連載《人体MAPS》 第20話「骨」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマはです。

骨はどこにある?

 あなたの「骨」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 そう、骨は全身のいたるところにありますね。

 骨はあなたの体の中心にあって、とても硬く、あなたの顔や胴体、手足の形を決めているから、まさに体の(かなめ)です。

 お魚やお肉を食べていると、ときどき骨が出てきます。細くて小さな骨や、太くて頑丈な骨までいろいろあります。骨は植物にはありません。生物の中では「脊椎(せきつい)動物(どうぶつ)」とよばれる仲間に骨が含まれます。

カルシウムをとろう!

 骨の成長は体の成長と同じだから、子供はできるだけ骨の主な成分のカルシウムをたくさんとりましょう。カルシウムは、牛乳、チーズ、小魚、ひじき、モロヘイヤ、小松菜などに多く含まれています。特に牛乳やチーズは毎日欠かさずとりたい食べ物です。

人間の骨は何個ある?

 あなたは、人間の骨は全部で何個あると思いますか? 子供と大人では少し違うのだけど、大人の骨はおよそ200個あります。たくさんあるでしょ? 骨の大きさ、形、長さは場所によってさまざまで、人間の体で一番大きい骨は、太ももにある「大腿骨(だいたいこつ)」、一方、最も小さい骨は、ほんの数ミリしかない耳の中にある「()小骨(しょうこつ)」です。

全身の骨。人間の大人の骨は全部で約200個ある。子供の骨はまだすべて骨になっていないものもあるため、大人の数とは異なる。一つの骨で最も大きい骨は大腿骨。最も小さな骨は耳の中にある耳小骨である。

骨は何をしているの?

 骨は、体を支えたり、内臓や脳を守ったり、体を動かすときなどに活躍するからとても丈夫につくられています。骨の表面には痛みを感じる神経細胞がたくさんあります。だから、骨にものがぶつかったり、運悪く骨を折ったりするとその人は痛くて痛くてたまらない。とくに足の小指や“弁慶の泣き所”(第19話「あし」参照)にものをぶつけると泣きたいほど痛いですね。

まだある骨の役割

 実は、骨の役割ってこれだけではありません。

 骨の表面は硬くて丈夫な材質なのだけど、骨の中心部分は実は空洞です。この空洞は「髄腔(ずいくう)」といって、ここに「骨髄(こつずい)」と呼ばれる特別な成分が含まれます。骨髄というのは、「造血(ぞうけつ)(かん)細胞(さいぼう)」という血のすべての細胞、つまり赤血球(せっけっきゅう)白血球(はっけっきゅう)血小板(けっしょうばん)を生み出すことができるすごい細胞がいる場所です。

 だから骨のもう一つの大切な役割は、「()血液(けつえき))の細胞」をつくることなのです。

骨の中でつくられる血液の細胞。骨の中は骨髄といって、血液細胞をつくるおおもとの細胞である造血幹細胞という細胞がいる。この細胞が赤血球、白血球、血小板といった血液細胞を生みだす。骨は、体を支えたり保護するだけじゃなく、血の成分も作っている。

骨は変わらないようで変わっている

 骨は、子供のときは太さや長さがどんどん成長して、硬くもなっていく。ところが、骨は大人になっても、長さや太さこそ変わらないけれど、骨の“成分”はダイナミックに変化しています。

 どういうことかというと、骨はつねに作り()えられています。つまり、古い骨は壊され、また新しく骨が作られる、これをずっとずっと見えない小さなレベルで繰り返しています。どうしてこんな一見ムダなことをしているのでしょうか。

 骨の中は、さっきもいったカルシウムがたくさん含まれます。そのカルシウムは骨そのものの材質なのだけど、実は私たちの細胞の栄養素でもあります。すると、細胞がカルシウムを欲しがっているとき、骨は骨自身を溶かしてでも細胞にカルシウムを送り届けてくれます。逆に細胞のカルシウムが充分足りているときは、余ったカルシウムが骨に戻されて新たな骨の材質として蓄えられるのね。

 骨は必要なときに必要な分のカルシウムを細胞たちに届けてくれる、まさに“カルシウムの銀行”なのです。

骨は常に作り変えられる。骨は骨自身を溶かして古くなった骨を削って細胞にカルシウムを届ける。削った部分は骨にカルシウムが戻され新たな骨の材質として蓄えられる。骨は“カルシウムの銀行”とよべる。

骨折をしたことある?

 さて、あなたは骨折(こっせつ)をしたことありますか?

 骨折というのは骨が折れることですね。たとえば、高い所から落っこちたり、ものにぶつかったり、車に引かれたり、自転車からこけたりすると、子供はまだ骨がそれほど丈夫ではないから、折れることがあります。でも、さっきいった骨の常に新しく作り替える能力のおかげで、きちんと病院で治療すれば元通りに治すことができます。

骨と骨のつなぎ目、関節について

 さて、「手」のお話で、指を曲げるというお話がありました。ここではさらに、骨と骨のつなぎ目に注目しましょう。

 骨は硬いから、体を動かすたびにつなぎ目にある骨と骨が()れてしまう。骨の表面には痛みを感じる神経がたくさんあるから、骨が直接擦れると本来はものすごく痛いはず。そこで、骨と骨のつなぎ目で骨どうしが擦れるところは「関節(かんせつ)」という特殊(とくしゅ)な構造になっています。

 関節の向かいあう骨の表面は、軟骨(なんこつ)という柔らかい骨になっています。軟骨は弾力があって(なめ)らかだから、直接こすれあっても痛くないわけです。もし軟骨がなかったら、運動するたびに硬い骨と硬い骨が直接ぶつかり合ってしまう。最悪の場合、骨が()れてしまう。だから軟骨も体の大切な一部分です。

年を取ると…

 人間は年をとると、だんだん骨が弱くなってきます。軟骨もすり減ってきます。これを骨粗鬆症(こつそしょうしょう)というのだけど、なぜこんなことが起こるのか。

 骨の成分であるカルシウムは、細胞にとっての大切な栄養素だから、骨は骨そのものを弱らせてでもカルシウムを細胞に届けます。残念ながら、年をとると運動量も減って、きちんとカルシウムを摂取していてもなかなか骨になりません。だから、高齢になると骨が弱くなってきて、骨折しやすくなります。骨折して立てなくなって、「寝たきり」という状態になることもあるのです。

 おじいさん、おばあさんになってもそんな風になりたくない! そう思うのなら、あなたはできるだけ今のうちに骨を丈夫にしておくといいでしょう。しっかりカルシウムを()って、運動を行う。すると、体は骨をたくさん作るようになるから、しっかりとした丈夫な骨が作られていきます。つまり、できるだけカルシウムの貯金をふやしておくことが大事ってことだね。

まとめ

 今日のお話をまとめると、骨は私たちの体の中心にあって体を守ってくれたり、動かしたり、人間の体の形を作る。そしてカルシウムをため込み、必要に応じて細胞に送り届ける。さらに骨の中の空洞(髄腔)には血の細胞を作る造血幹細胞がいる場所、骨髄がある。骨と骨のつなぎ目は関節となって、軟骨によって骨との接触をやわらげる。

 いかがでしたか? 「骨」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「骨」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

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