《コカデミア カガクノ英語》 第13回 巨大化したクジラたち

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

 クジラといえば、みなさんはどの種類を思い浮かべるでしょうか? クジラ類は種類が豊富で、その中には、シロナガスクジラやマッコウクジラのように巨大なものもいます。巨大なクジラは、進化の中でどのようにして誕生したのでしょうか。今回ご紹介するのは、クジラの巨大化をもたらした可能性のある遺伝子が発見されたというニュース。ここから、クジラついて深ボリします。このニュースは「コカトピ」2023年4月号に掲載しました。まずは、内容をみてみましょう。

今回のトピック

クジラの巨大化に関わった遺伝子を発見

 地球上で最大級の巨体を誇るクジラ類は、約5000万年前に、祖先となる小型陸生動物から進化しました。体の巨大化は、寿命や繁殖力、健康といった特徴に影響を与えることや、とくにがんの発生を増やすと予想されることから、関心が寄せられて、広く研究されています。しかし、クジラの進化で、どのような遺伝子が巨大化に関わっていたのかは大きな謎です。
 このほど、カンピーナス州立大学(ブラジル)などの研究グループは、4つの遺伝子ががんのリスク増加などの悪い影響を抑えながら、体の巨大化に関わっていることを発見しました。
 研究グループは、クジラの巨大化に関わる遺伝子の候補として、成長ホルモンに関連した5つの遺伝子と、クジラ類とやや近縁な偶蹄類(ウシやヒツジなど)での体の大型化に関連する4つの遺伝子に注目して、進化に伴う変化を調べました。対象はシロナガスクジラやマッコウクジラなど体長が10m以上の7種のクジラを含む、合計19種のクジラ類です。
 今回の成果により、クジラの進化が遺伝子のレベルで明らかになろうとしています。

 このニュースの元になった論文のタイトルは「The molecular evolution of genes previously associated with large sizes reveals possible pathways to cetacean gigantism」です。

 ざっくりと訳すと「これまでに体の大型化に関係していることが知られていた遺伝子(genes)の分子進化(molecular evolution)から、クジラ目(cetacean)の巨大化(gigantism)に至る可能性のある経路が明らかになった」といった意味になります。なかなか難しいタイトルですが、要するに「クジラの巨大化に関わったであろう遺伝子を見つけた!」ということです。

 ここで、分子進化(molecular evolution)という、あまり聞き慣れない用語が出てきました。分子進化とは、生物の進化の中で生じた遺伝情報の変化を指します。ここでの遺伝情報は、おもにDNAやRNAの配列のことです。少し深ボリすると、生物の進化の歴史を調べる方法はいくつかあります。その1つは化石です。化石の形などから進化の歴史を推定することができます。一方で、分子進化を利用する方法も盛んに行われています。この方法により、現在生きている生物種の遺伝情報を比べて、その進化の過程を調べることができるのです。

 さて、クジラについて知るために、まずは次のセンテンスを読んでみましょう。

ここに注目① toothed whales と baleen whales

Currently, there are approximately 86 species of cetaceans, and these animals are divided into two groups: odontocetes (toothed whales) and mysticetes (whales with baleen that allow the filtration of food).

 この文章を訳すと「現在、クジラ目は約86種(species)います。そして、それらのクジラ類は2つのグループに分類されます。ハクジラ類(odontocetes / toothed whales)とヒゲクジラ類(mysticetes / whales with baleen that allow the filtration of food)です」という意味になります。odontocetesとmysticetesは、それぞれハクジラ類とヒゲクジラ類を指す、学名に基づく用語です。

 クジラといえば「whales」が広く使われますが、生物学では「クジラ目の動物」として「cetacean」と表すことがあります。目というのは生物学の分類階級の1つです。

 さて、上の文章にもあるように、クジラ類は、ハクジラ類とヒゲクジラ類という2つのグループに分類されます。ハクジラ類(toothed whales)は、歯をもつクジラの仲間です。一方、ヒゲクジラ類(baleen whales)には歯がなく、オキアミや小さな魚など、エサを
しとるための(allow the filtration of food)「ひげ板」または「くじらひげ」(baleen)と呼ばれる器官を持つのが特徴です。

ハクジラ類 toothed whales
ヒゲクジラ類 baleen whales

ここに注目② いろいろなクジラの名前

 では、次のセンテンスを読んでみましょう。

One notable characteristic of cetaceans is the large size of several species. For example, the blue whale (Balaenoptera musculus) is the largest animal known to have existed, measuring 30 m long, and weighing more than 150 tons.

 この文章をざっくりと訳すと、「クジラ目の目立った特徴(characteristic)のひとつは、いくつかの種が大型(large size)であることです。例えば、シロナガスクジラ(英名:blue whale /学名:Balaenoptera musculus)は現存する最大の動物で、体長30メートル、体重150トン以上です」という意味になります。

 この論文には、いろいろなクジラが登場しますが、その中で、大型のクジラをいくつかみてみましょう。それぞれ、和名とともに英名と学名も記してあります。

<ハクジラ類>
マッコウクジラ:sperm whale(学名:Physeter catodon


<ヒゲクジラ類>
シロナガスクジラ:blue whale( 学名:Balaenoptera musculus
ナガスクジラ:fin whale(学名:Balaenoptera physalus
ザトウクジラ:humpback whale(学名:Megaptera novaeangliae
ホッキョククジラ:bowhead whale(学名:Balaena mysticetus
コククジラ:gray whale(学名:Eschrichtius robustus

 それぞれのクジラにつけられた和名や英名の由来を調べてみると新たな発見があるかもしれませんね。

論文情報
タイトル
Silva F.A. et al.
The molecular evolution of genes previously associated with large sizes reveals
possible pathways to cetacean gigantism
Scientific Reports(2023) 13: 67.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-24529-3


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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