《コカデミア カガクノ英語》 第3回 吸血コウモリはどんなtetrapod?

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

吸血コウモリが血をエサにして生きられるワケを解明!

 今回、紹介するのは、『子供の科学』2022年6月号の「コカトピ!」でも掲載した「吸血コウモリ」についてのニュースです。

 まずは、マックス・プランク研究所などの研究チームによる論文の概要をまとめてみます。

 吸血コウモリ(ナミチスイコウモリ)は中南米の森林や洞窟に棲み、夜間に家畜や野生動物に噛みつき、その血を吸います。哺乳類で唯一、血液のみをエサとしています。しかし、血液に含まれる栄養分は少ないので、吸血コウモリは毎食体重の1.4倍もの血液を吸う必要があります。吸血コウモリは栄養の少ないエサに対して、どのように進化してきたのでしょうか?
 この謎を解くために、吸血コウモリと近縁なコウモリ26種について遺伝情報を比べました。その結果、吸血コウモリでは13の遺伝子が失われて、働かなくなっていることがわかりました。
 失われた遺伝子の影響は、コウモリの脳から腸に至るまで、あらゆるところに現れています。たとえば、甘味と苦味の受容体の量が減り、味覚が変化しますが、これは血液の不快な味を感じにくくさせるのに役立つと考えられます。遺伝子が失われることよって、吸血コウモリは血液をエサにできるようになったのです。

 上の記事の元になった論文タイトルは「Gene losses in the common vampire bat illuminate molecular adaptations to blood feeding」です。直訳すると、「吸血コウモリ(vampire bat)の遺伝子欠失(Gene losses)から、血液をエサにすること(blood feeding)への分子レベルでの適応(molecular adaptations)が明らかになる」のようになります。

 少し難しいのですが、遺伝子欠失(Gene losses)がおこり、ある遺伝子の配列が変化したり、遺伝子自体が失われたりすると、当然ながら、その遺伝子の機能が失われます。遺伝子が失われて進化するというのは、少し不思議な感じがするかもしれませんが、今回の吸血コウモリの研究を含めて、実際には多くの実例が知られています。

英語のココに注目「tetrapod」

 この論文に書かれている2つの文章を見てみましょう。

(1) Vampire bats are the only mammals that feed exclusively on blood.

(2) Vampire bats are the only obligate sanguivorous lineage among tetrapods.

これらの文章を、ざっくりと直訳すると次のようになります。

(1) 吸血コウモリは、もっぱら(exclusively)血液をエサにする唯一の哺乳類(mammals)です。

(2) 吸血コウモリは、四肢動物(tetrapods)の中で、唯一血液だけをエサにする系統(の動物)です。

 (2)のsanguivorous は「吸血性の、食血性の」といった意味です。また、obligate には生物学では「無条件的な、絶対的な、偏性の、真正の」など意味があり、ここでは、血液「だけ」をエサにするといった意味合いになります。

 上の2つの文章を読み比べると、実は似たような内容を異なる単語を組み合わせて表現していることがわかりますね。このような言い換え(「パラフレーズ」という)は英語の論文を読んでいるとたくさん出てきます。

 今回は、(1)の哺乳類(mammals)をパラフレーズした(2)の「tetrapods」という単語に注目してみましょう。

 テトラポッド(tetrapod)というと、海岸などに設置されている、いわゆる波消しブロックをイメージしますよね? 波消しブロックには、ふつう4つの脚がありますが、tetra には「4つ」という意味があります。

 生物学では、 tetrapod というと、四肢動物(四足動物、四脚動物ともいいます)を表します。つまり背骨のある4本足の動物のことで、魚類をのぞく脊椎動物のことを指します。具体的には、両生類、は虫類、鳥類、哺乳類のことで、脚が退化したヘビなども、tetrapod の一員です。コウモリは哺乳類なので、もちろん tetrapod のメンバーです。

 tetrapodには波消しブロック以外にも意味があることを、ぜひ覚えておきましょう。

吸血コウモリの体はすごい

 血液(blood)だけをエサにして生きられるのは、ナミチスイコウモリを含めた吸血性のコウモリ3種のみです。一方、1400種ともいわれるコウモリの大部分にとって、エサとなるのは昆虫や果物、花蜜、花粉、あるいは小さなカエルや魚などです。

 血液をエサとするには、いくつかの問題があります。まず、血液には炭水化物や脂肪が少なく、カロリーもほとんどありません。また、血液には高濃度の鉄分が含まれています。鉄分は体を維持するのに必要な栄養素ですが、多く摂りすぎると、消化管や肝臓などに悪影響を及ぼす可能性があるのです。吸血コウモリは、低カロリーで栄養的に偏った血液をエサにできるように、体が進化しているんですね。

 哺乳類でありながら空を飛びまわり、低カロリーの血液をエサにする吸血コウモリ。その体には驚くようなヒミツが、たくさん隠されているようです。

参考論文 https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm6494
タイトル
Gene losses in the common vampire bat illuminate molecular adaptations to blood feeding
著者
Moritz Blumer et al.
論文情報
Scoemce Advances(2022): 8 (12)
DOI: 10.1126/sciadv.abm6494


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保谷彰彦 著者の記事一覧

文筆家。博士(学術)。主な著書は『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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