『子供の科学』創刊100周年メッセージ★髙瀬文人さん「毎月10日の新しい号の発売が待ち遠しくて」

1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者からメッセージをいただいています。

髙瀬文人(たかせ・ふみひと)
1967年宇都宮生まれ。法政大学法学部卒業。出版社で法律、心理学、精神医学などの雑誌・単行本の編集に携わり、2008年よりフリーランスとして活動。著書に『鉄道技術者白井昭』(平凡社)など。法政大学大学院非常勤講師。
【撮影/泉大悟】

──『子供の科学』はいつごろ読まれていましたか? また、出会いの経緯を教えてください。

 1970年代後半の小学校2〜3年生だったころ、図書館の「児童室」で見つけたのがきっかけです。棚に並んでいたバックナンバー5年分を全部むさぼり読み、そして毎月10日の新しい号の発売が待ち遠しくて仕方ありませんでした。

──『子供の科学』のどんな特集に興味があったか、思い出に残っている記事などがあれば教えてください。

 毎月の天体観測や電子工作・模型づくり、よく飛ぶ紙飛行機や発明工夫など、すみずみまで読みましたが、当時は公害が大きな社会問題でした。私も3歳のとき重い気管支ぜん息にかかり、公害病患者に認定されていたこともあって、「子科」に載った公害の解説や、科学技術と社会との関係を考える記事に強く興味をもちました。輪ゴムが自動車の排気ガスの成分などで劣化する性質をとらえて大気汚染の度合いをはかる記事があり、私も交通量が異なる道路の電柱に輪ゴムを貼り付けて、比較分析した結果を中学校の自由研究として発表したこともあります。

1975年2月号『子供の科学』に掲載された「わゴムで大気汚染調査を」。

──子供時代に育んだ科学への興味は現在のお仕事や活動、考え方等につながっていますか? どんなつながりや影響があるか教えてください。

 大学は法学部を選び、科学から離れました。原因と結果を結びつける科学の因果関係と法律の因果関係は必ずしも同じではありません。法律の枠組みやそれに従った先入観が優先された結果、科学的な結論とは違った判断が裁判で下されることがあります。科学で因果関係がはっきりしているのに政策が対応できない場合や、逆に新型コロナウイルス感染拡大の初期のように、科学的な因果関係が不明だが社会が急いで対応しなければならない場合など、科学と社会の関係はさまざまで、手探りで進まなければならないこともあるのだと知りました。

 高校の大先輩に、「公害の原点」といわれる水俣病を調査し、社会に知らせた宇井純
ういじゅん
東大助手(のちに沖縄大学教授)がいました。高校の図書室には宇井先生の著作が揃っており、公害とは科学と社会との関係がうまくいかないときに起こるのだと考えました。それを探りたいと思ったのが、私がジャーナリズムの道を志した理由のひとつです。大学を卒業して編集者になった私は、偶然宇井先生の連載の担当者となり、直接教わる機会もいただきました。そういった考えを進める根本に、「子科」で学んだ科学の基本的な態度があったと思います。

 宇井先生が亡くなってしばらく後、ある企業が基準を超えた希硫酸や鉛を排水や空気中に放出している事件を、ジャーナリストとして取材することになりました。深夜、工場の排水口まで行って排水を採取し、近くの公園の土をスコップで掘り起こしてサンプルを採って分析機関に送りました。正しい検査結果を得るためにサンプル採取の基準を守り、条件を揃えるなど、「子科」で学んだ「科学に向き合う態度」が役立ちました。分析により、基準を大きく超えた「垂れ流し」が証明され、工場長に結果を突きつけて認めさせ雑誌に記事を書くことで、垂れ流しを止めさせました。これによって「社会をよくする」というジャーナリズムや雑誌の役割を果たすことができたのです。

──『子供の科学』100周年に寄せてコメントをお願いします。

 「子科」読者の小学生として読者コーナーを読むと、全国にたくさんの読者がいて、子科を愛読しているんだなと、知らない人たちを仲間のように思いました。投書につけられた編集者の方のコメントを読むのも楽しみでした。雑誌には愛読者がいる。編集者は愛読者のために雑誌全体をつくり上げていく。その興味が、私を雑誌編集者にしたと思います。いま、紙の雑誌や書籍の売り上げが厳しく、私は編集者としても物書きとしても大きな悩みの中にありますが、「子科」は読者との関係を大切にし、つくり続けてこられたからこそ100年続いたのだ、と大きな尊敬の念を抱いています。

──今の『子供の科学』の読者たちにメッセージをお願いします。

 「子科」には、「こんな新しい(興味深い)トピックがある」「実験やものづくりはこのようにするといいよ」といった記事が満載です。記事を読んで、実際に手を動かすことで、将来、あなたがなんでもできる、何にでもなれる、可能性の「卵」を温める役割を果たしていると思います。「子科」をすみからすみまでおもしろがってください。私のように、あるいはこのコーナーに登場されているみなさんのように、歳を取ってから「あのとき、子科で……」と思い出すときが、必ず来るでしょう。

『子供の科学』100周年サイト
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