《コカデミア カガクノ英語》 第16回 ケルプの森から考える「エコ」

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得のコーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

 私たちの暮らしは、多くの生き物によって支えられています。とはいえ、海の生き物は、私たちの棲むところとは遠く離れた世界のように感じるかもしれません。ところが、やはり海の生き物もヒトにとって重要な存在であることが多々あります。今回は、ケルプの森には計り知れない価値があるというニュースをもとに、海藻と生態系にまつわる言葉を深ボリします。このニュースは「コカトピ」2023年8月号に掲載しました。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

今回のトピック

ケルプの森の価値は約73兆円

 ケルプの森は世界中の海にみられ、人々に自然の恵みをもたらしています。ケルプとは、コンブなどの大型褐藻類のことで、食品や医薬品、肥料に使われ、よい漁場にもなります。その大切なケルプの森が世界中で減少していますが、食い止められずにいます。その理由の1つは、ケルプの森の価値が正確に評価されていないからです。
 そこで、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)などの研究グループは、ケルプの森がもたらす漁業生産、栄養循環、炭素除去に注目して、経済的な価値と生態学的な価値を調べました。
 その結果、ケルプの森が1年間に1ヘクタール(ha)あたり約1912万円、全世界で総額で約73兆円もの価値を生みだしていることがわかりました。たとえば、ケルプ漁は年間1haあたり約389万円を生み出しますが、大気中の窒素を吸収して栄養を循環させる働きを組み合わせると、959万円の価値があります。さらに年間491万トンもの炭素を大気から吸収していると推定され、気候変動を緩和している可能性があるのです。

 この記事のもとになった論文のタイトルは「The value of ecosystem services in global marine kelp forests」です。ざっくり訳すと「世界の海に広がるケルプの森における生態系サービスの価値」といった意味になります。

 この論文には、次のようなセンテンスがあります。

While marine kelp forests have provided valuable ecosystem services for millennia, the global ecological and economic value of those services is largely unresolved.

 直訳すると「海に広がるケルプの森(marine kelp forests)は数千年にわたり(for millennia)貴重な生態系サービス(valuable ecosystem services)を【私たちに】提供してきた(have provided)が、その生態系サービスがもたらす生態学的(ecological)、経済学的な(economic)価値(value)については、大部分が未解決である(largely unresolved)」となります。今回は、このセンテンスに出てくる2つのキーワードに注目してみましょう。

ここに注目① kelp forests

 ケルプ(kelp)は、コンブ科の海藻の総称です。ここで海藻に関する言葉をみてみましょう。海藻はseaweed といい、海に棲む大型の藻類のことです。海藻サラダは、seaweed salad となります。一方、紛らわしいのですが、海草は sea grass で、こちらは海に生えるアマモなどの被子植物を指します。海藻と海草は別物ですので、覚えておきましょう。

 さて、海藻といっても、いろいろな種類があります。それらは、褐藻(brown algae)、紅藻(red algae)、緑藻(green algae)の3つのグループに大きく分けられます。algae は藻類を表します。

 ケルプの森をつくるコンブなどは褐藻類です。褐藻類の海藻には、ほかにヒジキ、モズク、ワカメなどがあります。紅藻類の海藻では、アサクサノリやテングサなどが有名です。緑藻類の海藻にはアオサ、アオノリ、カサノリなどが知られています。

 forest には、森林や林立といった意味があり、陸上に生える樹木の森林をイメージすることが多いかもしれませんが、kelp forests のように、海に林立する海藻に対しても、forest という言葉が使われます。

海藻 seaweed
海草 sea grass
藻類 algae
褐藻 brown algae
紅藻 red algae
緑藻 green algae

ここに注目② ecosystem services 

 「エコ(eco)」という言葉は、環境によいといった意味で、日常生活の中で、よく耳にします。授業で紹介されることも多いのではないでしょうか。この「エコ」の由来は、生態学を意味する ecology の「eco」といわれます。

 ecology (生態学)とよく似た用語に、ecosystem (生態系)があります。生態系にはいろいろな働きがあり、私たちの暮らしを支える恵みをもたらします。たとえば、食料、きれいな空気や水、気候の安定、森林浴でのやすらぎなどです。私たちが生態系から受けとっている恵みを「生態系サービス(ecosystem services)」と呼んでいます。ケルプの森の例から想像できるように、私たちの暮らしは、生態系からの大きな恵みで成り立っているというわけです。

 海藻サラダが食卓にのぼったら、褐藻か紅藻か緑藻か考えてみると楽しいかもしれませんね。それと同時に、私たちの生活は、いかに多くの生き物や生態系によって支えられているのかを改めて考えてみたいですね。

論文情報
タイトル
Eger A.M. et al.
The value of ecosystem services in global marine kelp forests.
Nature Communications 14, 1894 (2023).
https://doi.org/10.1038/s41467-023-37385-0


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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