「子供の科学」2026年10月号の「わくわく理科授業」は,神奈川県の横浜国立大学附属横浜小学校の宮野利隆先生の授業を紹介しました。豆電球とLEDを比較しながら,電流について学んでいきます。暗い教室できれいに輝くLEDを見ながらいろいろな不思議を見つけていく楽しい授業でした。誌面で紹介した授業や、いつもの理科授業で大切にしていることについて、宮野利隆先生に詳しく聞きました。
(文:野原博人 連載監修/立命館大学教授)

横浜国立大学附属横浜小学校教諭。川崎市立小学校の教員(10年間)を経て、2023年より横浜国立大学附属横浜小学校にて勤務(現職)。
小学校理科教育を中心に、classroom assessment(教室における評価)と自己調整学習の関係に着目した授業研究に取り組んでいる。学習者自身による評価、学習者同士による評価、教師によるアセスメントやフィードバックが、子どもの学習の調整にどのように機能するのかに着目している。全国小学校理科研究協議会 第9回 開発教材コンテスト 内田洋行賞受賞 サーモボックス(空気の温まり方観察ボックス)
科学的に説明すること
宮野:理科の授業では「科学的に説明する」ことを通して,身につけてきた知識や考え方,日常生活での経験などの証拠をもとに、問いの答えを導き出すことを大切にしています。今回の授業でも、子供たちが「電池のプラスとマイナスで向きが違う」といった生活経験から持っている知識をもとに、実際に自分で試してみることを通して、それを証拠として「もしかしたら電流には向きがあるのではないか」と考えたり、互いに伝え合ったりすることを大切にしました。
野原:授業中に子供たちが迷ったり悩んだりする場面がありました。つなぎ方によってはLEDが点灯しない場面でも、子供たちが操作をしながら、目の前で起きていることを説明しようとしている姿が印象的でした。
宮野:豆電球ではどちらの向きにつないでも光ったのに、LEDでやってみると点灯しないつなぎ方があるという現象が生まれました。そうした体験の一つひとつを証拠として捉えながら考えていく姿が生まれることをいつも大事にしています。
野原:グループやクラス全体で、お互いに説明し合っている姿も印象的でした。普段の授業の積み重ねが、あの授業の場面に表れているように思います。また、今回提示した教材も、子供の思考を活発に促していたのかもしれませんね。
宮野:そうですね。教材が子供たちの興味・関心を引いたということもありますし、日頃から何か現象をもとに語るということが、子供たちにだいぶ身についてきているからだと思います。
子供がお互いに評価しあう理科授業を目指して
野原:教室の黒板にあった掲示物はどのようにつくったのですか。
宮野:あれは理科の授業の中で子供たちと一緒につくり上げてきたものなんです。科学的に説明するために大事なことは何かを考えてきました。いつも理科の授業では,クラスみんなで掲示物を振り返りながら、子どもがお互いに評価し合うことのできることを目指しています。
野原:理科授業の中で,子供たちと一緒につくり上げていくことが大事なんですね。
宮野:理科の授業ではうまく進む場面もあれば悩んだり迷ったりする場面もあります。そんなときに掲示物を確認しながら,「自分の学びはどうだったか」「クラスとしての学びはどうだったか」など、子どもがお互いに学びを振り返り,次の見通しを立てていく,こうした相互評価しながら学び方を身につけていくことが大切だと考えています。

宮野:学年初めから4月、5月と進むにつれて、掲示物も徐々に増やしていきながら、理科の学びを進めてきました。掲示物中にある“吹き出し”は、まさにクラスの子供たちが、理科の授業の中で生み出した言葉なんです。
宮野:例えば,「比較するデータを集める」という項目があるのですが、これは以前の単元で「大事だよね」とクラスで確認したことなんです。今回の授業中も子供は自分たちで電池の数をコントロールして、1個のときと2個のときで比較したり、LEDのつなぎ方を変えて比較したりしていました。
野原:その様子を宮野先生がすぐにクラスやグループで共有したとき、子供たちの活動が活発になりましたよね。LEDの色を合わせ始めたり。
宮野:そうですね。青色の発光ダイオード(LED)は、日本人が開発したものであることを伝えるタイミングも考えていました。これができたことによって、すべての色を表現できるようになったんだよ、と。
工夫した教材の提示で学びを発展させる
野原:今回の授業で使用した豆電球とLEDには、どのような意味があったのでしょうか。
宮野:豆電球には極性がないので、小学校3年生の回路の単元で豆電球を使って、4年生ではLEDを使うと極性に気づく,という理科の授業はよくありますが,今回もLEDを使うことで極性に気づいてほしいと考えていました。4年生の電気の学習ではプロペラをモーターにつけて実験することもありますが、3年生のときに扱っているのは光です。だから急にモーターが出てくるよりは、「光」を対象とし、豆電球とLEDを比較した方がこれまでの学習した内容とつながりやすいのかなと思います。
野原:今回の授業で使用したLEDは3色でしたね。この色を合わせていくと白になっていくことに子供たちは不思議になって、夢中に取り組んでいました。これは中学校理科の学習内容になりますが,発展的な展開への期待も込みで提示したのですか。
宮野:そうですね。まさに、それを子供たちが手元にあるもので、丁寧に操作をしながら実現していました。
子供たちには紙コップも渡しました。色を合わせるときにどうしても手元での操作が難しくなってしまいますが、紙コップに入れれば光が重なります。小さいものを扱っているぶん、手元だけでは見えにくいというのもありますし、LEDの周りの光を遮断するという意味でも紙コップを使うことは効果があると思います。
それから、ボタン電池を使いましたが、ボタン電池はLEDの電極に付けやすいというメリットがあります。小学校の授業では単三や単一の電池を使うことが多いのですが、今、子供たちが日頃遊んでいるおもちゃにはボタン電池が使われていることが多いです。そのボタン電池には、普段は気付きにくいけれどプラスとマイナスがある、ということに気づくことを通して,電池についての理解を深められると思います。
小学校においては、光の三原色や光についての証拠を集めるという学習は発展的な内容にですが、そこに興味を持つ子がいてくれたら嬉しいなと思います。実際、家に帰ってすぐに試してみたことを保護者に説明していた子もいました。「妹の誕生日会はこれで光をつくるんだ」といっていた子もいました。理科の授業では、科学的に証明していくという論理的な問題解決の流れを学ぶことはもちろん大事ですが、発展的な内容に触れて、日常生活に学びが活かされるという側面も大切だと思っています。
自由研究でも、電気のしくみに興味をもった子どもが、発電の仕組みについて探究を進めていました。授業での何気ない「はてな」が子どもの興味関心に触れ、自ら探究することにつながったことを、うれしく思います。
授業で扱った現象をきっかけに、より発展的な追究へと進んでいました。さらに、証拠として使えるデータを自分で集め、そのデータを基に考察する姿も見られました。これは、日頃の理科の授業で大切にしている学び方が、自由研究という新たな探究の場でも生かされている姿だと感じます。
授業で生まれた「はてな」が、授業を越えて子ども自身の探究へとつながっていく。そんな学びのつながりが、これからも大切生まれてくることを期待しています。


宮野先生が理科の授業で大切にしたいこと
野原:グループは3人で編成していましたが,これにはどのような意図があるのですか。
宮野:全員が表現する場を保証できる人数は3人くらいかなと思います。4人になると、全員が対話の中で表現し参加することが難しくなりますし、2人のペアだけだと行き詰まって苦しくなってしまうこともあります。そう考えると、全員の学びと表現が保証されるという意味で3人くらいが適切で、自分の考えをすぐに伝えられる関係が大事なのかなと思います。理科の学びでは、気づいたことをすぐに表現して対話が生まれることが大切だと思っています。

宮野:子供たちの状態に自分も一緒に入り込んで、子供たちが何をしたいのかを感じ取っていくことが大事だと考えながら,日々授業をしています。そのときに子供たちに何が足りない状態なのかを即時的に見て捉えて、足りないところに視点を絞って支援をしていきます。
教師からの「理科の学びではこういうことが大事なんですよ」という視点は、あえて前面に出しすぎないようにしています。たとえば「生命」の単元では、「共通性・多様性が大事。そういう見方をするんだよ」と教えたり、「質的・実体的な見方を働かせるんだよ」と伝えたりすることがあるかもしれませんが、そうした明示的な視点を子供に示すだけではなく、そのときの子供たちの状態の中に一緒に入り込んで,共に学んでいくことは,これからも大事にしていきたいです。
【野原先生の注目ポイント①】科学的に説明すること
現代の理科教育では「現象を科学的に説明する能力」の育成が求められています。これは日本だけではなく、海外の理科教育でも挙げられている課題です。宮野先生の理科授業でも「科学的に説明する」ことを大切にしていました。宮野先生は「科学的に説明する」ことを「身につけてきた知識や考え方、日常生活での経験を証拠として、問いへの答えを導き出す営み」として,日々の理科授業に取り組んでいます。
今回紹介した授業では、「電池のプラスとマイナスで向きが違う」という子供たちの生活経験に根ざした知識が出発点となり、豆電球ではどちらの向きにつないでも点灯するのに、LEDでは点灯しないつなぎ方がある、という予期しない現象に直面する場面が生まれました。この「迷ったり悩んだりする場面」こそが、証拠に基づく説明を生み出す契機となっていました。子供たちは、電池の数やLEDのつなぎ方を自ら操作しながら比較し、そこで得られた気づきを根拠として「電流には向きがあるのではないか」という説明をグループやクラス全体で共有し合っていました。
教師があらかじめ説明の型を示すのではなく、日頃から「何かの現象をもとに語る」姿勢を積み重ねてきたことが、この日の活発な説明活動を支えていました。科学的説明は一回の授業で身につけられるものではなく、学級文化として時間をかけて育まれるものであることが、この実践から見えてきます。
【野原先生の注目ポイント②】教材提示の工夫
この学びを支えたのが、教材の工夫です。豆電球には、極性(電気の流れる方向やプラス(+)とマイナス(-)の端子の区別のこと)がないため、3年生の「回路」の単元では豆電球を用いていますが,4年生でLEDを扱うことで初めて極性に気づく、という発展的な流れが意図されていました。
モーターのような複雑な教材を導入するのではなく、3年生までに扱ってきた「光」に関連する豆電球とLEDを比較させることで、既習内容とのつながりがある学びを可能としました。さらに、青色LEDを提示するタイミングを宮野先生が考えて選んでいたこと、色を重ねると白色になっていくという中学校理科につながる発展的な内容、光を扱いやすくする紙コップの工夫、身近でありながら見過ごされがちなボタン電池の極性など、随所に子供の生活経験や既有知識と結びつく教材上の仕掛けが施されていました。家庭に帰って保護者に説明したり、妹の誕生日会で実演したりする子供の姿が紹介されている点は、教材の工夫が授業内にとどまらず、日常生活における学びの活用にまでつながったことを示す好例といえます。
【野原先生の注目ポイント③】相互評価のあり方
宮野先生の理科授業でのもう一つの特徴は、子供たちがお互いに評価し合いながら学びを進めていく点です。教室の掲示物は、教師があらかじめ用意した評価基準ではなく、授業の中で子供たちと共に「科学的に説明するために大事なこと」を考えながら作り上げてきたものです。学年当初にはなかったこの掲示物は、4月、5月と授業を重ねるにつれて増えていき、学級独自の言葉として蓄積されていきます。
子供たちは、うまく進む場面だけでなく悩んだり迷ったりする場面でもこの掲示物を確認しながら、「自分の学びはどうだったか」「クラスとしての学びはどうだったか」を振り返り、次の見通しを立てていきます。この相互評価は、教師の関わり方にも支えられています。宮野先生は、子供たちの状態に自らも入り込みながら子供たちが何をしたいのかを感じ取り、今何が足りないのかを即時的に見て捉えて、その視点に絞った支援を行っています。「理科の学びではこういうことが大事なんですよ」という視点をあえて前面に出しすぎないようにしている点は、評価の視点そのものを教師と子供が共につくり上げていく姿勢の表れです。また、グループを3人で編成しているのも、全員が対話の中で自分の考えをすぐに表現し参加できる場を保証するための工夫であり、こうした学習環境のデザインが子供たちの相互評価を支える基盤になっていると考えられます。

立命館大学産業社会学部教授。博士(教育学)。研究テーマは理科教育における学習環境論。「子供の科学」の連載「ビーカーくんと探検! わくわく理科授業」を監修。