連載《人体MAPS》 第26話「細胞」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「細胞
さいぼう
」です。

細胞は体のどこにある? 

 あなたの「細胞」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 実は、細胞は体のすべてといっていいくらい、ほとんどの場所にあります。

 あなたの体の中には、何十兆個という膨大な数の細胞が含まれます。最新の研究では、成人の人間には37兆個の細胞が含まれていると見積もられています。

細胞の種類

 細胞にはいろいろ種類があって、例えば、皮膚(ひふ)細胞(さいぼう)()細胞(さいぼう)()細胞(さいぼう)()細胞(さいぼう)()細胞(さいぼう)(はい)細胞(さいぼう)肝臓(かんぞう)細胞(さいぼう)腎臓(じんぞう)細胞(さいぼう)筋肉(きんにく)細胞(さいぼう)神経(しんけい)細胞(さいぼう)など、たくさんあります。なんでも、人間の体には約200種類もの細胞があるのだとか。

 細胞のサイズはだいたい数十マイクロメートル。1マイクロメートルは1ミリメートルの千分の1だから、小さすぎてあなたの目で見ることはできません。ちなみに、腸内細菌などの細菌は数マイクロメートルだから細胞よりもっと小さい生き物です。

からだの中にあるいろいろな細胞。皮膚の細胞、目の細胞、歯の細胞、血の細胞、胃の細胞、肺の細胞、肝臓の細胞、腎臓の細胞、筋肉の細胞、神経細胞など、たくさんの細胞がある。サイズは様々で、1ミリメートルの千分の1の単位のマイクロメートル(㎛)の大きさだから、目では見えない。

細胞の役割は?

 細胞の大切な役割は「分裂(ぶんれつ)」すること。1個の細胞が2個、2個の細胞が4個、4個の細胞が8個という具合にどんどん分裂して、体を成長したり維持したりします。

 え? それだと、体がますます大きくなってやがて恐竜みたいにとんでもない大きさになるって? いいえ、そうはならないのです。なぜなら、細胞は分裂するものもあれば、古い細胞など死んでゆく細胞もあるから。つまり、分裂する細胞の数と死ぬ細胞の数がちょうどつりあっているから体格が維持できるわけです。分裂する(または死ぬ)細胞の数は1日に1兆個から10兆個っていわれています。すごくたくさんあるでしょ?

細胞の役割は分裂すること。でも、古くなった細胞は死んでゆくので、分裂する細胞と死んでゆく細胞がつりあって、体は一定に保たれる。

分裂する細胞としない細胞

 体の中には、分裂する(できる)細胞分裂しない(できない)細胞があります。皮膚の細胞やお腹の中の腸の細胞、血液の細胞は毎日たくさん分裂するけれど、筋肉の細胞や神経の細胞はほとんど分裂しません。だから、もし神経細胞が死んじゃうと、増える(分裂する)ことができないから、体はずっと神経細胞が死んだままの状態で一生を過ごさなくてはいけなくなります。なんとも不思議な細胞の性質ですね。

細胞の形と中身

 細胞の形にもいろいろあって、星のような形もあれば、丸い、細長いなどの細胞もあって、細胞のいる場所にちょうどよい形をとっています。一方、細胞の中身の構造はといえば、ほぼどの細胞も共通しています。

 細胞の中には1つのがあって、核の中には、DNA(ディエヌエー)という遺伝情報がぎっしり詰まっています。DNAは「遺伝子(いでんし)」と呼ばれるあなたの体をつくるタンパク質を記した領域がたくさんあって、細胞が必要な遺伝子を引き出して目的のタンパク質をつくっています。

 細胞の中には、核の他にもミトコンドリア、小胞体(しょうほうたい)、ゴルジ体、中心体、リソソーム、リボソーム、細胞(さいぼう)骨格(こっかく)などたくさんの「細胞内(さいぼうない)小器官(しょうきかん)」があります。細胞は自分で動いたり、エネルギーを生み出したり、分裂したり、必要なものをつくり出したり、他の細胞と連絡をとりあったりできるから、まるで細胞は1つの生命体のようにふるまいます。このような性質だから、細胞は「生命(せいめい)最小(さいしょう)単位(たんい)」って呼ばれています。

細胞の中の様子。中央の核をはじめ、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、中心体、リソソーム、リボソーム、細胞骨格などたくさんの「細胞内小器官」がある。細胞は自分でエネルギーを生み出し1つの生命体のようにふるまう。よって、細胞は「生命の最小単位」と呼ばれる

細胞が生きていくためには

 細胞は、自分が必要な栄養素や酸素は血管の中を流れる血液からもらっています。第24話「血(血液)と血管」でもありました。細胞はその必要な栄養分を血(血液)からもらって、細胞の中でエネルギーをつくって、そのエネルギーを使って生きているのです。

 でも、エネルギーをつくると同時にゴミも出てしまう。例えば、二酸化炭素、水、老廃物などのゴミ。水もここではゴミ。これらが細胞の中に溜まってしまうといけないから、細胞は近くの毛細血管にポイっと捨てる。すると毛細血管内を流れる血液がゴミを回収してくれる。だから細胞はいつも栄養分が運ばれゴミを回収してもらえるというとても快適(かいてき)環境(かんきょう)にいるのですね。まさに“()(ぜん)()(ぜん)”です!

細胞に栄養が運ばれなくなったら?

 では、もし血液の流れが止まってしまったら? そう。細胞に栄養分が運ばれないし、ゴミも回収されなくなる。ということは、細胞はエネルギーをつくることができず、やがては死んでしまう。さっきお話したように、一度死ぬと二度ともとに戻らない細胞があるから、死ぬ細胞がたくさんあると体全体にもそのダメージが及んでしまうこともあります。

 実は、ほんの一部でさえも血が止まることによって体全身に大きなダメージになる病気って意外にたくさんあって、中でも心筋(しんきん)梗塞(こうそく)(のう)梗塞(こうそく)という病気は非常に怖い病気です。

死んだ細胞はこのあとどうなるの?

 ところで、あなたの体の中で毎日死ぬたくさんの細胞は、死んだあとどう処理されると思いますか?

 血の細胞の中に白血球ってあったよね? 白血球にはたくさんの種類があって、その中にある「マクロファージ」という細胞は死んだ細胞をきれいに食べてくれます。まるで“お掃除当番”。

 その他、あなたはいつもきれいに体を洗っているはずだけど、毎日(あか)がでる。この垢は死んだ皮膚細胞が表面からはがれたものです。それから、ウンチ。ウンチの中にはたくさんの腸内細菌と、腸の表面にあった死んだ細胞がはがれたものが混じっています。だから、ウンチと一緒に死んだ細胞も流れて出ていくのですね。こうして死んだ細胞はきれいに処理されて、体には残らないようになっているのです。

まとめ

 今回のお話をまとめると、細胞は体の中に何十兆個という膨大な数あって、とても小さく、いろいろな種類と形がある。分裂する細胞と分裂しない細胞がある。細胞の中には核という遺伝情報が集まる部分と、細胞内小器官がある。細胞は血液から栄養分と酸素をもらって、細胞の中で必要なエネルギーをつくって生きている。細胞の活動で出たゴミは血液に持って帰ってもらう。

 いかがでしたか? 細胞はあなたの体の中の大切な一部? いや、すべてであることがわかりましたか?

 大切にしましょうね、あなたの体の中の細胞。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)、『生体物質事典』(ソシム)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

第19話「あし」

第20話「骨」

第21話「筋肉」

第22話「皮膚」

第23話「神経」

第24話「血(血液)と血管」

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