連載《人体MAPS》 第3話「胃と腸」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは()()(ちょう)」です。

胃と腸は体のどこにある?

 あなたの「胃と腸」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

 これは少しむずかしいかもしれないね。胃と腸はお腹の中に1つずつある臓器で、お互いつながっています。胃はみぞおち(※)のあたりに、腸はお腹のほぼ全域にあります。胃の形は袋状(ふくろじょう)で、腸の形はホースのような(くだ)、つまり両方とも中が空洞(くうどう)の構造です。

※みぞおち
人間のお腹の上の真ん中あたりにある少しくぼんだ場所。みぞおちに触れた手を左右にずらしていくと、肋骨の下部
かぶ
に触れることできる。

胃と腸は、消化管の一部です。消化管は口から始まって、咽、食道、胃、小腸、大腸、そして肛門で終わる管腔
かんくう
構造の臓器です。口から肛門までは、途切れることなく続く1本の管となります。消化管につながる肝臓
かんぞう

たん
のう、膵臓
すいぞう
なども消化に関わる大切な臓器です。消化管と肝臓、胆のう、膵臓をまとめて消化器と呼んでいます。

胃と腸はなんのためにある?

 胃と腸は何をしているのでしょうか。

 胃も腸も「消化管(しょうかかん)」という(くち)(のど)食道(しょくどう)()小腸(しょうちょう)大腸(だいちょう)肛門(こうもん)の順に並ぶ一連の臓器の一部です。あなたが食べた物を細かく分解したり、分解した食べ物の中にある栄養素(えいようそ)を体の中に取り入れたりしています。この分解することを「消化(しょうか)」、体の中に取り入れることを「吸収(きゅうしゅう)」といいます。この2つは特に重要な言葉ですから覚えておきましょう。

 え? 食べ物が体の中に取り入れられるってどういうことって? 食べると勝手に体の中に入っていくのではって?

 確かに、食べたものはお腹の中に入って、見た目では体の中に取り込まれたような気がします。ところが、“気がする”だけで、実際はまだ取り込まれていません。どういうことかというと、食べ物は、胃と腸の中、つまり、さっきいった胃と腸の中の空洞を通ります。その空洞をずっと上もしくは下へたどっていくと、やがてあなたの口もしくはお尻の
あな
にいきつきます。

 口もお尻の孔も体の外にひらく場所でしょ? すると、胃や腸の中って、体の外と同じ空間と考えられますね。だから、あなたがゴックンしたばかりの食べ物はまだ体の外にあるわけです。すると、細かく(くだ)いた栄養素を体の外から中に入れてあげる作業が必要になります。この作業のことを「吸収」といって、胃と腸(主に腸)が行うのです。

吐いたものはなぜ苦くて酸っぱい?

 胃の形はひょうたんを斜めにしたような、それともアルファベットの「J」の字を斜めに傾けたような形をしています。食べ物はまずこの胃の中で消化されます。

 胃の壁(胃壁(いへき))の表面から「胃液(いえき)」という食べ物を分解するための「消化(しょうか)(えき)」が分泌
ぶんぴつ
され、胃液と胃の運動によって、胃の中の食べ物は「ドロドロ」の粥状(かゆじょう)になるまで分解されます。ときに体調がわるく、ゲロを吐くことがありますが、あのゲロの正体は胃の中のもの。ドロドロでしょ? そしてゲロの(にが)くて()っぱい味、あれが胃液の成分です。

 ちなみに胃液の成分の中には、胃酸といって消毒・殺菌する効果のあるものが含まれています。食べ物には、目に見えないけれど、ばい菌やウイルスがくっついていることがあります。そこで、胃酸によってばい菌やウイルスは消毒されて私たちの体を守っているのです。

胃はアルファベットの「J」の字を斜めに傾けたような形をしています。胃のとなりには食道と十二指腸がつながります。胃は伸び縮みできるため、たくさんの食べたものをため込むことができます。胃の表面に存在する「胃腺
いせん
」から胃液という消化液が出されます。そして食べ物はドロドロの粥状になるまで分解される。胃液には胃酸と呼ばれる液体が含まれ、これは殺菌効果があるため、私たちが食べる食べ物に付着したばい菌をやっつけることができます。

 さて、いよいよドロドロになった胃の中のものは、次の腸へと送られていきます。

長~い腸は栄養の玄関口

 次は腸のお話です。

 腸はすごく長くて、だいたい7~8メートルもあります。腸には小腸(しょうちょう)大腸(だいちょう)という2種類の腸があって、さらに小腸は十二指腸(じゅうにしちょう)(くう)(ちょう)回腸(かいちょう)に、そして大腸は盲腸(もうちょう)結腸(けっちょう)直腸(ちょくちょう)に分けられて、この順番に食べた物は進んでいきます。

 小腸は、胃から送られてきたドロドロの食べ物をさらに細かく消化します。

 ご飯やパンなどに多く含まれる糖質の仲間は“ブドウ糖”に、お肉、お魚、大豆などに多く含まれるタンパク質は“アミノ酸”に、油は“脂肪(しぼう)(さん)”という栄養素になるまで細かく「分解」されます。

 次に小腸はこれらの小さな栄養素(えいようそ)を体の中に取り入れる作業、つまり「吸収」をします。吸収先はほとんどの栄養素は血管、一部の脂(油)の仲間はリンパ管というところです。吸収された栄養素はやがて体の中の血管を巡って、体の構造の一部分になったり、エネルギー源となったり、貯蔵されたりします

 だから小腸は、私たちの体が必要とする栄養の取り込みのまさに玄関口と考えることができます。腸は超(チョー)重要! なんちゃって・・・。

もう少しくわしい小腸の構造

 もう少しくわしく小腸の構造を見ていきましょう。

 小腸の表面を顕微鏡(けんびきょう)で見てみると、じゅうたんのように細かな毛がたくさん生えているのがわかります。これを(じゅう)(もう)といいます。

小腸の表面を顕微鏡で観察すると、絨毛という特徴的な突起構造が確認できます。絨毛の表面には栄養分を分解するための酵素(消化酵素)が含まれ、食べ物に触れることで分解されます。細かく分解された栄養素はこの絨毛から吸収されます。絨毛の中には血管や乳び管(のちのリンパ管)があり、吸収された栄養素はこの管を通って体全体に送り届けられます。よって、小腸は栄養素の玄関口になるといえます。ちなみに絨毛は小腸でとても発達していますが、大腸には確認できません。消化・吸収を主に行う小腸で発達している理由がわかります。

 絨毛の表面には食べ物の栄養分を細かくするための消化(しょうか)酵素(こうそ)と呼ばれる物質がたくさんくっついています。栄養分はその消化酵素に()れることで細かく分解されます。私たちが食べた栄養分は細かく分解されるからこそ吸収されやすくなります。

 絨毛の中にはさっき言った血管やリンパ管があって、吸収された栄養素はここに吸い込まれます。もしこの絨毛がなければ、小腸の表面はただの平坦(へいたん)なホース状構造ですから、消化酵素と栄養分の触れるタイミングが少なくなって、消化と吸収の効率は極端(きょくたん)に悪くなります。ですから、絨毛があるというのは、小腸の表面の広さ(ひょう)面積(めんせき)といいます)を大きくして消化と吸収に適した環境をつくっていると考えることができます。

なんでお腹が鳴るの?

 お腹がへっているときに「グ~グ~」「キュルキュル」、お腹の調子が悪いときに「ゴロゴロ」とおへそのあたりから音がなったりします。大勢(おおぜい)の人がいる静まりかえった部屋の中で自分のお腹から「グ~グ~」音が出るとなんとも
ずかしいものです。あのお腹から出る音とはいったいなんでしょうか

 実は、胃と腸はお腹が空いているときもいっぱいのときも活発に動いています。胃と腸はさっきいったように空洞がありますから、中に「空気」が含まれることがあります。すると、活発な胃腸の動きによって空気がある場所からある場所へと押し出されることがあります。空気って、広いところから(せま)いところを通るときって音が鳴ることがあるでしょ?

 例えば、少しだけ開いた窓から外の空気が急に入ってきたときの音や、すぼめた口に向かって息を吹いたときに出る音(口笛(くちぶえ))などがイメージしやすいでしょうか。これがお腹から出る音の原理です。つまり、お腹から音が出るというのは体が正常にはたらいている(しるし)だから決して恥ずかしがることではないのです。

大腸はすごくたくさんの細菌が!

 え? 大腸の役目はって?

 実は、消化と吸収の役目の大半は小腸がするから、大腸はあまり役目がない、といいたいところだけど、そんなことはありません。大腸も大切な役割があります。それは、「ウンチ」をつくること。ウンチは正しくは「便(べん)」といいます。

 小腸で消化と吸収を終えた後の、食べ物のカスを処理してくれるところが大腸です。実は、大腸の中ってすごくたくさん細菌(これを腸内(ちょうない)細菌(さいきん)(そう)という)がいて、その数は諸説(しょせつ)あるのだけど、ざっと100兆個! 想像できないくらいたくさんの細菌がいるのです。

 腸内細菌は、いわばあなたの体の中でともに生きるパートナーみたいなもの。どういうことかというと、あなたの体の中ではつくることができない栄養素、例えば、ビタミンBやビタミンH、そして母乳に不足する栄養素のビタミンKなどをつくってくれて、あなたの体に供給(きょうきゅう)してくれているのです。実は、あなたのウンチの約半分がこれらの細菌で()められているというからおどろきです。

 さらに大腸は、小腸から送られてきた食べ物のカスの中に含まれている水分やミネラルを(吸収することで)減らしていき、徐々にウンチらしい形や(かた)さにしていきます。ウンチは最終的にあなたのお尻の孔、つまり肛門から出てきます。だから、大腸の調子がおかしいと、下痢(げり)(ウンチがゆるくなること)をしたり便秘(べんぴ)(ウンチがたまってしまうこと)になったりするのですね。

ウンチが口から出る!?

 え? ちょっと待って! そういえば、ウンチの出る孔と口ってつながっているのでした! すると、ウンチが大腸➝小腸➝胃➝食道➝咽と逆に流れていけば、下手したらウンチが口から出ることもあるの!?

 大丈夫、安心して。ゲロをいくら出しても、それは胃の中のものであってウンチではない。腸の中では、ウンチが逆(口の方向)に流れないように、「(べん)という装置(そうち)(そな)わっています(べん)便(べん)を止めるというなんともややこしい話ですが。 ちなみに前回紹介した『心臓』の中にも「弁」が出てきました。覚えていますか? これも血液が逆に流れないようにするための大切な体の一部でしたね。

まとめ

 今日のお話をまとめると、食べ物は消化管の中を「口➝咽➝食道➝胃➝小腸➝大腸➝肛門」の順に進む。胃では食べ物をまずドロドロになるまで分解し、小腸は胃から送られてきた食べ物をもっと細かく分解して、その中に含まれる栄養素を吸収する。大腸は小腸から送られてきたものを徐々に固めていって、ウンチを形成する。最終的にウンチは肛門から出ておしまい。めでたしめでたし。

 いかがでしたか? 「胃や腸」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 食べ過ぎや、冷たいものばかり食べていてはダメですよ。「(はら)八分目(はちぶんめ)」という(ことわざ)があるように、食べる量はほどほどに、「もうちょっとほしい」と思うくらいで食べるのをやめておきましょう。そしてよく
んで食べましょう
噛まずにすぐ飲みこむと、胃袋(いぶくろ)にすごく負担がかかるからね。そして好き嫌いもせずに食べましょう。野菜もたっぷり()って、気持ちのいいウンチを毎日出しましょう。

  大切にしましょうね、あなたの「胃と腸」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

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第1話「目」

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