【宇宙の重大ニュース】小惑星衝突の脅威から地球を守れ! NASAのDART計画とは?

小天体の脅威から地球を守れ!

 21XX年、地球に小惑星
しょうわくせい
衝突
しょうとつ
――かつて、小天体の衝突によって地球上で繫栄
はんえい
していた恐竜
きょうりゅう
絶滅
ぜつめつ
したとされるように、将来、再び地球がこのような危機に見舞
みま
われる可能性はゼロではありません。

 こうした現実に対処しようと、2022年秋に世界で初めてともいえる試みが予定されています。実験機を小惑星に衝突させて軌道
きどう
を変えさせるという、NASA(アメリカ航空宇宙局)のDART(ダート)計画です。

 小天体が地球に危害を
およ
ぼすリスクはどれくらいあって、NASAの試みなどの取り組みによって、それらのリスクを軽減できるのか。今回は、ダート計画を中心に、地球と小天体の衝突の危険性について
くわ
しく解説していきましょう。

小惑星衝突の想像図。(©NASA/Don Davis)

小天体の軌道を変更させる試みに挑戦

 NASAがダート計画につけたキャッチフレーズは、「惑星防衛実験ミッション」。小天体の脅威
きょうい
に対して地球を防衛するという、重要な使命を担っています。正式名称
めいしょう
は”Double Asteroid Redirection Test(DART)”で、直訳すると「二重小惑星方向転換
てんかん
テスト」となります。

 名前からわかる通り、計画のターゲットにされているのは、1つの小惑星の周りを別の小さな小惑星が回っている二重小惑星(Double Asteroid)です。大きい方はディディモス(直径約780m)、小さい方はディモルフォス(直径約160m)という名前がついています。

小惑星ディディモス(右)、この周りを回るディモルフォス(左)とダート実験機。ダーツゲームの投げ矢のように、
ねら
いを定めて体当たりする。(©NASA/Johns Hopkins APL)

 ディディモスは770日で太陽を一周する軌道を
えが
いていて、遠いところでは太陽から2.27AU(1AUは、太陽と地球の平均軌道距離
きょり
の約1億5000万km)
はね
れますが、近いところでは地球軌道付近の軌道を通過する天体です。万が一にもダート実験機の衝突によって地球に向かって飛来する可能性がないことが、今回のターゲットとなった理由のひとつになっています。

 計画では、ダート実験機を秒速6kmでディモルフォスに体当たりさせ、ディモルフォスの軌道がどのように変わるのかを調べます。物理的な衝突が小惑星の軌道を変更
へんこう
させるのに有効なのかどうかを明らかにすることが目的です。

 注目点は、大きさが約160mのディモルフォスに対して本体の大きさが自動販売機
はんばいき
サイズのダート実験機で、ディモルフォスの軌道をどこまで変えられるのかです。例えるなら、バスくらいの大きさの物体が時速22kmほどのスピードで、エジプトのギザの大ピラミッドくらいの大きさのものを動かそうというもの。将来起きてもらいたくはないですが、その“本番”に向けて必要な情報を実験で収集していくのです。

ダートの大きさ比較
ひかく
。ダートは、長さ8.5mの太陽電池パネル2枚広げると19mほどの長さになる。衝突時の質量は550kg(打ち上げ時は610kg)。(©NASA/Johns Hopkins APL)

地球軌道周辺にまで飛来する小天体

 地球の歴史上、小惑星による被害
ひがい
の大きかった例としては、約6600万年前、長径10kmにおよぶ小惑星がメキシコのユカタン半島に衝突して引き起こされた恐竜の絶滅が挙げられます(コカネット「恐竜が絶滅したのは“運が悪かった”から!?」でも詳しく解説しています)。

 記憶
きおく
の新しい天体衝突としては、2013年2月15日、地球の大気圏
たいきけん
隕石
いんせき
が突入して、ロシアのチェリャビンスク上空で爆発
ばくはつ
。周辺の6都市を
おそ
うエアバーストと衝撃波
しょうげきは
を引き起こしました。この爆発により1600人以上が負傷し推定3000万ドル(約34億円)の被害
ひがい
が発生しました。チェリャビンスクに落下してきた物体の大きさは約18mと推定されていますが、この大きさでもこれだけの被害をもたらすのは
おどろ
きです。

 小天体の衝突で地球が甚大
じんだい
な被害を受けるのは、決してありえない話ではありません。以下のように、直径10kmほどの天体は1~2億年に1度の確率で地球に落下し、直径100kmのクレーターを形成して地球上の生命に大きな被害を及ぼすと推定されています。サイズが小さいものであれば被害は小さいですが、落下してくる頻度
ひんど
は高くなります。

小惑星の大きさと危険度(NASAのデータをもとに作図)。

 世界の天文学者で組織する国際天文学連合(IAU)に小惑星センター(MPC)と呼ばれる組織があり、ここで小天体のリストアップをしています。対象となる天体は(1)地球軌道周辺にまで飛来する地球近傍
きんぼう
天体(NEO)、(2)小惑星(MP)、(3)彗星
すいせい
――の3つに大別され、これまでに発見された数は、それぞれ2万7901個、114万3206個、4433個(2021年12月24日現在)に達しています。

 NASAが設置したNEO研究センターのWEBサイトでは、衝突リスクなどNEOの危険度を知ることができ、100万分の1の衝突確率を上回る小天体は22個あることがわかります。直近では2022年5月に直径13mと推定される小惑星2009 JF1が0.5AUほどにまで地球に接近し、3800分の1の確率で地球に衝突するとされています。

100万分の1の衝突確率を上回るNEOを確率の高い順に並べたリスト。100万分の1の衝突確率を上回る小天体は22個あることがわかる。(NASAのNEO研究センター(https://cneos.jpl.nasa.gov/sentry/)より)

 また、まだ人類が把握
はあく
していないだけで、地球に危険を及ぼす小天体は無数にあると考えられます。いちはやくそのような天体を察知することが重要で、そのためにNASAが設置したのが惑星防衛調整室(PDCO)という組織です。PDCOでは、地球への衝突が予測される小惑星の軌道をそらす技術や手法に関する研究を推進。体当たりして小惑星の軌道を変えるダート計画も、PDCOのプロジェクトのひとつです。

ダート実験機の2022年9月の衝突実験に注目

 スペースXのファルコン9で2021年11月に打ち上げられたダート実験機は、小惑星ディディモスに向けて順調に飛行を続けています。計画では、衝突の瞬間
しゅんかん
は、日本時間2022年9月27日午前8時14分。この瞬間に、地球からは望遠鏡でディモルフォスからの太陽の反射光が変化するのを調べることで、軌道が変わったことを確認します。

 衝突する様子そのものは、キューブサットと呼ばれる小型衛星LICIACubeが確認します。LICIACubeはイタリアが開発した衛星で、ダート実験機から衝突の10日前に切り離され、衝突の際の映像を地球に届けます。このほかESA(欧州
おうしゅう
宇宙機関)のヘラ(Hera)ミッションで打ち上げる小型衛星が、2026年にディモルフォスに接近して、衝突によって形成された痕跡
こんせき
を観測することで衝突の影響
えいきょう
を調べる計画です。

ダート実験機の衝突でできた痕跡を調べるESAのヘラミッション。ヘラの名称は、ギリシャ神話の最高神ゼウスの妻で結婚
けっこん
と出産を
つかさど
る女神にちなんでつけられた。(©ESA–ScienceOffice.org)

 小惑星ディディモスの周りを11時間55分かけて一周している小惑星衛星ディモルフォス。2つの天体の距離はおよそ1.2kmです。下のイラストにあるようにダート実験機の衝突によってディモルフォスは別の軌道を描くようになるとみられていますが、地球の未来を
うらな
う実験に注目です――。

ダート計画によってディモルフォスが描く別軌道の図。(©NASA/Johns Hopkins APL)

 

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

【バックナンバー】

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その①》NASAアルテミス計画の全貌

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その②》パーシビアランスが火星に着陸!火星探査ラッシュの到来

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その③》打ち上げロケット1段目エンジンの燃焼テストに成功!

《シリーズ「アルテミス計画」を追え その④》初の快挙! ヘリコプターが火星の空を舞う

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