知るほど面白い文房具の世界 文具王・高畑正幸さんインタビュー【後編】YouTube制作のウラ側大公開!

 前回も身近な文房具の歴史や科学との関係について、お話してくださった文具王の高畑正幸
たかばたけまさゆき
さん。

 最近は、文房具の魅力
みりょく
を伝えるためにYouTubeを活用しているという高畑さんに、どのように撮影
さつえい
しているのかを見せていただきました。普段なかなか見ることのできない動画の撮影風景は必見! また、今回も文房具にまつわるおもしろい話もたっぷりお伺いしました。

思い立ったらすぐに動画撮影できる効率を考え抜いたセット

−YouTubeをはじめたきっかけを教えて下さい。

 文具王として、さまざまなメディアに出演
しゅつえん
させていただいていますが、特にテレビは短い時間に情報を詰め込まないといけないんです。ひとつの商品を紹介するのに2分しか時間がない、ということも多いのですが、そうすると、「新しいボールペンで書き心地がなめらかで……」という基本的な情報と、ちょっとした使い方のコツなんかを話すと終わってしまうんですね。

 多くの人に文房具の魅力を伝える方法を探すなかで、YouTubeが話題になってきて、ディレクターもいないし、時間の制限もないし、いくらでも話せるのがいいなと思いました。1つの商品説明で2時間話すこともあります(笑)。それでも、文章で伝えるブログや冊子
さっし
に比べて、圧倒的に制作時間が短くなりました。文章だと、誤字脱字
ごじだつじ
を確認して修正する作業が必要で、写真を撮影するのも大変なんです。情報量が多いときこそ、動画は便利ですね。

−動画はどのように撮影されているんでしょうか?

 最初はきちんとした三脚
さんきゃく
を使ってカメラを置いて、自分が
うつ
るようにして説明動画を撮っていたんですけど、そうすると撮影も大掛かりになって、編集
へんしゅう
も大変でした。

 そんなときに、テレビで料理レシピの動画の撮影方法を観たんです。キッチンの真上にカメラがついていて、手元の作業をずっと映しているだけだったんですね。それだけで伝わるんだなと気づいて、自分が伝えたい文房具の話も手元だけで十分だろうと。

 そこからは、機材はスマートフォンだけで、キッチンの吊戸棚の下に鉄の板のシートを張って、磁石で背景になるロール紙を着脱
ちゃくだつ
できるようにしました。あとはスマートフォンをクリップ式の三脚につけて、これも
戸棚
とだな
にはさんで、上から撮影しています。狭いスペースでも、軽くて小さくて簡単にできるセットにしておいて、思い立ったらすぐに動画撮影ができるようにしています。

−ご自身のYoutubeチェンネルで人気動画やおすすめ動画を教えて下さい。

 新商品のなかでもシャーペンやボールペンの筆記用具の動画は人気がありますね。みなさんが買おうか迷っているようなものは、よく再生されます。

 でも本当に伝えたいのは文房具にまつわる科学や歴史の話なんです。商品を見ただけではわからないけど、説明を聞くと理解できる仕組みについて、わかりやすく伝えているつもりです。

 自分の家でできる簡単な実験をする動画もたくさんありますよ。インクの違いを説明するためにコーヒーフィルターを使ったり、時には分解をしたりと、ただの商品紹介にならないようにしています。

 多摩六都科学館
たまろくとかがくかん
で行った講演
こうえん
「文房具の歴史と科学」の動画では、日本で文房具が発達した歴史や、文房具に隠された科学についてスライドを使ってわかりやすくお話しているので、夏休み中のみなさんにぜひ観ていただきたいです。

多摩六都科学館で行われた高畑さんの講演「文房具の歴史と科学」の動画

―前回、執筆の裏話をたくさんしていただいた『文房具語辞典』に興味を持ったみなさんへメッセージをお願いします。

 えんぴつとか消しゴムについて、わざわざ説明しなくても「えんぴつはえんぴつでしょ」ってみなさんが思うはずなんです。だから自分でも、いざとなるとどのように説明するかをすごく考えました。どれだけ調べたことか……。

 でも、そういうことを、いちいち考えるということが大事だと改めて気づきました。僕の場合は文房具ですが、スポーツでもなんでも良いと思うので、好きなジャンルについて誰かに説明できるようになると、もっともっとおもしろくなりますよ。自分なりの「◯◯語辞典」を作れるようになったらいいですよね。

 文房具に関しては、読んでいただいたら詳しくなれると思うので、文房具が好きならこの本を活用してほしいです。科学の教科書に書いてあるようなこともたくさんつめこんでいます。この本を基軸
きじく
にして、また気になることがあったらさらに調べてもらえるとうれしいですね。文房具は身近なので、本に書いてあるものは自分の手元にあるものの話ばかりです。ぜひ、自分の持っている文房具で確かめながら、本を楽しんでください。

知って楽しい文房具の話 Part2

 前回に続いて、読者にいまおすすめしたい商品を紹介していただきました。使うと便利で楽しい、仕組みを知るともっと面白くなる商品ばかりです。

■オレンズ(芯径0.2)/ぺんてる

 芯が折れにくく、ノックしなくても書き続けられるシャーペンです。芯が折れないように、パイプでぎりぎりまで囲ってあって、書くと短くなった分だけパイプも引っ込む。そして紙から芯を離したときに、パイプが押し出されて芯を引っ張り出すという仕組みです。だからノックしなくても芯が1本なくなるまで書き続けられるんですね。折れないしずっと書き続けられるから集中できます。

 0.2mmという芯は、現行品としては一番細く、ぺんてるだけが発売しているものです。ぺんてるはシャーペン用の芯になる、「ポリマー芯」を60年前に開発した会社なんですよ。

 そもそもシャーペン用の芯とえんぴつの芯はまったく違うものです。黒鉛
こくえん
粘土
ねんど
を焼き固めたのがえんぴつの芯ですが、これでは細く加工できないし強度が足りません。粘土の比率を高くすれば硬くなるけど書けなくなり、書き味のために黒鉛を増やすと強度が弱くなってしまいます。

 そこで、有機物
ゆうきぶつ
炭化
たんか
させることを考えたんですね。プラスチックと黒鉛をまぜて、酸素を遮断
しゃだん
して
し焼きにするとプラスチックは炭化して炭素
たんそ
になるので、硬いし黒くなる。「細いけど強度があって黒い」ポリマー芯を作れたんです。えんぴつの芯と比べると、倍以上の強度があるんですよ。

■TAGGED LIFE GEAR /ハイモジモジ

 耐洗紙
たいせんし
でできたメモ帳です。耐洗紙とは、その名前の通り「洗っても耐えられる紙」なんです。みなさんの身近なところでは、クリーニングのタグとしても使われているのと同じ紙ですね。洗濯機で回しても破れないくらい丈夫なので、雨や汗に
れてももちろん大丈夫。アウトドアに持っていったり、たとえばお風呂のなかで、なにかアイデアを書き留めておいたりすることができます。濡れても乾けば元通りになり、えんぴつやシャーペン、油性ペンなら書いた文字も消えません。

 耐水
たいすい
ノートで使われる素材では、選挙
せんきょ
の投票用紙にも使われるユポも有名です。こちらはポリプロピレンでできた紙状のフィルムで全く水を吸わないため、書き心地をよくするために表面に凸凹加工をしてあります。耐洗紙の繊維
せんい
は紙なので、ユポと比べると書きやすさもあります。

■ペン磁ケシ/クツワ

 消しクズを集めて一気に捨てることができるペン型の消しゴムです。消しゴムの中に小さな鉄粉
てっぷん
が入っていて、ノック部分にネオジム磁石が入っているので、磁石で消しクズを集められます。集めたあとに、レバーを引くと磁石が離れて一気に捨てることができます。「磁極間
じきょくかん
に働く力は距離の2乗に反比例する」という法則がありますよね。それを利用しているわけです。

 この考え方は昔からあったのですが、昔は磁石のくっつく力も弱くて、鉄粉も粒子
りゅうし
が大きかったのでザリザリしていたんです。これが、ネオジム磁石の登場でくっつきやすくなり、鉄粉が小さくなったので、なめらかに消すことができます。

(取材・文/松井美穂子 写真/高畠正人)

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