連載《人体MAPS》 第21話「筋肉」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは筋肉(きんにく)です。

筋肉はどこにある?

 あなたの「筋肉」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 といいつつも、筋肉も骨と同じ、全身どこにでもありますね。力もちのあなたは、腕を曲げると上腕(じょうわん)に立派な力こぶをつくることができますか?

 筋肉ムキムキのことを「マッチョ」といいます。ぜひ、おうちの人やお友だちと立派な筋肉を見せあいっこしましょう。

筋肉は何個ある?

 さて、人間の体の中には、大きな筋肉、小さな筋肉を含めて、なんと400個以上も筋肉があるといわれています。骨の数が約200個だから、筋肉の数は2倍ですね。また、すべての筋肉の重さは、体重の40%もあります。

 ちなみに骨が体重の20%だから、骨と筋肉を合わせると、なんと体の60%を占めます。私たちの体の半分以上が骨と筋肉でできていることがわかりますね。

全身の筋肉。人間の体の中には、大きな筋肉、小さな筋肉を含めて400個以上も筋肉があるといわれている。すべての筋肉の重さは、体重の40%もある。骨が体重の20%だから、骨と筋肉を合わせると体の60%を占めることになる。私たちの体の半分以上が骨と筋肉でできている。

筋肉のはたらき

 さて、こんなに体の中にたくさんある筋肉のはたらきといえば何でしょう? そうですね、運動、つまり体を動かすことがいちばん大切な役割です。

 運動には、()げる、()ばす、(ひら)く、()じる、ねじる、回転(かいてん)するなどいろいろな動き方があって、これらはみな筋肉の動きによって起こすことができます。ちなみに、動きがなくても、「支える」のように力を入れながらそのまま維持(いじ)保持(ほじ))することも筋肉の役割の一つです。

 体の運動といえば、「骨」の役割でもあります。骨は体を支えるために太く硬く丈夫なつくりになっています。しかし、骨自身が実際に動くわけではありません。動くのは筋肉です。つまり、筋肉が動くものであって骨は動かされるもの。もちろん筋肉だけあっても身体は動くことできませんから、骨という硬くて丈夫な“骨組み”に筋肉が張り付いて、骨と筋肉が協力して、体の運動を行います

筋肉が動くとはどういうことか

 それでは、「筋肉が動く」とはどういうことなのでしょうか。実は、複雑そうに見えて簡単。筋肉は、ただ「収縮(しゅうしゅく)する」、それだけを行います。収縮というのは、縮むことですね。びよーんと伸びた筋肉があれば、それが縮む。関節をまたいだ筋肉の両端に骨がついていると、筋肉の縮みによって骨どうしが近づく。こうして、例えば腕を曲げたり、伸ばしたり、ねじったりする動きができるのです。

 では、筋肉の「収縮」はどのように起こるのでしょうか。実はこれはちょっとむずかしい。ここで小道具を使った説明をします。(かみ)()をとく「くし」を思い出してください。くしを左手と右手に1本ずつ持った状態で、くしのとく側、つまり歯のある側どうしを併せていくと、くしの1本1本の歯が互いに相手の歯の間に入り込む。すると、2本のくしの距離が近づきます。

 筋肉の細胞の中にもくしの歯のような線維(せんい)がたくさんあって、線維どうしが互いの隙間に入り込むことで筋肉の長さが短くなる(収縮する)のです。 筋肉が収縮することで運動はもちろん、実は熱も発生します。筋肉が収縮するときには、ATP(エイティーピー)というエネルギーがつかわれますが、そのエネルギーはすべて収縮活動に使われるのではなく、一部は熱となって体を温めることに使われます。だから、運動をするということは、それと同時に体を温めることにもなるのです。

筋肉の収縮のしくみ。筋肉の中のアクチンフィラメントとミオシンフィラメントとよばれる櫛(くし)の歯に相当する部分が、お互いのすき間の中に滑り込んで入り込み、このことでお互いのフィラメントのどうしの距離が短くなる。全体的にみると、収縮する。収縮にはATPがつかわれるが、そのエネルギーはすべて収縮活動に使われるのではなく一部は熱となって体を温めることに使われる。

寒いとなぜふるえる?

 冬のさむいとき、身体がぶるぶるとふるえるという経験があると思います。この「ふるえ」というのをよく考えれば、小刻みな筋肉の収縮運動とみることができます。

 つまり、「ふるえ」というのは、筋肉を動かせて熱を生み出すための体の反応なのです。それで寒い状況でもなんとか体を冷やさずに温めようとする。体のみごとなはたらきと思いませんか?

筋肉が痛くなる

 あなたはまた、別にこんな経験がありますか? とても長い距離を歩いたり、重いものを無理やりもったあと、しばらくすると筋肉がとても痛くなったっていう経験。働きものの筋肉だけど、ずっと動き続けるとさすがの筋肉も疲れます。これを「筋肉(きんにく)疲労(ひろう)」とか「筋肉痛(きんにくつう)」といいます。そういうときは、かるく筋肉をもみほぐして体をしっかり休ませましょう。きっと数日もすればよくなるでしょう。

筋肉の種類

 実は、人間の体には合計3種類の筋肉があります。

 一つは今まで習ってきた体の運動をおこす筋肉で、正しくは「骨格筋(こっかくきん)」です。焼肉屋さんのメニューに、ロース、ハラミ、バラ、カルビなどがあるけど、それらは全部骨格筋です。見た目は赤い色ですね。

 二つ目は、心臓を構成する「心筋(しんきん)」という筋肉で、心臓のドクンドクンの拍動は、この心筋の収縮によって起こります。心筋は見た目、赤い色をしています。

 三つ目は、主に内臓にある白っぽい色の筋肉、「平滑筋」です。たとえば、胃や腸が活発に動くのは平滑筋のはたらきによるものです。お腹に耳をあてると、お腹の中の音がよく聞こえます。「ゴロゴロ、グーグー」。これらは胃や腸が元気よく動いているために生じる音です。ちなみに平滑筋は、胃や腸以外にも、目、皮膚、血管、子宮など、さまざまなところにあります。

 筋肉には自分の意志(いし)で動かせる筋肉と、動かせない筋肉があります。骨格筋は動かせる筋肉で、心筋と平滑筋は動かすことができません。あなたは胃袋や心臓を自分の意志で動かすことはできないでしょ? このように、自分の意志で動かせる筋肉とそうでない筋肉があるのは、実は神経の働き方のちがいで説明できます。詳しくは、「神経」のお話で。

人間の体にある筋肉は3種類ある。骨格筋、心筋、平滑筋の3つ。骨格筋は、自分の意志で動かすことができる(随意筋という)。一方、心筋と平滑筋(内臓筋)は自分の意志で動かすことができない(不随意筋)。基本的に筋肉は勝手に動くのではなく、神経のはたらきによって動かされる。心筋は特殊で勝手に動くことができる。

まとめ

 今日のお話をまとめると、筋肉は骨と協力して体の運動を行い、熱を発生させる。そして筋肉は骨格筋以外に心筋と平滑筋があって、主に内臓に含まれる。骨格筋は自分の意志で動かせる筋肉、心筋と平滑筋は自分の意志で動かせない筋肉のこと。

 いかがでしたか? 「筋肉」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 年齢とともに筋肉は弱っていくから、幼い頃からしっかり筋肉を使って、マッチョを目指しましょう。 大切にしましょうね、あなたの「筋肉」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

第19話「あし」

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