連載《人体MAPS》 第19話「あし」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマはあし(足・脚)です。

「あし」はどこにある?

 あなたの「あし」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 そうですね、お腹とお尻の下から伸びる長くて立派(りっぱ)な2本が「あし」ですね。

左があしの全体像。右があしの中の骨。あしは下肢(脚)といって、さらにこまかく大腿・膝・下腿・足にわかれる。大腿には大腿骨が、膝には膝蓋骨が、下腿には脛骨と腓骨がある。足には手と同じようにたくさんの骨がある。

 「あし」は2本あるから、立ったり、歩いたり、飛んだり、走ったり、階段を上ったり、それから()ったり()ん張ったりできる。移動のときは特に大活躍(だいかつやく)します。

  もしも「あし」がなければ今いったはたらきができなくなるから、本当に不便です。

 「あし」は、「(あし)」または「(あし)」と書くけれど、正しくはこの2つは異なる場所を指します。「足」は足首より先を、「脚」は正しくは「下肢
かし
()
」といって「あし」全体(お腹から下すべて)を指します。ただし、一般に下肢のことを「足」と書いたり呼んだりすることがあります。

脚のしくみ

 では、最初に「(ひざ)」を確認しましょう。そうですね、こけるとよくすりむくところです。膝から上は、足の中で一番大きくて長い部分で「太もも」といいますが、正しくはここを「大腿(だいたい)」といいます。ここには人間の体の中で一番太く長い骨、「大腿骨(だいたいこつ)」があります。

 膝から下は、前方を「()こうずね」、後方を「ふくらはぎ」といって、まとめて「下腿(かたい)」といいます。ここは2本の骨があります。向こうずねを触ると骨がありますね。この骨は「(けい)(こつ)」といいます。脛骨の前は触るとわかるように、筋肉がなく、うすい皮膚(ひふ)があるだけです。

 もしもここに硬いものがぶつかると、ものすごく痛い! 昔々、(いくさ)にめっぽう強い弁慶(べんけい)さんという方がいました。でも、さすがの弁慶さんもここだけは弱点だったといいます。このことから、この部分を“弁慶の()(どころ)”と呼びます。あなたも気を付けてね。今度は下腿の外側をさわりながら手を下のほうにずらしてください。骨がぼこっと出ているのがわかりますか? 自転車でこけるとケガしやすいところ。ここは「外くるぶし」というのだけど、この骨は、脛骨とならんで膝まで達して、「()(こつ)」とよばれています。

 つまり、大腿には大腿骨1本、下腿には脛骨・腓骨あわせて2本の骨があるのですね。

足のしくみ

 では次に足をみてみましょう。足の裏と足の甲があります。むずかしい言葉だけど、足の裏は「足底(そくてい)」、足の甲は「(そく)(はい)」といいます。手のひらの中にあったのと同じように、ここにも5本の細長い骨、「中足(ちゅうそく)(こつ)」があります。足の指は手と同じ5本ですね。

 「手」のお話のときに、手首あたりに「手根骨」というのがありました。足にも同じような名前の骨、「(そっ)(こん)(こつ)」という7個の骨があります。足根骨はさすが足の骨というだけあって、手とはくらべものにならないくらい大きな骨です。足の後ろがわ、つまり(かかと)をさわってごらん。硬くて大きな骨がありますね。これは踵骨
しょうこつ
(といって、足根骨の一つです。とても大きくて立派ですね。

 ちなみに踵は、走ったり歩いたりするときに大活躍するアキレス(けん)という太くて丈夫な腱がくっつく場所です。アキレス腱もさわってみましょう。ときどきスポーツ選手がアキレス腱を切ってしまいます。とっても痛いでしょう。もしアキレス腱を何かの拍子(ひょうし)で切ってしまうと、つま先立ちができなくなります。

踵骨にくっつくアキレス腱。踵骨は足根骨の一部。アキレス腱は腓腹筋と踵骨を結んでいる。アキレス腱は、ときどきスポーツ選手が何かの事故で切ってしまうことがある。アキレス腱を切ってしまうと、つま先立ちができなくなる。

足首が変な方向にぐねると…

 次は足首を動かしてみましょう。いかがですか?

 足首の動きは、本来、曲げる・伸ばす、そして少しばかり左と右に動く程度です。ところが、スポーツをしていると、ときに足首に強い力がかかり、変な方向にぐねってしまうことがあります。これもとても痛い!

 ぐねり方が特にひどいことを「()伸展(しんてん)」といって、それによって痛めた状態を「捻挫(ねんざ)」といいます。体を動かすことはとてもいいことですが、足首の捻挫には十分気をつけましょう。

足の指は器用でない

 さて、足の指の骨の数は手と同じで親指が2個それ以外の指が3個合計14個です(小指が2個の骨の方も特に日本人で多くいらっしゃいますが)。

 しかし、手と違ってすべての足の指はまっすぐ生えています。だから、人間の足の指は手の指とちがって対向(ついこう)第18話「手」参照
さんしょう
)ができません
。それに比べて、サルの足は対向に近い動きができるものがいて、木登りや足の指をつかった道具の使用がとても上手です。つまり、足の器用さでいえば、人はサルに負けてしまいますね。

人間にある足のすぐれた構造

 そのかわり、人間の足には別のすぐれた構造があります。足底の真ん中に「(つち)()まず」という場所があります。小さな子はまだはっきりと確認できないけれど、体が成長していくとあらわれてきます。

 足をべったり地面につけても土踏まずは地面に触れることができず、横から見るとそこが少しもり上がったように見えます。これは、上向きにカーブをえがいた橋(アーチ)のような形であることから、「足のアーチ」といいます。走ったり、歩いたり、跳ねたりすると、人間の体の全体重が足にかかりますが、足のアーチがバネのようにクッションとなって体重を支えてくれます。このおかげで、人はとても長い距離を歩くこともできるのです。すごいでしょ!

足のアーチの様子。足のアーチがバネのようにクッションとなって体重を支えてくれる。これで人はとても長い距離を歩くこともできる。

膝の骨の役割

 それでは、もう一度(ひざ)を触ってみましょう。

 ここに丸く大きな骨があることに気づくと思います。 そう、よく「おさら」って呼ばれる骨。この骨は「膝蓋骨(しつがいこつ)」といいます。この骨のおかげで大腿と下腿の曲がる方向が限定されます。つまり、足をピンと伸ばした状態から膝を曲げると曲がる方向はいつもお尻側でしょ? お腹側に曲がらない、もし曲がったらちょっと怖い。そう、膝蓋骨が膝をお尻側にだけ曲がるように、制限してくれているのですね。

大きく発達している脚の筋肉

 脚(下肢)の筋肉は、体の他の部分の筋肉と比べるととても大きく発達しています。大腿の前を触ってごらん。この大きな筋肉は「大腿(だいたい)四頭筋(しとうきん)」といって、膝を伸ばす運動を行います。

 そして大腿の後ろ側には3つの大きな筋肉、「半膜(はんまく)様筋(ようきん)半腱(はんけん)様筋(ようきん)大腿(だいたい)二頭筋(にとうきん)」まとめて「ハムストリングス」という筋肉が膝を曲げる運動をします。

 下腿にいけば、脛骨と平行する筋肉の「前脛(ぜんけい)骨筋(こつきん)」、後ろ側のふくらはぎには「ヒラメ筋と()腹筋(ふくきん)」という筋があります。ヒラメ筋と腓腹筋の下は「アキレス腱」となって(かかと)にくっつきます。これらの立派な筋肉があなたの体重を支え、飛んだり跳ねたり走ったり歩いたりなどの動きを行うのです。


大腿部の筋肉。体の他の部分の筋肉と比べとても大きく発達している。前側は大腿四頭筋が、後ろはハムストリングスとよばれる半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋がある。図にはないが、膝よりしたにも発達した筋肉、前側に前脛骨筋、後ろ側に腓腹筋、ヒラメ筋がある。

座るときに注意すること

 さて、あなたは普段、“座り方”って気にしていますか? 座るという行為は足(下肢)を休ませる姿勢をとることですが、だからといって足を完全に自由にしていいわけではありません。足(下肢)をどのような形で(おさ)めるかによって座り方が決まります。

 座り方は「お行儀(ぎょうぎ)」といって礼儀(れいぎ)作法(さほう)の一つですから、たくさんの人が集まる行事のときは特に注意しましょう。もちろん足(下肢)以外のお行儀も大事だけど、足は体の中で一番長い部分だから、どうしても目立つのです。

まとめ

 いかがでしたか? 「あし」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 くれぐれも脚で、お友だちや物を()ったり壊したりしてはダメですよ。もしもあなたの周りで脚の不自由な方がいらしたら、あなたの手をそっと差し伸べて助けてあげましょう。

 大切にしましょうね、あなたの「あし」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

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