プラナリアを切っても切っても頭と尻尾が出てくるのはなぜ?

体のどこが欠けてしまったのかを細胞が判断して再生できるから

ここ20年ほどでプラナリアの再生について多くのナゾが解かれました。解かれたナゾを理解してもらうためには、①多細胞生物の個体は多くの細胞でつくられていること、②細胞に番地を振り分けるシステムがあって多細胞生物の形がつくられていること、の2点を理解してもらわなくてはいけません。すなわち、プラナリアの体はたくさんの細胞でつくられた“細胞の社会”であり、その細胞の社会には各細胞に番地を振り分けるしくみがあるということです。プラナリアの体が半分に切られると、残っている細胞が、どの番地の細胞を失くしたかを知り、失った番地の細胞をつくりなおすことができるから再生できるのです。

プラナリアの“細胞の社会”は、筋肉細胞、神経細胞、腸細胞といったいろいろな個性を持った細胞でできています。しかし、プラナリアの再生過程で、筋肉の細胞は筋肉の細胞から、神経の細胞は神経の細胞から再生されるわけではありません。プラナリアには、どんな種類の細胞にもなれる“オールマイティの細胞(新生細胞)”がいて、この新生細胞が分裂・増殖して、必要に応じて筋肉になったり神経になったりして再生を実行します。多くの生き物では成体になる前に新生細胞を失くしていくのに対して、プラナリアは成体まで残すことができるため、高い再生能力を持っていることがわかります(注)。プラナリアは新生細胞を増やすことで体の一部分から必要な細胞をつくり出しているのです。この新生細胞は“細胞の社会”が持っている番地のシステムを使って必要な細胞をつくり出します。番地のシステムについては他の機会に詳しく話したいと思います。

人の社会ではGPSのシステムを発達させてポケモンGOを楽しむようになりましたが、“細胞の社会”ではカンブリア紀くらいにGPSのシステムをつくることに成功して、体の番地をつくり、体のどの部分で細胞を何回分裂させて、どんな種類の細胞をつくるかのトライ&エラーをすることで、いろいろな形の生き物をつくり、環境に合わせて生き物が進化してきたのではないかと考えられています。

(学習院大学理学部教授 阿形清和)


図 プラナリアの再生

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