連載《人体MAPS》 第7話「口」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「口」です。

口はなんのためにある?

 あなたの「口」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

 そう。顔の中央のやや下に、1つあります。そして口の前(入り口)には口の動きに合わせて動くくちびるまたは口唇(こうしん))があります。唇も大切な口の一部です。

 では、口は何のためにあるのでしょう。そうですね、口はご飯やおやつを食べたり、ジュースを飲んだり、お友だちやおうちの人とお話をしたり、あいさつをしたり、息を吸ったり吐いたり、ニコッと笑ったり、「へ」の字に曲げて困った表情(ひょうじょう)を見せてみたり、こんなにたくさんのことをするために口があるのですね。 口があるって、すごく便利!

 もし、口がなかったら? ご飯を食べることも、お友だちやおうちの人とお話しすることも、息を吸うことも、表情をつくることもできません。

 では、確かめてみましょう。 口を閉じてみてください。このままお話ししたり、歌ったり、ご飯を食べたりできますか? できないよね。だから口がなかったらとても不便です。

口の中を観察してみよう

 それでは口の中を見てみましょう。(かがみ)を持って、口を大きく開けてごらん。口の中には大きなベロがあります。ベロは正しくは「(した)」といいます。舌の周りとその上には白い歯が見えます。そして口の奥の方をのぞくと、「
のど
」につながる大きな孔が見えますね。


口の入り口には唇(口唇)がある。口の中には、歯、舌、口蓋
こうがい

ほほ
など口の中の壁がある。舌はとてもよく動き、味を感じる場所となる。舌の下や頬の上側から唾液
だえき
がでる。口の奥には咽とつながる孔がある

舌のはたらきを考えてみよう

 大きくてよく動く舌、あなたはこの舌のはたらきを知っていますか?

 アイスクリームをぺろぺろなめる、お友だちに「アカンベー」をする、口の周りについたチョコレートをペロリとなめる、それも舌の大切なはたらきでしょう。実は、舌には「食べ物の味を感じる」というもう一つの大切な役割があります。あまい味(甘味(あまみ))、しょっぱい味(酸味(さんみ))、塩からい味(塩味(えんみ))、にがい味(苦味(にがみ))など、いろいろな味を感じる、それが舌の大切な役割です。

 ある時、あなたがごはんを食べていると、口の中に魚の骨があることに気づきました。魚の骨を飲みこんだら大変です。でも大丈夫。舌はお魚の骨があることと、その場所をすばやく、するどくキャッチして、あなたにそのことを教えてくれます。そしてあなたは器用(きよう)に魚の骨を口から取り出すことができる(ときに舌は魚の骨があることに気づかないこともあります。魚を食べるときは、舌や舌の上の部分で骨がないことを確認しながら注意して食べましょう!)。

  舌はつまり、味を感じることと、危なくて食べられないものを知らせてくれる、そういうありがたいはたらきがあるのです。

まだまだある舌のはたらき

 舌にはまた別のはたらきもあります。声を出したり、歌ったりするとき、舌は口の中ですごくよく動きます。声を出す時に、舌がその形を自在に変えて、正しい声を(ひび)かせるためです。

 試しに、英語の「Apple」を正しく発音してみてください。英語のAppleは、舌を()り上げないと正確に発音できません。そのようなとき、舌の動きが大事であることがよくわかります。

  まだあります。みなさんはお医者さんから「ベロ(舌)をべ~~ってしてください」って言われたことないかな? 実は舌はからだの異変に気づくためのシグナルを発することがあります。舌の色や舌の表面についているコケのようなもの(これを(ぜっ)(たい)といいます)を観察して、内臓(ないぞう)の具合や風邪を引いているかどうかなどを調べています。

 もちろん舌だけではすべてのことがわかるわけではないので、体の他のところも()て、体の悪いところを調べていくのです。

つばにも役割がいっぱい!

 あなたは、おいしそうな食べ物を想像(そうぞう)したり見たりすると、口の中からヨダレ((つば))がたくさん出るでしょ? 唾は正しくは「唾液(だえき)」といって、舌の下からと上の奥歯とほっぺ((ほほ))の間の辺りから出てきます。では、この唾液ってどんなはたらきがあるのでしょう?

 唾液には、口の中の食べ物に水分や(ねば)り気を与え食べ物を分解したり、飲み込みやすくしたり、それから、舌の表面をきれいにしたり、口の中のばい菌をやっつけたり、食べ物の味を感じやすくしたりするはたらきがあります。唾液ってこんなにもたくさんの役割があるのですね。

 よい子のみなさんはくれぐれも、唾を「ペッ!」って吐いたりしてはいけませんよ。

口にまつわることわざ・言い伝え

 さて、ここで「口」を含んだ言葉を紹介しましょう。 あなたは「口は(わざわい)のもと」という(ことわざ)をきいたことがありますか? 禍というのは、「(あらそ)いごと」とか、「不幸なこと」を意味する言葉だけど、どうして口がそんな“嫌な”ことの原因になるのでしょうか。それは、口そのものではなく、唾を吐くことでもなく、実は口から出る“おしゃべり”が原因で禍がおこることがあるのです。

 あなたは普段、お友だちや先生の悪口を言ったりしていませんか? 実は、口から出るその悪口によって、お友だちを傷つけたり、怒らせたり、悲しませたり、そしてケンカになることがあるので、それを(いまし)める意味で「口は禍のもと」という諺があるのです。みんなお話しするとき、場所、こと、もの、ひとには十分気をつけましょうね。

口の奥をのぞいてみましょう

 口の奥を見てみましょう。大きな孔が見えます。

 孔の奥は「咽」といわれる場所です。そして咽の上へは「鼻(鼻腔
びくう
)」に、咽の下へは「食道(しょくどう)」という食べ物の通り道とつながっています。もしも食べ物が食道にいかないで鼻腔の方へいってしまったら大変です。

 あなたは口の奥に「のどちんこ」があるのが見えますか? これは正しくは、「口蓋(こうがい)(すい)」といいますが、口蓋垂とその周りの部分(「(なん)口蓋(こうがい)」といいます)が、ご飯をのみこむほんの一瞬、咽と鼻腔への通路をふさいでくれます。このしくみのおかげで食べ物は鼻にいかず、きちんと咽そして“食道”へと進んでいくことができるのです。

口(口腔
こうくう
)の奥は咽(咽頭
いんとう
)とつながる。咽頭は鼻から食道まで続く管で、食べ物(食塊
しょっかい
)を食道へと送り届けてくれる。食塊をのみこむとき、軟口蓋が鼻腔への入り口をふさぐ。これが食塊が鼻へ逆走するのを防ぐしくみ。また喉頭蓋
こうとうがい
が食塊を空気が入っていくための管(気管)に流れるのを防いでくれる。こうして食塊は確実に食道(この後胃に続く)へと移送される。

 だから逆立ちしながらご飯を食べても、食べ物は鼻腔にいかないのです。すごいでしょ! でも、よい子のみんなはくれぐれも逆立ちしながら食べるような真似はしないでね。

 それはともかく、ごはんを食べている最中にクシャミが出ることがときどきあるよね。そしたら、クシャミの勢いで口蓋垂と軟口蓋が鼻腔への通路をふさぎきれず、食べ物が鼻腔の方に飛んでいってしまうかもしれない。

 もしそうなったら、少し鼻の奥が痛いけれど、鼻から勢いよく息をはき出すか吸うかして、鼻腔に入った食べ物を追い出しましょう。するときっと鼻へ行った食べ物のカスが出てくることでしょう。

目、耳、鼻、口、咽はすべてつながっている!?

 あなたは今までのお話で気づきましたか? 今回のお話で、口と咽がつながっていること、さらに咽と鼻もつながっていることを学びました。さらに第5話「耳」のお話で咽と耳がつながっていることを学びました。

 ということは? そう。口と咽と鼻と耳の4つはすべてつながっている! さらにさらに、第1話「目」のお話で、目の内側(目頭(めがしら))付近のまぶたにある小さな孔は、第6話「鼻」のお話で出てきた鼻腔とつながっていることを学びました。泣いたときに涙が鼻からも出てくるのはそのためだったね。

 つまり、目、耳、鼻、口、咽の5つはすべてつながっていることになる! まったく別の場所にあっても連絡を取り合う人間の体の部位って本当にすごいね!

人間の顔にある目、耳、鼻、口、そして咽はすべてつながっている。涙を出せば鼻から鼻水が出る、ゴクンとのみこんだ時にクシャミをすると鼻から出る、耳の奥が詰まったらゴクンとのみこめば聞こえがよくなるなど、これらはすべてがつながりをもつために起こる現象なのだ。

まとめ

 今日のお話をまとめると、口は食べ物を取り入れる、声を出す、表情をつくるためにある。口の中には歯と舌が、口の奥には咽とつながる孔がある。

 いかがでしたか? 「口」や「口の中のもの」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? お外で遊んでおうちに帰ってきたら、口や咽についた悪いばい菌やウイルスを追い出すため、必ず、しっかりうがいをしましょう。

 大切にしましょうね、あなたの「口」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

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