連載《人体MAPS》 第8話「歯」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「歯」です。

歯はなんのためにある?

 あなたの「歯」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

  そう。歯は口の中にありますね。

 では、歯はなんのためにあるのでしょう。歯はものを()むこと、ご飯やおやつを食べること、袋をかみちぎって破ること、そういうことをするために歯があるのですね。

 それ以外にも、声をつくることに関与したり、ニコリと笑顔をつくること、または怒ったときの怒りの表情を出すときにも歯は役立ちます。歯があるって、すごく便利!

 もし、歯がなかったら? ご飯を食べることも声をつくることも顔の表情を出すこともできません。だから、歯がなかったらとても不便です。

子供の歯(乳歯)

 ところであなたは、生まれたての赤ちゃんには歯がないことを知っていますか? 生まれたての赤ちゃんはおっぱいやミルクを飲んで育つから、歯がなくても平気です。でも、いつか、ある程度(かた)さのある食べ物を自力で噛んで食べていかないといけない。そこで、生まれて6~8カ月()った頃から歯が生えはじめます。3歳頃までには生えそろうこの歯を「子供の歯」と呼んでいますが、正しくは「乳歯(にゅうし)」といいます。

 乳歯は形や特徴から5種類の歯があって、この5種類のセットが左下、右下、左上、右上の歯ぐきからそれぞれ生えるため、5+5+5+5を計算して、合計20本の歯となります。あなたの歯は今何本ありますか? 一度数えてみてください。

 歯の形にはずいぶん(ちが)いがあって、前歯はものを切るために便利な形の「切歯
せっし
」、奥歯はものをすりつぶすために便利な形の「臼歯
きゅうし
」と呼ばれ、それぞれの役割に適した形になっています。 乳歯は、幼稚園の年長から小学校入学前くらいに、早く生えた歯から抜けはじめます。そして、歯の抜けた場所からは大人の歯、つまり永久歯(えいきゅうし)が生えてきます。

大人の歯(永久歯)

 永久歯は乳歯よりもたくさん生えます。子供が成長するにしたがって頭全体が大きくなって、それにともなって歯の生えるスペースである「
あご
」も大きく成長します。永久歯は、もともとあった乳歯の下から少しずつ成長して大きくなるため、乳歯をおし上げます。そのため、永久歯が生えはじめると同時に乳歯はぐらぐらして、やがて乳歯は抜けてしまいます。

 あなたは、永久歯は全部で何本あるか知っていますか? 永久歯は8種類の歯があって、これが左下、右下、左上、右上の歯ぐきにそれぞれ生えるから、8+8+8+8で合計32本の歯となります。永久歯は乳歯よりもたくさんあって、そして大きく、硬い。だから、子供よりもたくさん硬いものを食べることができるのです。

左が子供の歯(乳歯)、右が大人の歯(永久歯)。本数は、乳歯が20本、永久歯が32本。乳歯は生後6~7か月頃から生え始め、3歳くらいまでには生えそろう。歯は、その形によって固有の名前がついている。つまり、切歯、犬歯、臼歯(小臼歯、大臼歯)、智歯(親知らず)などと呼ばれる。永久歯は6歳頃から第1大臼歯(6歳臼歯ともいう)が生えてくることから始まり、切歯、犬歯、小臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯の順に生えかわっていく。一番奥の歯(親知らず)は18歳から40歳くらいに生えはじめる。乳歯が抜けても永久歯が生えてくるが、永久歯が抜けると次の新しい歯は生えてこない。だから、永久歯はとても大切にしないといけない。

 ちなみに、永久歯のいちばん奥(前から8番目)の左右上下4本の歯は「()()」といって生えるのがいちばん遅い歯です。だいたい20歳を超えた頃から生えはじめるのだけど、昔はその年齢になると親がいないことが少なくなかったことから、智歯のことを「(おや)()らず」と呼ばれてきました。親知らずは18歳から40歳くらいに生えはじめますが、最近では生えない人もいるとか。それはなぜでしょう。

 実は、硬いものを食べなくなったせいで顎が小さくなり、歯が生えるスペースがせまくなったせいだと言われています。あたなは硬いものを自分の歯でしっかり噛んでいますか?

歯の構造を見てみよう

 歯はどのような構造になっているのでしょうか?  少し難しいけれど、がんばって見ていきましょう。

 まず、私たちが普段口の中から見えている歯の部分がありますが、これを「()(かん)」といいます。そして、歯ぐきの中に()まっていて口の中からは見えない部分があります。この部分を「歯根(しこん)」と呼んでいます。歯根の大部分は顎の骨の中にはまり込んで歯と顎の骨が硬く結合しているため、そう簡単には歯は抜けないようになっています。

歯の断面図。歯は、外から見える部分の歯冠、歯ぐきの中に埋まっている歯根に分かれる。歯は、エナメル質、ゾウゲ質、歯髄の3種類の組織からできており、一番表面のエネメル質は非常に硬く丈夫なつくりになっている。歯には食べかすが付着したり、つまったりするため、歯みがきなどの歯の手入れは欠かせない。歯にものがつまった状態や不潔な状態で放置しておくと、むし歯菌が繁殖してしまう。歯や歯の周りの歯を支えるところがむし歯菌におかされると、むし歯(齲歯)や歯周病になってしまい、痛みが生じる。むし歯や歯周病は、痛みだけでなく歯を失う原因にもなってしまう。

 歯そのものは、表面からエネメル質、ゾウゲ質、()(ずい)という3種類の組織で出来ています。ちなみに、エネメル質という組織は歯の中で最も硬く、石でも特に硬くて丈夫な水晶(すいしょう)という石にも負けないくらい硬いと言われています。

 歯髄の中には、歯根の先端にある小さな孔から入ってくる血管や神経があります。歯も生き物ですから、神経や血管によって生命活動の営みが行われているわけです。

歯が痛くなると?

 あなたは歯が痛くなったことはないかな? もし歯が痛くなったら、それはむし歯かもしれない。むし歯は正確には「齲歯
うし
」といいます。

 いつも甘いものばかりを食べていたり、食べカスなどが歯に付いたまましばらく放っておいたりすると、それを栄養にするむし歯(きん)がたくさんふえて、やがて歯の表面を溶かして黒くしていきます。歯の中には、神経という痛みを感じる細胞があるから、むし歯菌が神経の場所まで歯を溶かしてしまうと、そこに食べものがあたってすごく痛い。

 むし歯は放っておいても自然に治ることはありません。歯が痛いとか、うずくとか、浮いた感じがするとか、歯が欠けたりした場合は必ず歯医者さんに()てもらいましょう。

歯を支えるところ

 歯の周りには、歯を支えるための「歯ぐき」、正しくは「()(にく)」という組織があります。歯の周りの歯肉に悪いばい菌が増えて、歯ぐきの中の骨を溶かすという怖い病気があります。これを「()周病(しゅうびょう)」といいます。

 歯周病がどんどん悪くなると、歯を支えきれず、歯が揺れ動いて(動揺(どうよう)という)、とうとう歯を失ってしまうことだってあるのです。ですから、毎日しっかり歯磨きをして、むし歯や歯周病の原因菌を追い出そうね。

 ヒトの場合、残念ながら、もし永久歯をむし歯などで一度失ってしまうと、また生えてくることはありません

歯の並び方も大事!

 歯はまた、その並び方、つまり「歯並び」もとても大切です。歯並びが悪いと、口を開けたときの見た目が悪いだけでなく、歯と歯の間に食べカスがたまりやすく、歯垢(しこう)歯石(しせき)というむし歯や歯周病の原因になる悪い物質ができたり、上の歯と下の歯のかみ合わせが悪くなることで食べ物をうまくすりつぶせなかったり、舌を噛みやすくなるなど、よくないことばかり。

 だから歯並びはとても大切です。ぜひ、歯医者さんに定期的に()てもらいましょう。

よく噛んで健康アップ!

 あなたは「ひ・み・こ・は・歯・が・い・ーぜ」というよく噛むことで健康(けんこう)アップを目指そう!のスローガンを聞いたことありますか?

 「ひみこは歯がいーぜ」に含まれる「ひみこ」というのは日本の歴史に出てくる「卑弥呼(ひみこ)」のことなのでとても覚えやすいです。そう、このスローガンは、ゴロ合わせになっています。

“「ひ」:肥満(ひまん)予防、「み」:味覚(みかく)発達(はったつ)、「こ」:言葉の発音はっきり、または小顔になる・歯並びがよくなる、「の」:脳への血流アップ、「歯」:唾液をたくさんだしてむし歯予防、「が」:がんの原因物質を消去、「い」:胃や腸の消化がスムーズ、「ぜ」:全力投球!”。

出典/月刊『学校の食事』ホームページ

 丈夫な歯でしっかり噛めば、体にとってたくさんいいことがあります。すこやかな歯でずっと噛み続けることを、心がけたいものですね。

歯を失うと?

 ただ、残念ながら、ちゃんと歯の手入れをせずに年をとってくるとだんだん歯は抜けてきます。あなたのおじいちゃんやおばあちゃんは入れ歯を使われていませんか? 永久歯が抜けてしまうと、三度目の歯は生えてこないから「入れ歯」っていう歯医者さんがつくってくれた“歯の代わり”を口の中に入れて食べ物を噛めるようにするのです。

 だから、自分の歯があるって、実はすごく幸せなことです。 ちなみに、海の中で泳ぐサメは、歯が抜けても何度でも抜けた歯の後ろからまた新たな歯が生えてきます。人間にはうらやましい能力をもつ生き物がいるもんですね。

「歯」がつく言葉

 「歯を食いしばる」という言葉を聞いたことがありますか? これは、上の歯と下の歯をかみあわせてグッ!と力を入れることだけど、この言葉は、「がまんする」とか「のりこえる」という意味もあります。

 あなたが、「ここは頑張らないと!」とか、「痛いけど我慢(がまん)!」というとき、歯をグッと噛みしめるでしょ? それをすると、すごく力が出る。これから頑張るときは、ぜひ、グッと歯を食いしばって、たくさんの力を出して頑張ってください。

まとめ

 今日のお話をまとめると、口の中にはものを噛むための歯がある。歯は20本の乳歯と32本の永久歯がある。永久歯が抜けると人間の場合は再び生えることはない。歯の病気であるむし歯や歯周病にならないように、毎日の歯みがきは欠かさず行うこと。

 いかがでしたか? 「歯」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「歯」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

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