【ノーベル医学・生理学賞】本庶 佑先生の研究-がん細胞が免疫の攻撃を回避するしくみを解明

2018年医学・生理学賞 本庶 佑
ほんじょたすく
先生(京都大学特別教授
※肩書は受賞当時

 近年、体外から侵入してきた細菌やウイルスなどの異物を取り除く免疫に、がん細胞を攻撃させる「免疫療法
めんえきりょうほう
」が注目を集めています。ただし、免疫が自分自身の細胞を闇雲に攻撃していては、免疫が病気の原因になってしまいます。

 そのため免疫にはブレーキをかけるしくみが備わっており、その一つが2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑博士が研究している「免疫チェックポイント」です。

 本庶博士は免疫を担当する細胞の一つであるT細胞がPD-1という分子を持つことを明らかにしていましたが、その働きはわからないままでした。そこでPD-1の遺伝子を壊したマウスをつくったところ、免疫が自分自身の細胞を攻撃することによって生じる病気になったことから、PD-1は免疫を抑えるブレーキ役だと考えられました。

❶のように免疫細胞であるT細胞ががん細胞を正常に攻撃すれば、がんを発症することはない。しかし、T細胞の表面にあるPD−1分子とがん細胞がつくるPD−L1が結合すると、❷のように免疫の攻撃にブレーキがかかってしまう。

 さらに、がん細胞の中には、PD-1に結合するPD-L1という分子をつくることも明らかにしました。PD-L1がPD-1に結合していては、免疫にブレーキがかかるため、がん細胞が攻撃されることはありません。本庶博士はPD-L1に結合する抗体をつくり、PD-L1とPD-1の間に割って入るようにすると、T細胞はがん細胞を攻撃するようになりました。

 この抗体はすでに医薬品として実用化されており、今後、がんの免疫療法に使われていくと期待されています。

 2018年の医学・生理学賞は、免疫チェックポイント分子阻害因子の発見とがん治療への応用の功績により、本庶祐博士とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン教授の共同受賞となりました。

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斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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