小惑星衝突の前に、恐竜類は衰退していた?

タイトル画像提供/足寄動物化石博物館 新村龍也

 今から約6600万年前、直径10kmの小惑星が地球に衝突し、その衝突がきっかけで大量絶滅事件が発生したと考えられています。このとき、鳥類をのぞく恐竜類が姿を消し、その後、恐竜類に変わって哺乳類の繁栄がはじまりました。

 この大量絶滅事件で「鳥類をのぞく恐竜類が姿を消した」ことは、ほぼ確実とみられています。ただし、「小惑星が衝突する前から、恐竜類は数を減らしつつあったのではないか」という仮説がこのたび発表されました。つまり、小惑星の衝突がなくても、恐竜類は滅びた可能性があり、小惑星衝突は“衰退する恐竜類”にとって“ダメ押し”となったのではないか、というのです。

多様性が失われていたのかも

 このたび、モンペリエ大学(フランス)のファビアン・L・コンダミーヌ博士たちは、これまでに報告されている恐竜化石のデータベースから、ティラノサウルス類、ハドロサウルス類、角竜類など、合計6つのグループに注目し、中生代白亜紀後期(約1億年前から約6600万年前)にそれぞれのグループの種の数がどのように変化したのかを調べました。

 その結果、7600万年前ごろからいくつかのグループで種の数が少なくなり、絶滅の数百万年前には6つのグループすべてで種数の減少が確認できたそうです。

 この減少は、地球の気候が少しずつ寒くなっていたこと、あるいは、とくに植物食恐竜の中でハドロサウルス類が本格的に台頭したことで、その“競争相手”である他の植物食恐竜のグループが衰退したことが原因とみられています。そして、こうして種数が少なくなっていたことで、小惑星衝突による急激な気候変化に耐えられる種がいなくなり、結果として鳥類をのぞく恐竜類が滅んでしまったのではないか、と博士たちは指摘しています。

“衰退説”はこれまでにも

 実は、「小惑星が衝突する前から、恐竜類は数を減らしつつあった」という仮説は、コンダミーヌ博士たちの研究が初めて、というわけではありません。これまでにも、いくつかの研究が発表されてきました。

 例えば2009年には、大英自然史博物館のポール・M・バレット博士たちが地層の数と恐竜類の数を分析しています。これは、「地層の数は時代によって異なる」という点に注目したもの。化石は地層に含まれていますから、時代が異なれば、化石の数が異なるのもの当たり前、という“常識”にバレット博士たちは注目しました。

 この“地層の不公平”ともいえる点をコンピューターで調整し、「もしもすべての時代の地層が同じように残っていたら、恐竜類の化石はどのくらいみつかるのだろう?」と計算したのです。その結果、小惑星衝突の直前で恐竜類の数が著しく減っていた可能性があることを指摘しました。

衰退していない?

 こうした“衰退説”とは逆に、「恐竜類は小惑星衝突の直前まで多様性を増やし続けていたのではないか」という仮説もあります。2004年にロード・アイランド大学(アメリカ)のディヴィッド・E・ファストフスキーさんたちは、恐竜類が登場した中生代三畳紀後期(約2億3700万年前〜約2億100万年前)から恐竜類にとって最後の時代にあたる中生代白亜紀後期までの恐竜類のデータを大陸ごとに分析し、すべての大陸で基本的に恐竜類の多様性はずっと増え続けていたことを指摘しています。

 また、2019年には、インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)のアルフィオ・アレッサンドロ・キアレンザ博士たちは、バレット博士たちのように地層に注目した研究を発表し、バレット博士たちとは異なる方法で計算すると、恐竜類は最後まで多様性が増えていたことになる可能性を指摘しました。

衰退? それとも、繁栄?

 結局のところ、小惑星衝突の直前の恐竜類が衰退していたのか、それとも、繁栄を続けていたのかは、よくわかっていません。これまでに知られているデータをどのように使うかによって、“衰退説”になったり、“繁栄説”になったりしているのが現状です。

 なぜ、このようなことが起きるのでしょう?

 一つは、バレット博士たちやキアレンザ博士たちが注目したように、そもそも地層が“不完全”であるということです。すべての時代の地層が、世界各地に同じように残っていたとしたら、そうした地層に残される恐竜類の化石を調べれば、恐竜類の多様性の変化がわかるかもしれません。しかし実際には、世界各地にある地層には偏りがあります。その偏りを補うために、どうしても“仮定”が加わります

 また、そもそも、すべての恐竜類の遺骸が同じように化石に残るわけではない、ということも忘れてはいけません。

 死んだ場所によって、化石のできやすさは大きく変わります。森林で死んだ恐竜、平野で死んだ恐竜、川の近くで死んだ恐竜、海の近くで死んだ恐竜……。みんながみんな、同じように化石として残るわけではありません。平野で野ざらしになった死体よりも、洪水などで短時間に土に埋もれた死体の方が、化石になりやすいと考えられています。

 また、恐竜類のからだの大きさによっても、化石としての残りやすさは変わってきます。基本的に、小さな恐竜の方が、その全身が化石に残りやすい傾向があるようです。

 そして、こうした化石化のメカニズムを私たちはすべて知っているわけではありません。謎だらけなのです。

 さまざまな“不確定な要素”があるため、その要素をどのように補うのか、どのように考えるかによって、“衰退説”になったり、“繁栄説”になったりしてしまいます。まだまだ論争は続きそうです。

恐竜の絶滅はまだ謎だらけ。(画像提供/足寄動物化石博物館 新村龍也)

でも、たしかに多様性の減少は危険

 一方、コンダミーヌ博士たちの「一つのグループが繁栄しすぎると、絶滅の危険性が高まる」という指摘自体は確かなこととみられています。

 例えば、生態系が「寒さに弱く、暑さに強い種」ばかりになってしまった場合、温暖化が進んでいる間は繁栄するかもしれませんが、寒冷化に気候が転じたときに生態系が崩壊してしまうのです。

 だからこそ、種の多様性は大事と考えられています。一つの種が滅んでも、別の種は生き残る。生命はそうして歴史を紡いできたのです。

【参考文献】
・『化石になりたい』監修:前田晴良,2018年刊行,技術評論社
・『恐竜・古生物に聞く 第6の大絶滅、君たち(人類)はどう生きる? 』監修:芝原暁彦,絵:ツク之助,2021年刊行,イーストプレス
・Alfio Alessandro Chiarenza, Philip D. Mannion, Daniel J. Lunt, Alex Farnsworth, Lewis A. Jones, Sarah-Jane Kelland, Peter A. Allison, 2019, Ecological niche modelling does not support climatically-driven dinosaur diversity decline before the Cretaceous/Paleogene mass extinction, Nature Communications, 10:1091, https://doi.org/10.1038/s41467-019-08997-2
・David E. Fastovsky,Yifan Huang,Jason Hsu,Jamie Martin-McNaughton,Peter M. Sheehan,David B. Weishampel,2004,Shape of Mesozoic dinosaur richness,Geology,October 2004, v. 32, no. 10, p. 877–880
・Fabien L. Condamine, Guillaume Guinot, Michael J. Benton, Philip J. Currie, 2021, Dinosaur biodiversity declined well before theasteroid impact, influenced by ecological and environmental pressures, Nature Communications, 12:3833, https://doi.org/10.1038/s41467-021-23754-0
・Paul M. Barrett,Alistair J. McGowan,Victoria Page,2009,Dinosaur diversity and the rock record,Proc. R. Soc. B,276, 2667–2674

土屋 健 著者の記事一覧

オフィス ジオパレオント代表。サイエンスライター。2003年、金沢大学大学院で修士(理学)を取得。科学雑誌『Newton』の編集記者、部長代理を経て独立。現在は、地質学や古生物学を中心に執筆活動を行なっている。著作多数。2019年にサイエンスライターとして史上初めて、日本古生物学会貢献賞を受賞。

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