『子供の科学』創刊100周年記念プロジェクト「小中学生トコトンチャレンジ2024」でスペシャル審査員を務める東京大学教授・横山広美先生にインタビュー。ご自身の子供時代の経験、そして今の時代に子供たちにチャレンジしてほしいことについてお話を伺いました。
科学雑誌で読んだ宇宙論に衝撃! 夢中でノートにまとめた
──横山先生はどんなお子さんでしたか?
読書が好きで、『ナルニア国物語』や『コロボックル物語』などのファンタジーを読んでいて、小学校のときは児童作家になりたいと思っていました。幼稚園から高校までカトリック系の学校だったのですが、「神様はいるのかな?」、「神様はこの世界をどうやってつくったのかな」とこの世界の不思議なことに思いを巡らすような子でしたね。でも、シスターには聞いちゃいけないような気がしていました。
そんな中学2年生のとき、友達のお母さまがすすめてくれた科学雑誌『ニュートン』を読んで、小学校のときから思っていたこの世界の成り立ちやしくみが、実は物理学で問うことができるんだ! と大きな衝撃を受けたんです。ちょうどホーキング博士の『ホーキング、宇宙を語る』の本が出る少し前ぐらいの時期だったのですが、無から宇宙がポンとできて、それがどんどん広がっていくという宇宙のはじまりの理論を読んで、人生で一番びっくりしました!
──衝撃を受けた中学2年生の横山さんは、その後どうしたのでしょう?
私はとにかく書くことが好きだったんです。だから、読んだ本で知った理論を、ノートに自分なりにわーっとまとめていきました。高校生のときには「アインシュタインロマン」というNHKスペシャルの番組が大好きで、これを録画して、15秒おきにストップしながら文章や図をノートにまとめていましたね。高校3年生のときには、ホーキング博士の来日講演会を見に行きました。実は大学生からじゃないと入れなかったんですが、絶対見たくて大学生のふりをして応募してしまいました(笑)。
学生時代の手を動かした経験が夢につながる
──トコトン宇宙物理にハマった学生時代だったんですね。
物理をおもしろい!好き!と思っただけじゃなくて、手を動かして形にしていったことが、今振り返ると本当に大きなことだったと思うんです。そのときはとにかく楽しくて、夢中でノートに書きためていったのですが、物理学の実験や理論の世界観を自分なりに再編集することによろこびを感じて、いつしか科学のことを書いて伝える人になりたいという目標につながっていったんです。
それから高校の授業で宗教の時間があって、「世界には飢えた人たちがたくさんいるのに、なぜ莫大なお金をかけてまで宇宙開発をする必要があるのか」というテーマで議論をしたことがあり、このとき科学と社会の関係をすごく考えさせられました。科学のおもしろさだけではなく、社会の視点でも伝えられるようになりたくて、科学ジャーナリストを目指すようになったんです。
その後は東京理科大学で物理学を学んで、大学院に進んでからは当時宇宙解明の鍵となる素粒子として注目されていたニュートリノの研究チームに入ることができました。約140人の国際研究グループで、難解な物理を英語でコミュニケーションをとって研究を進めていくという経験をさせていただきました。そんな大学院生時代に、高校生からの目標だった科学ジャーナリストになるために、『子供の科学』でライターのお仕事をさせていただくことになったんです。
──そのまま私たち編集部の仲間になっていたかもしれませんね(笑)。
編集部の方には本当にいろいろなことを教えてもらいました。編集者ではなく、自分の名前で書く著者になったほうがいいとアドバイスをいただき、物理学で博士号を取得しながら、科学ジャーナリストとして執筆する道に進みました。この間たくさんの出版物に原稿を書いて、「科学ジャーナリスト賞」も受賞することができました。
その後に、東京大学理学部に科学技術社会論、科学コミュニケーションという人文科学系の研究者として採用され、今はもともと学生時代に学んだ物理学の専門機関である「カブリIPMU」でただ1人の文系研究者として研究に取り組んでいます。
小中学生のときに「好き」を「得意」にしよう
──横山先生の研究テーマの1つに、「数学・物理の分野になぜ女性が少ないのか」がありますが、科学が大好きな女子にアドバイスをいただけますか?
私は学生時代、一緒に物理を楽しんでくれる女子の友達がいたんです。でも、もしかしたら環境によっては、学校で仲間を見つけるのは難しいかもしれません。今回審査員をやらせていただく「小中学生トコトンチャレンジ」は、「好き」なテーマで研究する仲間と取り組めることが素晴らしいなと思っています。さらに専門家にサポートしてもらえる環境で自分の好きなことができるなんて、私が中学生のときにこんな企画があったらよかった! と感じますね。研究や開発に夢中になる人って、かっこいい!きっとトコトンチャレンジに応募した仲間はお互いの「好き」を認め合って、楽しくチャレンジできると思います。
最近は理系の道に進む女子が増えてきましたが、実は工学系に進む子はまだまだ少ないんです。適正に性差はなく、個人差の問題なのですが、受験科目に物理を選ばない女子が多い傾向があります。物理好きの私としては、小中学生のうちから物理を嫌いにならないで、楽しく学んでほしいと思っています。そのためには、手を動かして何かをつくったり、実験したりしながら、周りの大人や仲間からほめてもらえるような達成感を感じることが大事です。
──最後に、「小中学生トコトンチャレンジ」に応募しようと考えている小中学生のみなさんにメッセージをお願いします。
子供の時期に「好き」なことに夢中になって取り組むことで、あなたの「得意」にすることができます。大人になると、「得意」でなければ仕事にならないんです。だから、ぜひ今の「好き」という気持ちを大切にして、行動に移すことで「得意」にしていってください。「小中学生トコトンチャレンジ」は、「好き」を「得意」にする素晴らしいチャンスになるはずです。
3月の審査会で、みなさんのどんな「好き」なこと、「やりたい」ことに出会えるか、とても楽しみにしています。
(撮影/青栁敏史)
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