連載《人体MAPS》 第25話「汗」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「」です。

汗は体のどこから出る?

 あなたの「汗」は体のどこから出ますか? 手で示してみましょう。

 そう、汗は体の皮膚のほとんどの部分から出ますね。頭、鼻の頭、首まわり、背中、わきの下、手のひら(手掌)、足の裏(足底)などから特に出ませんか?

 汗は、皮膚の表面にある「汗腺(かんせん)」という特殊な細胞でつくられて、皮膚の表面に分泌されます。ちなみに「分泌」というのは、汗や涙などの液体成分を出すことを意味します。

汗が出る理由

 あなたは汗がなぜ出るか知っていますか? そう、第22話「皮膚」のお話でもあったように、“体を冷やすため”ですね。汗の一番大切な役割は、「体温(たいおん)調節(ちょうせつ)」です。

 夏の暑いとき、外の気温は体温(36~37℃)を超えることもあります。そんな中で運動すると、汗がどんどん出てくる。大人だとその量はなんと1時間に1,500mL! そしてこれを長時間続ければ5,000mLにもなるとか!! すごい量ですね。

汗が体を冷やすしくみ

では、どうやって汗は体を冷やすのでしょうか。

 汗が出ると皮膚の表面が()れます。その汗に含まれる水分が蒸発するとき、つまり、汗の水分が「液体から気体に変化する」とき、水はたくさんのエネルギーを必要とします。そのエネルギーの一部はあなたの体の皮膚の温度が用いられます。言いかえると、あなたの体温が汗にうばわれる。だから、汗が乾くのと同時に、あなたの皮膚の温度が下がり、体が冷えることになるわけです。

 お風呂から上がった直後、「寒いっ!」って思ったことないかな? お風呂から上がったばかりのときは、さっきお話しした汗が出た状態と似ていて、皮膚がまだ濡れている。しかも体全体に。すると、皮膚の表面の水分が一気に蒸発(じょうはつ)し、体全体が急に冷やされるから「寒い!」って感じるわけですね。風邪ひかないためにも、お風呂から上がる前にしっかり体をふきましょう。

汗をかくことで体温を下げるしくみ。汗が出ると皮膚の表面が濡れる。その汗に含まれる水分が蒸発するとき、つまり汗の水分が「液体から気体に変わる」とき、汗(水分)はエネルギーを必要とする。そのエネルギーの一部があなたの体の皮膚の温度が用いられる。つまり、体温が汗によってうばわれる。よって、汗が乾くのと同時に、あなたの皮膚の温度が下がり、体が冷えることになる。

2種類ある汗腺

 この汗をつくって体の表面に分泌する汗腺は、実は2種類あります。「エクリン汗腺」と呼ばれる小汗腺と、「アポクリン汗腺」と呼ばれる大汗腺です。

 エクリン汗腺は、体の皮膚のほとんどに分布しています。ここから出る汗の成分のほとんど(99%以上)は水分で、残りは食塩、尿素、アンモニア、ムコ多糖などが含まれます。エクリン汗腺の主な役割は体温の調節です。暑いときは汗を大量に出して、すばやく体温調節が行われます。また手掌や足底のエクリン汗腺は、ドキドキしたときなど精神的な緊張が高まっているときに特に分泌が多くなります。

 一方、アポクリン汗腺はエクリン汗腺と違って、体の一部の限られた場所にあります。耳の孔、わきの下、まぶた、(にゅう)(りん)、肛門周囲など。アポクリン汗腺は人以外の哺乳類では全身にあって、体温調節よりもむしろ、自分の存在場所を示したり、異性へアピールするフェロモンとしての作用が大きいようです。しかし人間の場合はエクリン汗腺が全身で発達したから、哺乳動物のそのような作用はほとんどなくなっています。

 アポクリン汗腺から出る汗は、脂質、糖質、タンパク質などを含んで、ミルクのような(ねば)()のある分泌物です。この分泌物そのものににおいはないけれど、分泌されたのちに皮膚表面に住む細菌によってアポクリン汗腺からの分泌物が分解されて、特有の臭いを発するようになります。人間も思春期になると、アポクリン汗腺の働きが活発になってにおうようになる。特に、わきの下から出るにおいは、異性が気になる思春期ではちょっと悩みのタネになってしまいます。

エクリン汗腺は体の皮膚のほとんどに分布する。ここから出る汗の成分のほとんど(99%以上)は水分。主な役割は体温の調節。暑いときは汗を大量に出して、すばやく体温調節が行われる。アポクリン汗腺は体の一部の限られた場所にある。アポクリン汗腺から出る汗は、脂質、糖質、タンパク質などを含み、ミルクのような粘り気のある分泌物である。

発汗にもいろいろな種類がある

 ところで、通常私たちが暑いときにかく汗を「温熱性(おんねつせい)発汗(はっかん)といって体温調節が主な役割だけど、それ以外にも汗が出ることがあります。さっきも少し触れたけど、精神性(せいしんせい)発汗(はっかん)というもの。これは緊張したときなど、交感神経(こうかんしんけい)の興奮によって分泌が増えて、まさに「手に汗をにぎる」とか「冷や汗をかく」状態のときにかく汗です。

 その他、食べ物に含まれる成分でとくに酸味(さんみ)辛味(からみ)など味覚(みかく)の強い刺激によって起こる味覚性(みかくせい)発汗(はっかん)というものもあります。

 それから、気温や運動に関係なく、たえず行われている汗の分泌もあって、これは目に見えない汗の分泌ということで「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」といいます。これは一日に600mLほど出るからけっこうたくさん出ます。その他、「盗汗(とうかん)」といって病気になったときに出る汗や「(こう)年期(ねんき)発汗(はっかん)」といって特に年を重ねた女性によるホルモンバランスの乱れによって出る汗もあります。

こまめな水分補給を

 汗はこのように体温を調節すること以外に、あなたが気付いていないときでもたくさん出ています。だから、特に夏の暑い時期にはこまめに水分をとるようにこころがけましょう。

 汗にはさっきお話ししたように塩分が含まれているから、大量に汗をかくと身体の塩分もうばわれるので、水だけでなく適度な「塩」をとることも忘れないようにしましょう。ポカリスエットなどスポーツ飲料がおすすめです。

まとめ

 今日のお話をまとめると、汗は汗腺から分泌される水分とその他の成分を含む液体のことで、体の体温調節としての重要な機能をもつ。汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺があって、エクリン汗腺は体のほとんどの部位に、アポクリン汗腺は体の限られた場所にあって、分泌される成分も異なる。

 いかがでしたか? 汗を出すことはあなたの体の中の大切なはたらきだということがわかりましたか?

 汗をかくことは単に体温調節だけでなく、体を動かして体の中にたまった老廃物(ろうはいぶつ)を出すなど別のよいはたらきもあるから、ときどき運動して気分をリフレッシュしましょう。

  大切にしましょう、汗をかくことを。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

第15話「肩」

第16話「背中」

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第18話「手」

第19話「あし」

第20話「骨」

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