《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑨》初の有人ミッションで飛び立つ宇宙飛行士4人が決定!

月への有人着陸を目指す、アメリカの「アルテミス計画」。その第一弾となるスペースローンチシステム(SLS)ロケット1号機の打ち上げに続いて、第二弾「アルテミス2」のミッションに向けた準備が進んでいます。次は、SLSロケットによる初の有人ミッション。このたび、その任務に就く宇宙飛行士4名が発表されました。どんなメンバーが選ばれたのか、今後のミッションはどんなもなのかを解説します。

50年を超えて挑戦する、月への有人飛行ミッション

 アポロ計画以来、50年以上の年月を経て挑む月への有人飛行。このたび、そのミッションに臨む宇宙飛行士4人が決まりました。「アルテミス1」ではオライオン宇宙船の基本性能を確認するために無人で月周回軌道と地球を往復したのにとどまりましたが、今度はオライオン宇宙船の生命維持システムが正常に作動するかどうかを確認する重要な飛行となります。

 2023年4月4日未明(日本時間)、「アルテミス2」でオライオン宇宙船に乗り込む宇宙飛行士が発表されました。アメリカ・ヒューストンにあるNASA(アメリカ航空宇宙局)ジョンソン宇宙センター近くで開催されたイベント中、アルテミス計画に関わる人々が集まる前で名前を呼ばれたのは4名で、ダイバーシティ(多様性)に富んだメンバーです。

「アルテミス2」で飛び立つ4人のうち、3人が2回目の宇宙飛行、1人が初飛行

 2020年12月にアルテミス・チームに選ばれた18人の宇宙飛行士の中から選出されたのは、2人。女性のミッションスペシャリストのクリスティーナ・H・コック宇宙飛行士、パイロットのビクター・グローバー宇宙飛行士でした。そしてコマンダーにはリード・ワイズマン宇宙飛行士が選ばれ、もう一人はカナダ宇宙庁(CSA)のミッションスペシャリストのジェレミー・ハンセン宇宙飛行士です。性別、人種、そして国籍もさまざまです。

アルテミス2のミッションで宇宙に飛び立つ4人の宇宙飛行士。左から時計回りにクリスティーナ・H・コック、ビクター・グローバー、ジェレミー・ハンセン、リード・ワイズマン。(画像/NASA、撮影/ Josh Valcarcel)
4月4日未明に行われた、アルテミス2の宇宙飛行士発表イベントの動画(約1時間)。1961年5月に当時のジョン・F・ケネディ大統領が月有人計画を表明してから60年以上を経て再び月有人ミッションに挑む4人の宇宙飛行士が決まり、会場は熱気に包まれた。

 コック宇宙飛行士は2回目の宇宙飛行となります。国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗した際に女性として単独宇宙飛行の最長記録である328日間の宇宙滞在を経験しているほか、初の女性だけのチームで宇宙遊泳を果たした経歴の持ち主です。

 そして同じく今回が2回目の宇宙飛行となるグローバー宇宙飛行士は、スペースX社のクルードラゴン宇宙船の最初の運用有人飛行でパイロットを務め、168日間の宇宙滞在、4回の宇宙遊泳の経験があります。

 ワイズマン宇宙飛行士もISS搭乗以来、2回目の宇宙飛行となります。宇宙滞在日数は165日を超え、約13時間に及ぶ宇宙遊泳のリーダーを経験しています。

 そして、ハンセン宇宙飛行士は初の宇宙飛行となります。カナダ軍大佐で、元戦闘機パイロット。カナダ人として初めてNASAの宇宙飛行士クラスの指導を担当し、米国とカナダの宇宙飛行士候補者の訓練を指導した経験を持っています。

 アルテミス計画の月周回有人拠点「ゲートウエイ」建設に参加しているJAXA(宇宙航空研究開発機構)が13年ぶりに実施した宇宙飛行士候補者の募集で選ばれた諏訪理(まこと)さん、米田あゆさんの2人も、いずれは月有人飛行に携わることになるかもしれません。期待が膨らみますね。

「アルテミス2」のミッションとは?

 「アルテミス2」のミッションは2024年に実施される見通しで、38万Km離れた月の裏側を通って地球との間を往復する10日間の飛行となります。

アルテミス2の10日間に及ぶ飛行計画。スペースローンチシステム(SLS)ロケット2号機で打ち上げられたオライオン宇宙船は、緑色のコースで月の裏側まで到達し、青色のコースで地球に帰還する。(画像/NASA)

 オライオン宇宙船は、地球周回軌道で支援モジュールのエンジンを使って軌道を変更。そこから月の裏側に到達するまでに、約4日間かかります。その後、月から1万kmほど離れた地点を通過したオライオン宇宙船は、地球の重力に引かれて地球に向きを変え、再び約4日間かけて地球に戻ってきます。この間、4人の宇宙飛行士はオライオン宇宙船のシステムの状態をチェックすることになります。

 乗務員モジュールは地球近くでオライオン宇宙船の支援モジュールから切り離され、大気圏に突入。乗務員モジュールは高温・高速に耐え、サンディエゴ沖の太平洋に着水し、4人が地球に帰還する計画になっています。

2022年12月のアルテミス1の際に撮影された、月、地球、オライオン宇宙船が写った画像。(画像/NASA)

「アルテミス3」の準備も進む! 月面に降り立つ宇宙服も新たに

 アポロ計画以来となる有人の月着陸を目指す「アルテミス3」のミッションの準備も、順調に進んでいます。

 2023年3月、月面に降り立つ宇宙飛行士が身にまとう宇宙服のプロトタイプ「AxEMU」が公開されました。表面はダークグレーの素材で覆われていますが、寒暖差の激しい月面の厳しい環境においても宇宙飛行士が快適に過ごせるよう、白色になる可能性があるとのことです。

お披露目された宇宙服のプロトタイプ「AxEMU」。(©Axiom Space)

 月面における探索の際に求められる身体の動きを確保できるよう柔軟性を備えていて、アメリカの男女人口の少なくとも90%の体格に対応したサイズでつくられていいます。

 開発を担当したのは、アクシオム・スペース社。NASAは宇宙開発にあたって民間の活用を進めていて、NASAは月面で宇宙飛行士が活動のに必要なサービスをアクシオム・スペース社から購入する契約になっています。

 今後の展開がますます楽しみになってきた「アルテミス計画」。この連載では引き続き、その動きを追っていきます。

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

【バックナンバー】

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その①》NASAアルテミス計画の全貌

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その②》パーシビアランスが火星に着陸!火星探査ラッシュの到来

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その③》打ち上げロケット1段目エンジンの燃焼テストに成功!

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その④》初の快挙! ヘリコプターが火星の空を舞う

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑤》アルテミス計画の有人月面着陸は1年遅れの2025年となる見通し

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑥》相次ぐトラブルで、無人ロケットによるファーストステップが難航

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑦》「アルテミス1」打ち上げ成功! 無人オライオン宇宙船が月を周回して地球に帰還する旅へ出発

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑧》「アルテミス1」ミッション成功! 無人オライオン宇宙船が帰還&太平洋に着水、有人飛行に向けて前進

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