《子供の科学 深ボリ講座》玉川学園高等部 サンゴ研究部 部員はどんな研究を進めてる?

サンゴ研究部のメンバー。みんなで35(サンゴ)ポーズ! 左後ろに見えるのがサンゴの水槽です。

「教えてセンパイ!」は、科学への飽くなき興味を深められる高校や高専の授業・部活動を隔月で紹介している連載。「子供の科学」2024年1月号では玉川学園高等部のサンゴ研究部にお邪魔しました! サンゴ研究部は、地球温暖化による海水温の上昇など、さまざまな影響により白化し、深刻な危機を迎えているサンゴの保全活動に取り組んでいます。

学内でサンゴを育成し、沖縄に移植する

 沖縄・伊江島で採捕したサンゴ株を学内で育成し、元の伊江島沖に移植する活動を行うサンゴ研究部。部内の「移植班」として行うこの取り組みは、過去にメディアでも度々取り上げられており、世間からの注目を集めています。

 しかし、サンゴ研究部の活動は、それだけにとどまりません。一人一人が興味を持った題材について調べて発表する「研究班」の研究もとてもユニーク! 今回は数ある研究の中から、部員の原くんのコーヒーに関する研究と部長・乙部くんのサンゴ移植の環境条件に関する研究を紹介します。

部室に置かれている水槽内のサンゴ。

白化したサンゴを再利用する手立て。それはコーヒーの焙煎!

 サンゴ=植物と考えている人も多いかもしれませんが、サンゴって実は生物。普段は褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる植物プランクトンを体内に取り込み、この褐虫藻から栄養をもらって生息しています。

 お互いなくてはならない存在のサンゴと褐虫藻ですが、地球温暖化による海水温の上昇など、さまざまなストレスがサンゴにかかると、褐虫藻が失われて、サンゴの白い骨格だけが残ることに。これを「白化(はっか)現象」と呼び、やがてサンゴは死滅を迎えてしまいます。こうしたサンゴの白化現象を防ぎ、保全する道を探して、サンゴ研究部の部員たちは日々移植活動や研究活動に取り組んでいるのです。

東京の学内で育てたサンゴの移植を、沖縄・伊江島沖で移植! 海に潜り、自らの手で行います。(撮影:中川西宏之)

 サンゴを守る活動を進める一方で、白化してしまったサンゴもどうにか再利用できないかと考えたのが部員の原くん。白化サンゴを用いて、おいしいコーヒーを淹れることに挑戦し、どのコーヒー豆を選べばいちばんおいしく淹れられるか、どう手順を踏めば白化サンゴを利用して上手に焙煎できるのか、その工程を研究発表としてまとめています。

「白化サンゴを用いてコーヒー豆を焙煎すると、石焼き芋のように遠赤外線効果で、豆に均等に熱が入りやすくなります。この研究では、町田焙煎珈琲 株式会社の岡社長に来校をお願いし、コーヒーの淹れ方を教えてもらったり、豆の選び方についてアドバイスをもらったりしました」(原くん)

 研究を深める際に、本職のプロから学ぶ。それが玉川学園高等部のサンゴ研究部流! サンゴの移植研究でも専門家や大学教授の指導を定期的に受けたり、企業や自治体と連携したりと、その研究活動は学内の範囲を超えたものとなっています。

白化サンゴを使って焙煎したコーヒーを淹れる原くん。その手つきはプロのよう。取材班もコーヒーをいただきましたが、まろやかでとても飲みやすい!
部室のサンゴコーヒーコーナー。コーヒーを淹れていると、どこからともなく人がやって来ます。

部長の研究発表が海外でも注目を浴びる!

 ほかにもシャコ貝の研究だったり、プラスチックの海洋生物への影響の研究だったりと、さまざまなテーマで自由研究を進めている部員たち。しかし「個々のテーマは自由なものの、どこかしらでサンゴにつながっていることが多いですね」と話すのは、部長の乙部くん。自身の研究は、サンゴど真ん中! サンゴの移植先を選定するには、どんな環境条件が必要かを探っています。

「僕たちは伊江島の協力を得て、サンゴの移植をしていますが、移植先はこれまでもサンゴが生息していた場所。白化のリスクもあります。一方でこれまでサンゴのまったくなかったところでも、有効な移植先を見つけられたら、サンゴを白化で失うリスク分散にもつながると考えたんです」

「そのためにはまず、サンゴが健全に育つのにはどのような条件が必要か=“白化しやすい場所”と“しにくい場所”にどんな環境の違いがあるのかを調査する必要がありました。注目したのは、そこに住む生物。場所によってどんな違いが出るか、環境DNA分析を利用することにしました」

 乙部くんのこの研究は「つくばサイエンスエッジ2023」で賞に輝き、オーストラリアの環境保全会議に招待されることに。慣れない英語でのスピーチを頑張った結果、7か国中、なんと3位に輝くこととなりました。

オーストラリアの環境保全会議に招待された部長の乙部くん。家でもサンゴを育てています。

サンゴ研究部では、とことん好きなことを学べる!

 今回、とても印象的だったのは、どんな内容の研究をしているのか部員のみなさんに聞くと、全員が流暢に、そして自信満々に説明してくれたこと。玉川学園は「自由研究」という科目が授業にある学校。探究型学習を大事にし、授業でプレゼンの仕方も学べるそうです。さらにサンゴ部に入部すると理科系の大会に積極的に出場したり、サンゴの現状や保全活動を外部に発信したりで、自然と学び、動き、伝える力が育っていくと話します。

 最後に、この部に入った動機、おすすめポイントを乙部くんに聞くと、こんな話をしてくれました。

「僕は小さいころから、魚や水辺の生き物を捕まえては家に持ち帰り、水槽で飼って、観察するのが好きでした。水槽が増えすぎて、家は大変なことになりましたが……(笑)。そんな僕の様子を見た両親が勧めてくれたのが、この玉川学園です。中でも設備の整った環境で研究ができるこの部は、自分にぴったり。サンゴの保全活動や研究自体ほかの学校ではできないことなので、興味のある人にはとてもいい経験ができると思います」

 今回、取材した玉川学園サンゴ研究部のことは、本誌連載(2024年1月号掲載)で取り上げているので、こちらもぜひ、読んでみてくださいね。今後も「教えてセンパイ!」(奇数月掲載)では、自分の興味をとことん突き詰められる学校や部活動を紹介していきます。ぜひ、楽しみにしていてください!

撮影/川上秋レミイ

取材・文

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フリーの編集・ライター。育児、健康、暮らし、ファッションなど幅広い分野で活動。「子供の科学」では、連載「教えてセンパイ!」を担当。

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