということは私たちの体にとってとても大切なことなのです。

体の中ではたらく酵素。酵素は物を分解したり、つくったり、形を変えたりと、体の中でたくさんの仕事をしています。この酵素のおかげで私たちは生きていくことができる。でも、酵素の多くは、37度付近でもっとも活発に活動できます。それよりもきょくたんに高い、もしくは低い体温になってしまうと、酵素が働けなくなる。すると、私たちの命を守ることも難しくなります。

体温を調節するしくみ

 このように、体温を調節することって生きていくことに直結するから、その分私たちの体は体温を調節するしくみをたくさんもっています。

 温度を下げるしくみとしては、汗をかくことによって体の表面温度を下げる、息を()ことによって身体の内部の温度を逃がす、お風呂上りなど皮膚表面を流れる血液の量を多くして(このとき皮膚の色は赤くほてる)できるだけ皮膚の温度を()がす、などがあります。

 逆に温度を上げるしくみとしては、運動、ふるえ、鳥肌(とりはだ)、皮膚の表面の血管を細くして熱を逃がさない(このとき皮膚の色は白くなる)、温度を上げるホルモンをはたらかせる、などがあります。

 それ以外にも私たち人間は、服を着たり脱いだりして暑さと寒さを調節することができます。体自身の調節だけでは厳しい寒さをしのぐには限界があるから、これも大切な体温調節の方法といえますね。

脳の中にある体温を調節する中枢(ちゅうすう)

 人間の体の中には、体温の調節を指令する部分があります。それは、脳の中の()床下部(しょうかぶ)にある体温(たいおん)調節(ちょうせつ)中枢(ちゅうすう)という場所。外から入ってくる温度の情報をもとに、体を冷やした方がいいのか、温めた方がいいのかを判断しています。

 こうして、私たちの体の温度は一定に保たれているのですね。

風邪を引くと熱が上がる

 では、風邪を引いたときに熱が上がるのはなぜでしょう。これは、体にばい菌が入ってくると、ばい菌から発熱(はつねつ)物質(ぶっしつ)が出ること、そしてそのばい菌を退治してくれる白血球からも発熱物質が出ることによって、脳の体温調節中枢に作用するから。そこで脳は、「体温を上げなさい」と体に命令し、体の熱を平熱より高くします。熱はばい菌の増殖を抑えるから、いわゆる“発熱”は体があえてつくったばい菌と戦っている状況といえます。

 すると、少しくらい熱があるからといって、薬で無理やり熱を下げることは、本来の体がばい菌を退治するはたらきを邪魔することになるから、安易な薬の使用は考え物です。ちなみに、高熱が何日もつづく場合は、さっきでてきた酵素のはたらく環境が悪くなるのと、大切な脳への影響も無視できなくなるから、それはまた別の話ですね。

 そして、やがて体がばい菌を退治すれば、体は赤くほてってきて、汗が出てきます。そう、これは体温を下げるしくみだったよね。こうして熱が下がれば、体はばい菌に勝ったことになって風邪が治るわけです。

まとめ

 今日のお話をまとめると、私たちの体の中心部分の体温は大体37度くらいに設定されている。これは体の中の化学反応を速めてくれる酵素のはたらきやすい環境をつくるため。体温の調節するしくみはたくさんある。風邪を引くと体温が上がるのは、ばい菌と戦っている証拠(しょうこ)

 いかがでしたか? あなたの体温があなたの体の中の大切な役割をもっていることがわかりましたか?

 大切にしましょうね、あなたの体温。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)、『生体物質事典』(ソシム)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

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