《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑦》「アルテミス1」打ち上げ成功! 無人オライオン宇宙船が月を周回して地球に帰還する旅へ出発

 アポロ計画最後のアポロ17号で人類が月面に降り立ったのは、1972年のこと。それから53年となる2025年に再び人類を月面に送り込もうと、アメリカはアルテミス計画に取り組んでいます。月面着陸の最終ゴールに向けて、NASA(アメリカ航空宇宙局)は2022年11月16日、新開発のスペースローンチシステム(SLS)ロケット1号機を打ち上げることに成功しました。

 月周回軌道に向かった無人オライオン宇宙船が12月11日に地球に無事に着水・帰還するまでの25日11時間36分の間、関係者にとってシステムにトラブルが起こらないかどうか緊張の日々が続きます。

2022年11月16日に月へと打ち上げられた、アルテミス1のスペースローンチシステム(SLS)ロケット1号機。(画像/NASA/Bill Ingalls)

SLSロケットの打ち上げ成功! 50年以上かけて再びスタートラインに到達

 11月16日未明、暗闇に包まれたアメリカフロリダ州ケネディ宇宙センターの39B発射台にSLSロケットが据え付けられています。39B発射台は、アポロ計画やスペースシャトルの打ち上げにも使われた発射台です。

 当初は2022年8月29日の打ち上げ予定でしたが、コアステージ(1段目)のエンジンのトラブルで延期。次に9月27日に向けて準備が進められていましたがハリケーンの接近で再度延期され、11月14日の打ち上げとなっていました。ところが天候の悪化により、16日の打ち上げとなりました(打ち上げ延期の経緯は前回の連載を参照)。

 午前1時47分(アメリカ東部時間。日本時間は16日午後3時47分。以下、時間はすべてアメリカ東部時間に準ずる)、第一段コアステージのメインエンジンに続き、固体ロケットブースターが点火され、SLSロケットはオレンジ色の炎を吹き出しながら暗闇を切り裂く矢のように月に向けて飛び立っていきました。

真っ暗闇の中、39B発射台から飛び立つSLSロケット1号機。(画像/NASA/Joel Kowsky)

 スペースシャトル「コロンビア」が打ち上げ時に空中分解する悲劇に見舞われてから1年になろうとする2004年1月、当時のジョージ・ブッシュ大統領が「新たな“発見”のスピリット」を宣言。それが、このチャレンジの始まりでした。2020年までに人類を再び月に送り込み、そして火星、さらには他の太陽系の天体への探査を実施する――。

 それから18年余り、スケジュールは遅れたものの、NASAはスペースシャトルの退役に伴って失った有人打ち上げ手段をSLSロケットの成功によって復活させたことになります。アポロ計画を実現したサターン5型ロケットを超える大型ロケットです。民間宇宙開発企業のスペースXなどとの連携を進めるなど、アポロ計画当時とは技術力も環境も大きく変わりましたが、50年以上経て再びスタートラインに立ったことには変わりはありません。

 打ち上げから1時間30分ほどしてオライオン宇宙船は月に向かう軌道に乗り、ひとまず山場をクリアしました。

アポロ13号が1970年に記録した地球からの到達距離を超え、48万kmの地点を通過予定

 オライオン宇宙船が月を周回する遠方逆行軌道(Distant Retrograde Orbit、DRO) と名付けられた軌道に入るのは、11月25日午後5時半ごろの予定です。これに先立って6日ほどかけて地球から38万km離れた月に近づき、月周回軌道に向けて軌道を変えるために11月21日朝、月表面から100kmほど近くにまで接近するアウトバウンド近接飛行(Outbound Powered Flyby、OPF)を実施します。この勢いでオライオン宇宙船は遠方逆行軌道に入ります。

「アルテミス1」の飛行計画。月を周回した後、12月11日に無人のオライオン宇宙船が地球に帰還する予定。(提供/NASA)

 飛行中、11月21日の近接飛行を含め月表面にオライオン宇宙船が接近するタイミングは2回あります。2回目は12月5日正午ごろの予定で、リターン近接飛行(Return Powered Flyby、RPF)と呼ばれ、月表面から800kmほどの地点を通過します。11月26日には、月と地球の間の38万kmをさらに7万km超えて地球から45万km離れた地点にまで到達します。

 人類が地球から最も遠くまで到達した記録は1970年4月、燃料電池のトラブルで月着陸断念を余儀なくされたアポロ13号に乗り組んだ3人の宇宙飛行士が危機を乗り越えて地球に無事に帰還した際に到達した40万170kmです。今回のオライオン宇宙船は無人ですが、11月26日にこの距離を超え、11月28日には最遠の48万490kmに到達します。

 SLSロケットによってオライオン宇宙船と一緒に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した世界最小月着陸機オモテナシ(OMOTENASHI)やJAXAと東京大学が開発した超小型深宇宙探査機エクレウス(EQUULEUS)など日本の2機を含めた計13機の小型衛星が打ち上げられています。オモテナシが正常に機能していないという情報もあり、こちらも気にかかる状況です。

 オライオン宇宙船の地球帰還は12月11日午後1時ごろ、アメリカ・サンディエゴ沖の太平洋への着水を予定しています。大気圏再突入を乗り越えられるか緊張が高まります。

開発中のオライオン宇宙船の帰還テスト風景。(提供/NASA/Bill White)

火星への有人探査に向けた新たな”一歩”とその先

 「アルテミス1」は月、さらには火星を目指す壮大な計画の第一歩にすぎません。まずは、アルテミス計画の最終ゴールである人類の月着陸を目指す2025年の「アルテミス3」が当面の目標です。アポロ計画でニール・アームストロング船長が月への最初の一歩を印した際、「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」(That’s one small step for [a] man, one giant leap for mankind)と語った有名な言葉があります。

アポロ11号のミッションで月面に最初に記された足跡のひとつ、バズ・オルドリンの靴跡。1969年7月20日にニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面を歩いた。(画像/NASA)

 ギリシャ神話の最高神ゼウスの息子アポロンにちなんで名付けられたアポロ計画では男性が月に降り立ちましたが、アポロンの双子の妹にあたる女神アルテミスにちなんだアルテミス計画では、人類初となる女性が降り立ちます。半世紀以上ぶりに刻まれるその一歩は、どのように表現されるのでしょうか――。

NASAが「アルテミス3」の着陸地点として選定した月南極周辺の13地点。これらのうちのどこかに再び人類が着陸することになる。(画像/NASA)

 再び人類が月面に降り立つ「アルテミス3」に先立つ計画となる「アルテミス2」では、有人月周回飛行を目指します。現段階では2024年5月に予定されていますが、「アルテミス1」の成否によって計画の見直しもあるかもしれません。今後はアメリカを中心に日本も参加する月周回有人拠点「ゲートウエイ」の建設が国際協力で進められ、さらには恒常的に人類が滞在する有人月面基地「ベースキャンプ」の建設も計画されています。そして月に続いて目指すのは、火星有人探査です。

 これら壮大な計画の将来を占う意味でも重要なステップとなる「アルテミス1」の成功を祈りましょう。

※11月22日追記:宇宙航空研究開発機構(JAXA)は世界最小月着陸機オモテナシ(OMOTENASHI)の月着陸を断念したと発表しました。SLSロケット分離後の姿勢の回転運動により、太陽電池による発電ができない状態が続いているとみられています。太陽電池が太陽の方向に向く2023年夏には発電できるようになる見通しで、これに伴いオモテナシの機能が回復する可能性もあるとしています。

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

【バックナンバー】

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その①》NASAアルテミス計画の全貌

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その②》パーシビアランスが火星に着陸!火星探査ラッシュの到来

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その③》打ち上げロケット1段目エンジンの燃焼テストに成功!

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その④》初の快挙! ヘリコプターが火星の空を舞う

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑤》アルテミス計画の有人月面着陸は1年遅れの2025年となる見通し

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その⑥》相次ぐトラブルで、無人ロケットによるファーストステップが難航

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