連載《人体MAPS》 第23話「神経」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは神経
しんけい
です。

神経はどこにある?

 あなたの「神経」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 え? 神経はどこにあるかわからないって? 神経はね、実は、体のあちこちにあります。ただ、いちばん大切な神経は何かといえば、わかるかな?

 そう。頭をさわっているあなた、正解です。(のう)です。脳は、計算したり、考えたり、判断したり、体を動かす命令を出したり、見える、聞こえる、味わう、匂うといった感覚を出したり、痛い、冷たい、かゆいなど皮膚から受ける感覚を受けたりと、本当にいろいろなことをしています。そればかりか、心臓(しんぞう)(はい)()(ちょう)肝臓(かんぞう)腎臓(じんぞう)など内臓を動かすはたらきも行っていて、まさに脳は“体の中のもっともえらい司令塔(しれいとう)”として、体の中で一番大切な場所です。

脳の図。脳は細かくは、大脳、小脳、中脳、間脳、脳幹に分かれている。図の大部分は大脳で、計算、考える、判断する、体を動かす命令を出す、見る、聞こえる、味わう、匂うといった感覚を出す。さらに痛い、冷たい、かゆいなど皮膚から受ける感覚を受けたりと、いろいろなことをしている。中枢神経として最も大切な場所。

脳の次に大切な場所

 では、体の中で二番目に大切な場所はどこだったかな?

 そう、脊髄(せきずい)だったね(第16話「背中」参照)。

 脊髄も神経の仲間です。脳と脊髄を併せて「中枢(ちゅうすう)神経(しんけい)」といいます。中枢神経って名前、いかにも大切そうでしょ?

脳と脊髄から伸びる神経たち

 さっき、神経は体の中のあちらこちらにあるといいました。これはどういうことかというと、中枢神経から白く細長い神経が、まるで木の幹からたくさんの枝が分かれて出てくるように、全身に広がっています。その枝はあなたの皮膚、筋肉、そして内臓など全身のあらゆる部分に達しています。脳から出る神経は主に顔や頭の部位に、脊髄らか出る神経は主に首から下の部位に伸びていきます。

 これらの中枢神経から体の隅々に伸びていく神経のことを、中枢神経に対して「末梢(まっしょう)神経(しんけい)」といいます。

末梢神経って何?

 末梢神経は、筋肉や骨のように皮膚の上から触ってすぐわかるものではないけれど、ときどき末梢神経の存在に気付かされるときがあります。あなたは、自分の(ひじ)の少し内側を机の角などにぶつけて、一瞬「ビリッ!」と電気が走ったような感覚をもったことありませんか? これは、肘のすぐ近くを通る(しゃっ)(こつ)神経(しんけい)という神経が刺激されるために生じる感覚です。この尺骨神経がまさに末梢神経の一つです。

 末梢神経の役割はちょっとわかりにくいけれど、簡単にいうと、連絡係です。たとえば、あなたの手の皮膚をつねると、あたりまえだけど痛い。この「痛い」という感覚は、つねった皮膚の所にある痛みを伝える末梢神経が「つねった」という情報を脳に伝えるために起こります。「痛み」は具体的には大脳の中の感覚(かんかく)()」という場所に情報が運ばれて、脳が「痛み」の感覚を生みだすことによってあなたは「痛い」と感じる。このときの末梢神経をとくに“感覚(かんかく)神経(しんけい)”と呼んでいます。少しややこしいけど、要するに皮膚そのものが痛みを感じているのではなく、脳が伝えられた情報をもとに「痛み」の感覚を出して感じているということ。このしくみは痛みだけでなく、かゆい、熱い、冷たい、触れる、見える、聞こえる、匂うなど、すべての感覚が脳で生み出されて、あなたがそれを感じているのです。

 逆に、脳で始まった情報を体のどこかに伝えることもあります。例えば、左手の人差し指を曲げたいとき、まずは脳の左手の人差し指に指令を出す場所が活動して、その情報が脳➝脊髄➝末梢神経➝左手の人差し指を動かす筋肉、と順番に情報が伝わることで、指がうごきます。このときの末梢神経をとくに運動(うんどう)神経(しんけい)と呼んでいます。

中枢神経から伸びる末梢神経の図。末梢神経は脳や脊髄から体のあちらこちらに伸びていきます。痛みを感じる感覚神経や、体を動かすための運動神経、内臓や分泌物を出すための細胞に指令を出す自律神経などに細かく役割が分けられている。末梢神経で受けた信号は基本的には、脳や脊髄といった中枢神経に送られて中枢からの判断にしたがう。

自分の意志で動かすことができる神経とそうでない神経

 神経のはたらきはとても複雑で、さっきの指を曲げる・伸ばす運動のように、自分の意志で動かすことができる神経と、心臓や肺、胃袋を動かすなど、自分の意志とは関係なく勝手にはたらく神経があります。つまり、末梢神経の中でもいろいろと役割や種類があるということです。

 基本的に、自分の意志で動かすことができる神経を「体性(たいせい)神経(しんけい)」、自分の意志とは無関係に動く神経を「自律(じりつ)神経(しんけい)」といいます。自律神経は主に、平滑筋、内臓、血管、そして汗や涙などの分泌腺に分布しています。あなたがご飯を食べてからすぐに寝たとしても、朝起きるとお腹はへっている。これは何より自律神経があなたの知らないところできっちりはたらいてくれている証拠です。

神経がかかえる弱点

 ところで、こんな大切な神経に決定的な弱点があるってこと、覚えているかな? そう、一度神経がダメージを受けると、完全にもとの姿に戻すことができないというお話。第4話「頭」のお話でも出てきました。皮膚のように()り傷や切り傷をしても元に戻る場所とはちがって、中枢神経も、末梢神経も、一度壊れたらもとに戻すことができない。すると、どうなるか想像してみましょう。

 そう。一生体が動かなくなったり、痛みを感じなくなったりするのだった。これは大変!

神経の活動

 さて、これまでみてきた「神経の活動」の正体って、一体何だと思いますか?

 神経の中にはとても細長い形の細胞、つまり神経細胞があります。神経細胞の中では電気が発生して、その電気が神経細胞の中を流れて、たとえば手の中や足の中を電気が流れ、遠くまで活動を伝えることができるのです。まるでナマズみたいだね。

 さらに神経細胞は、カタツムリのツノのような細長いアンテナをたくさん出して、神経細胞と神経細胞はそのアンテナ同士が結びつくことで、複雑なネットワークを形成します。脳の中にはおよそ1000億個の神経細胞があって、1個の神経細胞は約1000個のアンテナを持つといわれています。ということは、それぞれの神経細胞が他の神経細胞とむすびつけば、そのネットワークの数は、もはや天文学的な数字になります。こうして私たちは、物を考えたり、判断したり、いろいろと高度な活動ができるって考えられています。まさにスーパーコンピューターですね!

神経細胞の図。神経細胞は細長い形をしている。神経細胞の中では電気が発生して、その電気が神経細胞の中を流れ、遠くまで活動を伝えることができる。さらに神経細胞は、カタツムリのツノのような細長いアンテナをたくさん出して、神経細胞と神経細胞はそのアンテナ同士が結びつくことで、複雑なネットワークを形成している。脳の中にはおよそ1000億個の神経細胞があって、1個の神経細胞は約1000個のアンテナを持つといわれている。

年齢とともに神経細胞の数が減っていく?

 ただ、年齢を重ねていくと、神経細胞の数はどんどん減っていきます。おじいちゃんやおばあちゃんになると、物忘れが多くなったり、同じことを何度も言ったり、さっきいったことが記憶できなくなったり、やがては、その人の人格が変わってしまうこともあったりして、いろいろな場面でその影響が出てきます。おどろくことに、人間は20歳をこえたくらいから、徐々に神経細胞が減っていくのだそうです。

 脳の神経細胞をできるたけ減らさないためには、若いうちから頭を使って頑丈な神経細胞ネットワークをつくっておくことが大切です。骨も筋肉もそうだったように、人間の体って、使えば使うほど丈夫になって長持ちする。だからあなたもたくさん本を読んだり、勉強したり、運動したり、お話の記憶をしたりして、脳をできるだけ使うようにしましょう。

睡眠時間をしっかりとろう

 睡眠もとても大切です。一日の終わりの睡眠は、体の疲れをとることはもちろん、脳がその日あったことを整理したり、覚えたことをしっかり記憶に残したり脳の休息のためだったり、最近だと「成長ホルモン」という体の成長にかかわるホルモンが出されたりするなど、睡眠は成長と休息(きゅうそく)になくてはならないとても大切な時間になります。

まとめ

 今日のお話をまとめると、神経は、脳や脊髄を含めた中枢神経と、そこから出る末梢神経がある。末梢神経には自分の意識にのぼる神経(体性神経)と自分の意識にのぼらない神経(自律神経)、感覚の信号を伝える神経(感覚神経)、運動の信号を伝える神経(運動神経)がある。神経は一度損傷すると、もともとあった機能を完全に回復するのはむずかしい。神経の活動の正体は電気の流れ。脳(頭)は子供のころからしっかり使うこと。

 いかがでしたか? 神経はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?

 大切にしましょうね、あなたの神経。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

第17話「下っ腹」

第18話「手」

第19話「あし」

第20話「骨」

第21話「筋肉」

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