『DinoScience 恐竜科学博~ララミディア大陸の恐竜物語』開催記念 恐竜くんインタビュー 【前編】 「科学がどこまで恐竜の真の姿に迫っているのかを感じてほしい」

 7月17日からパシフィコ横浜で開催中の『DinoScience
ディノサイエンス
恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~』。“世界で最も完全で美しい”とされるトリケラトプス「レイン」の実物全身骨格
じつぶつぜんしんこっかく
が日本初上陸するほか、見どころは数多く
げることができますが、今回の「DinoScience 恐竜科学博」は従来
じゅうらい
の恐竜展とはまったく
こと
なる発想から企画されたといいます。

 そこで本展の企画
きかく
監修
かんしゅう

つと
める恐竜くん(田中真士さん)に「DinoScience 恐竜科学博」は何が違うのかを語ってもらいました。

恐竜くん(田中真士さん)
サイエンスコミュニケーター。幼い頃に恐竜に魅せられ、16歳で単身カナダに留学。恐竜研究が盛んなアルバータ大学で古生物学を中心に幅広くサイエンスを学ぶ。現在は恐竜展の企画・監修、トークショーやワークショップなどの体験教室の開催、イラスト政策、ロボットや模型製作の監修、恐竜をはじめとする自然科学の執筆、翻訳などを幅広く手掛けている。

「恐竜がどんな生き物だったのかを紹介するために展示する地域、時代を絞りました」

―― 現在、横浜で開催中の『DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~』は、タイトルに「恐竜」だけでなく、「科学」という言葉が使われています。ここにはどのような想いが込められているのでしょうか?

恐竜くん(田中真士さん):恐竜はかつて確かにこの地球上に存在していた生き物で、古生物学
こせいぶつがく
は科学の一分野であることは誰もが知っていることですが、科学的な視点が失われて、マンガやアニメのキャラクターと同じように
あつか
われることがあります。

 科学の一分野でありながら、これほどまでに強く人々を、楽しませることができるのは恐竜ならではの魅力
みりょく
だと思うのですが、だからといってエンターテインメント性ばかりを優先してしまっては、恐竜がどんな生き物だったのかを深く理解することはできません。

 恐竜の研究が始まっておよそ200年。脈々
みゃくみゃく
と受け継がれてきた研究の成果に、さらなる発見と新たな技術や視点が加わることで、今この瞬間にも、私たちの知見
ちけん
着実
ちゃくじつ
に更新され続けています。

 本展では、「科学は今、どこまで恐竜たちの世界に近づくことができたのか?」を主題
しゅだい

かか
げ、「DinoScience 恐竜科学博」というタイトルを付けました。

論文
ろんぶん
として発表される前の最新の研究成果を展示に取り入れています」

―― ララミディア大陸というのはどういう大陸だったのでしょうか?

恐竜くん 現在の北米大陸
ほくべいたいりく
は、ニューヨークのある東海岸からロサンゼルス、サンフランシスコがある西海岸まで陸続きの一つの大陸ですが、1億年前から6600万年前の白亜紀
はくあき
後期には内陸に海が広がっていました。

 その西側にあったのがララミディア大陸で、北は現在のアラスカから南はメキシコに
いた
る地域で、多種多様
たしゅたよう
な恐竜の化石が大量に発掘されているんです。

 テーマを
しぼ
るといっても、ララミディア大陸は3000万年以上存在したので、最後の数百万年間、具体的に言うと6800万年前から6600万年前のララミディア大陸の中ほど、内海
ないかい
に面した湿地帯
しっちたい
の自然に絞りました。そのためどんなに有名であっても、アジアやアフリカに生息した恐竜はもちろんのこと、ジュラ紀などの別の時代の恐竜は基本的に展示していません。

 白亜紀末期のララミディア大陸に絞ることで、そこに暮らす恐竜たちの生活を、骨格標本だけでなく、ジオラマや大型映像で理解してもらえるようにしました。かなり挑戦的な企画なんでしょうけど、じっくり見学してもらうことで恐竜がどんな生き物だったのかを理解してもらえると期待しています。

『DinoScience 恐竜科学博』会場MAP

―― 白亜紀末期のララミディアに絞りつつ、科学的に恐竜を紹介しているのですね? 最新の研究成果も展示に取り入れられているのでしょうか?

恐竜くん 古生物学に限らず、科学の研究成果は論文にまとめられて発表されます。ですから通常、論文発表前の研究成果はほとんど公開されることはないのですが、今回は多くの研究者に協力してもらって論文発表前の研究成果を展示に取り入れることができました。

 その一例として挙げられるのがダコタラプトルです。名前の一部に「ラプトル」とあるので、恐竜に詳しい読者なら、映画『ジュラシック・パーク』で有名になったヴェロキラプトルの仲間だということが分かるでしょう。このダコタラプトルは新種として報告されたのは2015年で、つい最近のことなのですが、当時は断片的な化石しか見つかっておらず、分からないことばかり。その後、頭骨や肩回りの骨の化石が見つかって、どんな恐竜だったのかがより詳しくわかってきました。

 これまでにも仮の組み立て骨格は存在したとはいえ、想像で
おぎな
っている部分が多かったのに対して、今回は研究者の協力の下、最新の研究成果も取り入れたアップデートされたダコタラプトルの骨格標本を展示しています。

ダコタラプトル

皮膚痕
ひふこん
を集めた特設コーナーで恐竜に羽毛があったかどうかを考えてほしい」

―― 恐竜がどんな生き物だったのかを理解してもらうために、どのような工夫をされているのでしょうか?

恐竜くん 見せ方については骨格標本を展示するだけでなく、ジオラマや大型映像なども取り入れて恐竜を理解してもらえるようにする一方で、展示内容についても工夫していて、例えば、恐竜の皮膚痕を集めた特設コーナーを作りました。

恐竜の皮膚痕を集めた特設コーナー

 というのも、近年、恐竜に羽毛があったかどうかが議論
ぎろん
されているんですね。羽毛の痕跡
こんせき
が発掘されていますから、羽毛に
おお
われた恐竜がいたことは間違いありません。過去、確認されてきた羽毛恐竜は小型種ばかりだったのですが、体長9m、体重1.5トンのユウティラヌス・フアリに羽毛の痕跡が発見されてからは、ティラノサウルスに羽毛があっても不思議はないと考えられるようになりました。その結果、ここ数年のうちに発行された恐竜図鑑に登場するティラノサウルスには羽毛が描かれていて、今の子どもたちにとってティラノサウルスが羽毛恐竜であるというのは常識になっています。

 しかし、成長するとティラノサウルスは全長13m、体重9トンにもなる大型恐竜ですから、羽毛をはやして体温が逃げていくのを抑えるよりも、熱を逃がさないことには、体温を適切に保つのは難しいはずです。ユウティラヌス・フアリの羽毛が発見されて以降も、大型恐竜の体温維持を考慮
こうりょ
して、ティラノサウルスぐらいの大型の恐竜には羽毛はなかったと考える研究者が大勢いました。ですから、今回の展示では羽毛があったのかどうかの答えのみを示すだけでなく、恐竜にとって羽毛があることの意味を考えてもらえるようにしました。

―― 皮膚痕を展示するコーナーまで作って、科学的に踏み込んだ内容になっているのですね?

恐竜くん それでも展示だけで紹介できることには限りがありますから、羽毛の有無をはじめ、恐竜に関する詳しい解説を図録
ずろく
に書きました。恐竜科学博は恐竜が好きになったばかりの子どもたちにも楽しめる展示を用意する一方で、日本の出版社から発行されている恐竜図鑑をすべて暗記しているような恐竜大好きな子どもたちにも深く恐竜を理解してもらえる展示、そして、図録を用意していますから、会期中、何度も会場に足を運び、図録を読んで、恐竜がどんな生き物だったのかを実感してもらいたいですね。

後編につづく

取材・文

斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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