連載《人体MAPS》 第22話「皮膚」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは皮膚
ひふ
です。

皮膚はなんのためにある?

 あなたの「皮膚」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 皮膚は全身のいたるところにあって、つねったり、なでたり、たたいたり、何かとふれることは多いものです。そんな皮膚は、さわったりなでたりすると気持ちのよいものです。

 皮膚は体のほとんどの部分を(おお)っていて、大人だと約9kgもあるそうです。そしておよそ数mmの厚さがあって、とても丈夫(じょうぶ)です。皮膚は表面から、角質層(かくしつそう)顆粒層(かりゅうそう)(ゆう)棘層(きょくそう)基底層(きていそう)といって、平たいものや丸い細胞が積み重なって分厚くできています。かといって硬い骨とは異なり、やわらかく、少し伸びたり移動できたり弾力があるから、ものにぶつかっても皮膚がやわらげてくれます。

体の表面を覆う皮膚の構造。皮膚は厚く丈夫に作られている。皮膚の表面から、細胞の形によって角質層、顆粒層、有棘層、基底層に分かれる。基底層の細胞はどんどん分裂して、図の上の層へ移動していくことで各層が新たに作りかえられる。最終的に角質層の細胞は垢としてはがれ落ちる。

もし皮膚がなかったら?

 もしも皮膚がなかったら、体の中にある筋肉や血管、神経などが丸見えになってしまいます。だから皮膚は絶対に必要な体の一部です。

 皮膚は体を(おお)うこと以外に、他に何か役割があるのでしょうか。

 まずは、体をばい菌から守ることが挙げられます。 あなたの身の周りには、目に見えないたくさんのばい菌がいます。もしも皮膚がなければ、そのばい菌があなたの体の中に簡単に入ってくるでしょう。すると病気になってしまう。これではまったく生活ができません。

 ばい菌以外にも体に入ってはいけない小さなものがあちらこちらに落ちています。だから皮膚はそういうものが体の中に入らないようにしっかり守ってくれているのですね。

皮膚からでる垢

 ところで、皮膚の表面は毎日きれいに洗っていても(あか)がでます。この垢は、皮膚の表面から()がれた古い皮膚細胞の死骸(しがい)です。

 実は、皮膚はとてもはやいスピードで古い細胞から新しい細胞にどんどん置き換わっていて、常に新しくつくりかえられています。ケガをしてもしばらくすると傷が治るのは、皮膚のこの特別な性質のおかげです。

皮膚をもう一度見てみましょう

 ここで、あなたの皮膚をもう一度見てください。

 実は皮膚の表面というのは目に見えない細菌がたくさんいます。もちろん、病気を引き起こす菌もあるけれど、多くは病気を引き起こさない、むしろ皮膚から悪い菌が入ることを防いでくれる菌です。この菌のことを常在(じょうざい)細菌(さいきん)といって、これらの菌がしっかり縄張(なわば)りという名のバリアーを張って、外から来た悪い菌を追い出してくれるのです。すごいでしょ!?

 それ以外にも皮膚はいろいろな分泌液
ぶんぴつぶつ
を出します。その最も代表的なものが「」です。ふつう汗は暑いときに出るけれど、手に出る適度な汗はものをつかむときの“(すべ)り止め”になったり、ばい菌を分解する成分を含んでいたりと何かと便利です。

 とにかく皮膚は体の周りを覆っているだけでなく、悪いばい菌を体の中に侵入させないはたらきもあるのです。

皮膚からはいろいろな分泌液がでる。代表的なものが「汗」。手に出る適度な汗はものをつかむときの“滑(すべ)り止め”になったり、ばい菌を分解する成分を含んでいたりと何かと便利。体に悪いばい菌を体の中に侵入させないはたらきもある。皮膚からは汗の他にも、脂肪酸などばい菌がきらう液を分泌している。

手を観察してみましょう

 それでは、手の皮膚をみてみましょう。(しゅ)(しょう)(手のひら)と(しゅ)(はい)(手の甲)の皮膚、少し様子が異なります。

 手掌の皮膚は厚くつくられ、手背にくらべると汗が出やすくなっています。これはものを(つか)むときにとても便利です。手背をよくみると「毛」が生えていますね。逆に、手掌に毛はありません。もしも手掌に毛があったら滑ってものをうまく掴めませんね。

 手背側の指先には「(つめ)」が生えています。爪は、皮膚よりうんと硬いけれど、実は皮膚が特殊に変化してできたものです。指の曲がる向きを考えると、爪が手掌がわにはなく手背がわにある理由がわかりますね。

皮膚から生える毛

 皮膚から生える毛は、場所によってその量が異なります。あなたは頭から生える毛以外に目立った毛はないと思うけれど、大人になると頭以外にも毛が生えてきます。一般には、男の人の方が女の人より毛が生える範囲が広くなる傾向があります。

 毛は、髪の毛のように「頭を守る」という機能もあるけれど、実は保温(ほおん)といって、体の表面の温度を逃がさないようにする効果もあります。ただ、人間はサルやチンパンジーと違ってそれほどたくさんの毛があるわけではないから、保温効果といってもそれほど高くはありません。でも、「鳥肌(とりはだ)」といって、寒いときやゾクゾクしたときに皮膚表面が鳥の肌のようにぶつぶつした模様になることがあります。これは一種の体温を逃がさないようにするための皮膚の反応なのです。

皮膚の色の違い

 ところで皮膚は、人によって色に違いがあります。日本人は黄色(おうしょく)人種(じんしゅ)といって、白っぽい色から茶色っぽい色の皮膚の人が多いけど、世界には真っ白な人もいれば、真っ黒な皮膚の色をもつ人がいます。

 この皮膚の色は、その人が住む地域の太陽の光の強さと関係があります。 赤道といって、地球の中で太陽の光が強い地域に住む人の皮膚は黒いことが多い。これは、太陽の中に含まれる紫外線(しがいせん)という有害な光を皮膚の奥にある細胞まで入れなくするためです。黒い色というのは、光を「吸収(きゅうしゅう)」する(光を通り抜けにくくする)性質があります。つまり、皮膚の色を()くして紫外線が体の中に入らないようにしているのですね。

 逆に、北極や南極に近い場所だと太陽の光が少ないから、紫外線の量も少ない。だからその地域に住んでいる人の皮膚の色は白いことが多いのです。

ほくろ

 それから、私たちの皮膚にはほくろがあります。ほくろの場所や大きさや数は人によって異なります。私たちの皮膚には黒い色素(メラニン色素)をつくる細胞があちらこちらにあるのですが、ほくろはこの細胞が変化して、他のところよりもたくさん集まることことで見た目の黒いかたまりとなって見えたものです。

ほくろはメラニン色素をつくる細胞の特殊なかたまり。皮膚表面のいろいろなところにできる。人によって、数や大きさは異なる。

皮膚の感覚はすごい!

 それ以外に、皮膚はたくさんのことを感じる”感覚器“としてのはたらきもあります。

 熱い、冷たい、痛い、かゆいなど、いろいろな感覚を感じることができます。これによって、例えば自分の体にとって害になるような虫や、やけどするほど熱いものなど、近づいてはいけないものからすばやく身を遠ざけることができる。そしてもっとすごいのは、識別(しきべつ)(かく)といって、手で触ったものが何かを見なくてもすぐに判別できます。たとえば、あなたは握手しただけでその手がお母さんの手なのか、お父さんの手なのか、見なくてもわかるでしょ?

 「点字」といって、目が見えない人のための文字の表記法があります。点字は小さな点のあつまりだけど、それが言葉としての意味を持ちます。訓練(くんれん)すれば、点字を指先でさわるだけで何が書いてあるかを読み取れるそうです。点字は、電車の切符売り場など、実は私たちの身近なところにたくさんあります。

点字。電車などの公共交通機関では、駅名が書いてあるところに小さな点のブツブツがある。これを指で触れることによって、目が見えない人(視力を失った人)でも訓練すれば何が書いてあるか分かるようになる。指はブツブツを読み取り、そこに何が書いてあるか識別するのだ。

皮膚は体温も調節している

 最後に、暑いときも、寒いときも、私たちは体温を一定に保つことができますが、皮膚はこの体温を一定に保つためのとてもすぐれた体温調節装置でもあります。このことについては、また「体温」のお話のところで。

まとめ

 今日のお話をまとめると、皮膚は体の表面を覆い、外から進入する体の害になるものを入れさせないはたらきがある。皮膚表面には、常在細菌やばい菌がいやがる分泌液が出て、悪いばい菌の増加を防ぐ。皮膚の色は太陽の紫外線の侵入を予防する。皮膚は実にいろいろな感覚を感じることができるすぐれた感覚器であり、体温調節装置でもある。

 いかがでしたか? 「皮膚」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 くれぐれも人の皮膚をつねったりたたいたり、傷つけたりしてはダメですよ。 大切にしようね、あなたの「皮膚」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

第19話「あし」

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