連載《人体MAPS》 第5話「耳」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「」です。

耳はなんのためにある?

 あなたの「耳」は体のどこにありますか? さわってみましょう。そう。顔の左横と右横に1つずつ、あわせて2個ありますね。

 では、耳は何のためにあるのでしょう? そうですね、耳は音を聞くためにあります。鳥のさえずり、虫の鳴く音、風が吹く音、あなたの目の前にいるお友だちやおうちの人、そしてあなた自身の声、それらを聞くために耳があるのです。耳があるって、すごく便利!

 もし、耳がなかったら? あなたは音を聞くことができません。では、確かめてみましょう。

 耳の(あな)を指でふさいでみてください。指を離してはダメですよ。耳の孔をふさいだら、ほら、音が聞こえにくくなるでしょ? すると、たとえば車が後ろから近づいてきたとき、私たちは車の近づく音を聞くことで車が近づいてきたことに気づけるのだけど、音がなければそれがわからない。これはとても危ない。だから、耳がなかったらとても不便なのです。

耳についているいろんな名前

 耳のところどころには特別な名前がついています。楕円形(だえんけい)の耳そのものを「()(かい)」、耳の孔を「耳孔(じこう)」、耳孔から奥の細長い道を「外耳(がいじ)(どう)」、耳たぶのことを「耳垂(じすい)」といいます。

 では、耳垂をさわってみてください。ついでにおうちの人の耳垂もさわらせてもらいましょう。あなたの耳垂の方が大きい? 小さい? あるいは、柔らかい? よく見ると、耳垂の形って人によって形が異なるから、観察してみるととても面白い。

耳の構造。楕円形の耳そのものを「耳介」、耳の孔(耳孔)から奥を「外耳道」、耳たぶのことを「耳垂」という。大きくて皿のように反っている耳垂をとくに「福耳」という。外耳道の奥には「鼓膜」がある。耳の構造は大きく、外耳、中耳、内耳の3つにわかれている。中耳には、
のど
まで続く長細い管(「耳管
じかん
」)とつながっている。

 昔から耳たぶが大きくてお皿のように()っていると、「福耳(ふくみみ)」といってお金もちになるという言い伝えがあります。それって、本当かな? あなたの耳の形はお金がたまりやすい形かな?

耳介のはたらき

 次は耳介に注目しましょう。耳介ってよく見ると面白い形。どうしてこんな形なのでしょう? これは、音を集めるはたらき(集音(しゅうおん)をするのに都合(つごう)がよいため、このような形になっています。

 すると、大きな耳介だとたくさん音を集められるけど、耳介が小さければ音をあまりひろうことができないかもしれないね。あなたは音を聞きづらいとき、手をお椀のように丸めて耳介のそばに()せて、「えっ?」っていうポーズをするでしょ? これは耳介の集音の役目を手を使って大きくしてあげて、音をたくさん集めて、もっと聞こえるようにする、そんな意味があるのです。それとこのポーズ(しぐさ)は、相手に「もう少し大きな声で話してください」という意思を伝える意味もあるのです。

音が聞こえるしくみ

 私たちは普段どのように「音」を聞いているのでしょうか。ちょっと難しい話になるけれど、がんばってください。

 集められた音は、まず、耳孔から入って外耳道へ進み、外耳道の奥にある「鼓膜(こまく)」にあたります。鼓膜は、音のエネルギー(音波(おんぱ))によって振動します。

 振動って何かって? そしたら、実験してみましょう。手をパーの形にして、手のひらに向かって「あ~~~」と声を当ててください。すると、あなたの手のひらにはわずかな振動を感じ取ることができませんでしたか? それが音の持つエネルギーの正体です。

 話を戻すと、鼓膜のさらに奥には小さな3つの骨(外から順に、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨、3つ合わせて()小骨(しょうこつ))が連なって並び、鼓膜の振動を受け取ったこれらの骨も振動します。アブミ骨の先はカタツムリのような形をした「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる部分とくっついているので、耳小骨の振動はこの蝸牛にも伝えられます

 蝸牛の中は「リンパ」と呼ばれる液体で満たされていて、リンパにも振動が伝えられます。蝸牛の中にはリンパの振動を感じ取る「有毛細胞」と呼ばれる細胞があって、この細胞がリンパの振動を電気信号に変えます

 電気信号は、有毛細胞につながる蝸牛(かぎゅう)神経(しんけい)(ちょう)神経(しんけい)へと伝えられます。蝸牛神経は有毛細胞から受け取った電気信号を脳に伝えます。脳は受け取った電気信号を処理して、「音」として私たちが普段感じている“聞こえ”の感覚を(しょう)じさせます。これが、音が聞こえるしくみとなります。

音は、耳孔→外耳道→鼓膜→耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)→蝸牛へと振動が伝えられ、蝸牛の中のリンパが振動する。蝸牛の中には有毛細胞とよばれるリンパの振動を感じ取る細胞があって、振動を電気信号に変換する。有毛細胞からは蝸牛神経と呼ばれる電気信号を脳に伝える神経があって、脳にまで情報が伝えられる。脳は蝸牛神経によって伝えらえた電気信号を「音」に変え、私たちは「音」を認識することができる。

耳はなぜ2つある?

 あなたは、なぜ耳が2個あるか知っていますか? これは音の鳴っている“方向”を感じるためです。

 音の出ている場所が、前からなのか、後ろからなのか、あるいは上からなのか、2個ある耳に音が到達するわずかな時間の差(ズレ)をもとに“方向”を認識することができるのです。たとえば、体の右側から音が鳴ると、わずかに左耳よりも右耳に早く音が到達します。すると、脳はそのわずかなズレを処理して音の発生する場所を「右」と特定します。ちなみに右耳と左耳に同時に音が到達したときは、体の正面から音が鳴ったと感じます。

「耳」の文字が使われる言葉

 ここで「耳」が含まれる言葉を紹介しましょう。

 あなたは、「地獄(じごく)(みみ)」という言葉を聞いたことがありますか? この言葉の中にある「地獄」って、天国の正反対で怖くておそろしいイメージを持ちますね。その“怖くておそろしい”イメージがそのまま地獄耳という言葉に含まれています。

 あなたはお友だちと、ひそひそ話で、ある人の悪口を話したとします。すると、ビックリ! その人にはあなたが今いった悪口が聞こえているじゃありませんか! なんとするどい聞く力。このように、小さな声で話しているにもかかわらず人並(ひとなみ)(はず)れた聞こえる力がある耳のことを「地獄耳」というのです。だから、人の悪口はいってはいけません。

他にもある「耳」がつく言葉。あなたは意味がわかるかな?

空耳(そらみみ)(実際には声や音がないのに、それが聞こえたような気がすること)

耳が痛い(自分の弱点を他人につかれ、聞くのがつらいこと)

耳を(ふさ)(聞かないようにすること)

耳に(さわ)(不愉快な言葉や会話が入ってくること)

耳に入れる(物事を知らせること)

寝耳(ねみみ)に水(思いもよらない出来事や知らせを聞いてびっくりすること)

耳の孔の奥には何が?

 では、耳の孔に少し指を入れてみましょう。耳孔の奥には耳アカがあります。耳アカは正しくは「耳垢(じこう)」といいます。耳垢はカサカサと乾いた耳垢のタイプとネバネバと湿った耳垢のタイプの人がいます。この性質は、実はお母さんやお父さんから遺伝するっていわれています。あなたはどちらのタイプかな?

「耳が遠くなる」とは?

 年を取ると、残念ながらだんだん耳が遠くなってきます。「耳が遠い」という表現は、実際には耳が遠く離れているわけではないけれど、遠く離れた場所から聞いたように、耳の聞く力が弱くなることをいいます。あなたのおじいちゃんやおばあちゃんは耳が遠くないかな。いつも「えっ?」って耳元に手をあてていないかな。

 年を取らなくても、中耳炎
ちゅうじえん
という耳の中にばい菌が増えてしまう病気になると、それが原因で聞こえにくくなることがあります。これは子供にかかりやすい病気です。中耳炎は耳が痛くなるばかりか、音の聞く力も弱くなることもあるので、絶対に放っておかないでね。それから、とても大きな音を聞き続けることも耳を悪くする原因になるから注意してね。

“一時的に”耳が遠くなる?

 あなたは展望台のある超高層ビルやタワーのてっぺんに上ったとします。しばらくしてエレベータで一気に地上まで下りると、いつもより音が聞こえにくいと感じた経験はありませんか? そして何やら耳の奥がつまったような感じになって気持ちが悪い。耳が遠くなってしまったのでしょうか?

 実はこれは、耳の鼓膜の外側と内側の空気の密度、つまり空気の濃さが異なってしまったために起こる現象です。そういうとき、少し意識して
つば
をゴックンするとなおる
ことがあります。ん~~、どうして唾をのみこめばなおるのでしょうか。

 最初の耳の図を見てみましょう。図の中に「耳管(じかん)」というところがあります。時間じゃなくて耳管ですよ。さて、耳管は細長い形で、耳の中耳と咽とをつなぐ管になっています。唾をゴクンとのみこむと、普段閉じている耳管が開く。すると、咽から中耳へ空気が入っていき、さっき言った鼓膜の内と外の間の空気の密度が等しくなります。こうして鼓膜の振動と音の伝わりがうまくいって、音の聞こえが戻る、そういう原理になっています。

デリケートな耳

 くれぐれもお友だちの耳元で「ワーッ!!!」っと、大声で(さけ)んではいけません。耳元で大きな声で(さけ)ぶと、耳の孔の奥にある「鼓膜(こまく)」 が破れてしまうことがあります。

 音は、「音波(おんぱ)」とよばれる空気に振動(しんどう)を起こすエネルギーが正体ですから、そのエネルギーは空気中に広がることで遠くまで伝わることができる。大きな声や音というのは、それだけ大きなエネルギーをもつから、(うす)くて(やわ)らかい鼓膜に、もしもその大きなエネルギーを持つ音波が直撃(ちょくげき)すると鼓膜が破れてしまうことがあります。すると、声や音が聞こえにくくなってしまう。

 音が聞こえなくなると、補聴器(ほちょうき)といって聞こえの助けをする機械の装着(そうちゃく)が必要になるから、とても不便です。くれぐれも大きな音には気をつけましょう。

  とにかく音が聞こえないととても不便です。車が近づく音、子供が泣いている声、お母さんの台所からの歌声、これらがすべて聞こえないのはとってもつらいですし、あなたの身に危険がせまっていてもわからないでしょう。

音の速さ

 あなたは音の進む速さがどのくらいか知っていますか? 第1回「目」のときに「光の進む速さ」のお話が出てきました。そう、光は1秒間に30万kmというとてつもない速さで進むのでした。

 一方、音の速さは光にくらべるとかなり(おそ)く、1秒間に340mほどです(空気中)。光とはくらべものにならない遅さです。打ち上げ花火を見たとき、「パッ」と花火が開いたのを見て、何秒か経ってから「ドーン」の音が聞こえたという経験がありますか? これは、「花火が開花」してから(はな)たれた光と、「花火が爆発」したときの音が、あなたの目と耳に届く時間に差があるために起こる現象です。光と音の性質のちがい、とても面白いね。

音と光の速さの違い。光は1秒間で約30万km進むのに対して、音は1秒間に約340m。この差がよくわかるのが、花火が爆発したのを見てしばらく経った後に「ドーン」と音を感じる体験をしたとき。これは、爆発した「光」の情報と、爆発の時に出た「音」の情報がそれぞれ目と耳に到達するタイミングが異なるために起こる現象。

音の性質

 音の性質は、「大きさ」高さ」「音色(ねいろ)」の3つの要素で構成されるといわれています。その中で、「高さ」を決めているのは先にお話しした音波です。音波は音の波、つまり振動のことです。この波(振動)が1秒当たり何個あるかによって音の高さが変わります。ちなみに、1秒間当たりの波の数をHz(ヘルツ)と呼び、Hzの数が多いほど高い音となります。

 人間が聞き取れる音の高低の範囲可聴域(かちょういき))は、20~20,000Hzといわれています。しかし、人は年を取るにつれ高い音から順に徐々に聞き取れなくなります。

以下のサイトにあるどの音域まで聞き取れるかチェックしてみよう。
https://www.resound.com/ja-jp/hearing-loss/jp-miminenrei
(「モスキートゲームで耳年齢をチェック!」のPlayボタンをクリックすると、表示されている周波数の音が出ます)

まとめ

 今日のお話をまとめると、耳は音を聞くためにある。耳の耳介は音を集める集音のはたらきがある。ときに耳の奥にばい菌が増えて「中耳炎」になることがある。耳元で大きな声や音を出すと、耳の奥にある鼓膜が破れることがあるので注意しないといけない。

 いかがでしたか? 「耳」はあなたの大切な体の一部だということがわかりましたか? もし、あなたの周りに音が聞こえない、または耳の不自由な方がいらしたら、そっと手をたずさえて助けてあげてね。

 大切にしましょうね、あなたの「耳」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

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