連載《人体MAPS》 第18話「手」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは)です。

手はどこにある?

 あなたの「手」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 そう。手は左と右に1つずつ、合計2個あります。 手には5本の指と、手のひら、手の(こう)があります。むずかしい言葉で手のひらを「(しゅ)(しょう)」、手の甲を「(しゅ)(はい)」といいます。

 ちなみに、手から(ひじ)までの間の腕を「前腕(ぜんわん)」、肘から肩までの間の腕を「上腕(じょうわん)」、前腕と上腕をあわせて「(うで)」、「腕」と「手」をあわせて「上肢(じょうし)」といいます。

手とともに腕の中も見ていこう

 さて、ここで問題です。上腕と前腕にはそれぞれ何本の骨があるでしょう。

 答えは、上腕に「上腕骨(じょうわんこつ)」と呼ばれる骨が1本、前腕に「(しゃっ)(こつ)」と「(とう)(こつ)」と呼ばれる骨が1本ずつ合計2本あります。ちなみに、橈骨はお父さん指がある側の骨と覚えておきましょう。おもしろいことに、「上腕の骨1本、前腕の骨2本」という骨の成り立ちは、骨を持つすべての生物で共通する基本構造です。

上肢にある骨。上腕骨は上腕にある骨で、肩甲骨と関節をつくってつながる。上腕骨の先へは前腕と続き、この中に橈骨を尺骨という2本の骨がある。橈骨と尺骨の先に手のひらや指をつくる手の骨がある。

手の中の骨

 さて今回のお話は、上肢の中の「手」に注目したお話です。

 まず手のひらを見てください。ここは皮膚に覆われて中が見えないけれど、実はこの中には指の骨と同じくらいの細長い5本の骨、「中手(ちゅうしゅ)(こつ)」が入っています。

 次に、手のつけ根の辺りを触ってみましょう。なんかごつごつした骨がいくつかあるのがわかるかな? この部分は、サイコロ状の小さな8つの骨が集合して、いわゆる手首の骨を構成している。この骨をまとめて「(しゅ)(こん)(こつ)」といいます。手根骨は生まれたばかりのときはまだ軟骨という柔らかい骨だから、赤ちゃんの手首はすごく柔らかい。

 手根骨は成長とともにゆっくり硬い骨になっていくのだけど、骨の完成は意外に遅く、なんと12歳くらいでやっとできあがります。そして8つの手根骨が硬い骨になる順番はおよそ決まっていて、その出来具合によって子供の年齢を推測(すいそく)することができます。

手根骨の成長。手根骨は8つあるが、生まれた時点ですべて骨になっているのではなく、成長とおもに骨が形成されていく。12歳くらいできあがる。8つの手根骨が硬い骨になる順番はおよそ決まっていて、その出来具合によって子供の年齢を推測することができる。

手で占い?

 では手をパーにして、手掌を見てみましょう。手相が見えますか?

 手相には、感情(かんじょう)(せん)生命(せいめい)(せん)頭脳(ずのう)(せん)運命(うんめい)(せん)(きん)(うん)(せん)結婚(けっこん)(せん)恋愛(れんあい)(せん)などいろいろな線があって、その線の模様は人によって異なります。手相からその人の今後(未来)を予測することを「手相占い」といいます。ただし、「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦」というように、あくまでも予想だからあまり占いの結果を気にしすぎない方がいいでしょう。それに手相は、年を重ねると変わりますから。

手のひらにある指紋

 では、手掌側の指の先にあるシワをよく見てください。何か模様があるでしょ。そう、「指紋(しもん)」ですね。

 あなたの指紋とおうちの人のを見比べてみましょう。よく見ると全然違うでしょう。実は、指紋も手相と同じで誰一人と同じ模様がありません。だから、犯罪や事件が起こったときの犯人さがしに(犯人の特定に)指紋が使われたり、携帯電話や銀行システムのログイン、外国への出入国など、その人だとわかる(あかし)身分証(みぶんしょう)(IDカード)」のかわりとして利用できて、すごく便利です。

5本の指の名前と役割

 それでは再び指を見てみましょう。あなたはすべての指の名前をいえますか? 太い指から順に、いってみましょう!

 小さいころは、「お父さん指、お母さん指、お兄さん指、お姉さん指、赤ちゃん指」と教わりましたね。今は、太い指から順に、「親指(おやゆび)人差(ひとさ)(ゆび)中指(なかゆび)薬指(くすりゆび)小指(こゆび)」、全部いえましたか?

 今度は、指の骨の数を数えてみましょう。例えば、人差し指を少し曲げてみると3つの部分に分かれることが確認できます。人差し指の中には細長い骨が3つあって、それらが列車の連結のように縦にならんでいるから、指を2か所で折り曲げることができる。もし人差し指の骨が3つではなく1つだけだったら、1本の棒みたいになって、これでは指を曲げることはできません。

 では5本の指の骨(指骨)が全部で何個あるか数えてみましょう。 15個と思う人? 14個だと思う人? それ以外だと思う人?

 気づきましたか? 親指だけ真ん中の骨がなくて、2個の骨でできています。よって、正解は14個です。最初の図もよく見て確認してみましょう。

 このように、すべての指はいくつかの骨の連結によってできているため指を曲げることができるのです。バットを(にぎ)る、お(はし)を持つ、お茶碗を持つ、お友だちと握手する、鉄棒にぶら下がる……など、たくさんの作業ができるのはこの指の骨と手のひらがあるおかげです。すごいね、手って!

動物の指はどうなってるの?

 ちょっと余談だけど、動物の中には指が5本ではないものがいます。ブタ、ウシ、シカ、カバは4本、サイやバクは3本、ウマは1本です。きっとその動物の生活にいちばん適した本数に進化(しんか)したのでしょう。

 それと、人間のように(つめ)がある動物もいれば、ウマのように(ひづめ)といって、爪が巨大化したようなものを持つ動物もいます。爪は指に力を入れるときに必要だから体の大切な一部です。

人の指の特殊な機能

 それではまた人間の手の話に戻ります。

 実は、人間の手って他の動物にはきっとまねできない特技があります。それが何かを知るのは簡単。手で「きつねさん」をつくってください。人差し指と小指がきつねさんの“耳”、親指と中指・薬指がきつねさんの“顔”になりますね。手でこの形ができるのはきっと人間だけでしょう。

 どういうことかというと、人間の指は、親指の先の内側(指の腹)と、それ以外のすべての指先の内側を向かい合せて触れることができます。これを「対向(ついこう)」といいます。これによって人間は道具をつくったり、使ったり、細かい作業をしたりと、いろいろと器用な動きができます。

 対向ができる理由は、親指が他の指と違って、指のつけ根よりもっと深い手のひらの部分から曲げることができるから。つまり、他の指よりも自由に動かせる範囲が多いつくりになっているからです。なんでも、指が行う作業のうち、半分以上は親指が関わるらしいので、親指が指の中でいちばんはたらきものといえますね。

親指の特殊な機能。親指はその特殊な構造によって、他の指より自由に動かすことができる。図のようにきつねをつくったり、ものを握ったりできる。こうして人間は細かな作業をしあり、器用な動きが可能となった。

コミュニケーションの手段としての手の役割

 手はさらに言葉を伝える手段、つまり言語としてのはたらきもあります。英語で言えば「ジェスチャー」。

 あなたはお友だちと話しているとき、自然に手を動かしながらお話していませんか? たとえば、普段の会話の中で出るいろいろな手のしぐさ、(おどろ)いたときに出る手を広げるポーズ、(うれ)しいときに出るガッツポーズやバンザイ、悪いことをしたときの手と手を合わせる“ごめんなさい”の形、これらは口から出る声とともに手の動きが合わさることで、あなたの気持ちや伝えたいことをより一層相手に伝わりやすくします。ですから、お話のときの手の動きって、とても大切ですね。

 さらに、耳の聞こえない人と会話をする方法に、「手話(しゅわ)」というのがあります。これは手の動きを中心に、(くちびる)や目の動きが合わさって耳の聞こえない人ともお話することができるとても便利な方法です。すごいね、手のはたらきって。

人差し指で人を指してもいいの?

 最後に、人差し指について1つ注意ね。人差し指という名前がついているからといって他の人に向かって指で差すのは決していいことではありません。これはときに相手を悪い気持ちにさせる行為になります。

 どうしても人に向かって手で示したいときは、1本の指ではなく5本の指をそろえてのばし、手のひらを上に向けながら動かすとていねいな対応になりますよ。

まとめ

 今日のお話をまとめると、手の指はものを掴んだり、握手したり、お箸を持ったりと自由な動きができる。これは指が2~3個の連結する骨でできていることと、対向という親指の先が他の指先の内側と向かいあわせで触れることができる特徴のおかげ。

 いかがでしたか? 「手」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 外から帰ってきたら、手にはたくさんばい菌がついているから、しっかり石鹸で洗いましょう。もしも手が不自由な方があなたの周りにいらしたら、そっとあなたの手を差しのべて助けてあげてね。くれぐれも、手は人を(たた)いたり、つねったり、パンチするためのものではありませんから注意しましょう。

 大切にしましょうね、あなたの「手」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

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