《子供の科学 深ボリ講座》生物部ってどんなことするの?➀「野生生物の調査に役立つオリエンテーリング」

 『子供の科学』2022年5月号から、新連載「教えてセンパイ!」がスタート。科学への飽くなき興味を深められる高校や高専の授業・部活動を隔月で紹介します。記念すべき第1回は東京の中央大学附属高等学校・生物部を取材。高尾山などに出向き、野生生物の調査・観察・研究をすることをメインに活動しているクラブです。顧問の先生が東京都の許可を得てムササビを学内で飼育しているなど、特筆すべきポイントは数多くありますが、中でもユニークなのが、スポーツの“オリエンテーリング”の大会への参加を部活動の一環として取り入れていること。「文化部である生物部の活動でスポーツを行うのはなぜ?」。こちらでは、そんな疑問に答えるべく、生物の研究・調査にオリエンテーリングが役立つ理由を紹介します。

中央大学附属高校生物部の皆さん。付属の中学生を含め、約70名が在籍。

オリエンテーリングってどんなスポーツ競技?

 そもそもオリエンテーリングとはどのようなものか知っていますか? それは、北欧が発祥のスポーツ。山の中であらかじめ定められたポイントがあり、そのポイントをすべて巡った上で、スタートからゴールまでのタイムを競い合います。日本でも全国の山で大会が行われており、密を避けられるため、コロナ渦の世の中ではますます注目を集めているのです。

オリエンテーリングで鍛えられる、野生生物の調査活動に適した能力とは?

デスクの上の地図は、過去に参加したオリエンテーリングの大会の地図。左は普段使用しているコンパス。

 文化部の生物部がオリエンテーリングの大会に参加するのは世間的に見て、一般的ではありません。そこには、顧問の岡崎先生のある狙いがあります。岡崎先生は、部員たちがオリエンテーリングに参加することで鍛えられる能力が、野生生物の調査活動をする上での手助けとなると考えているのです。

 オリエンテーリングの大会では、スマホの持ち込みが認められていません。(万が一、携帯できたとしても、圏外なので役に立たないとのこと)。参加者はコンパスと指定の地図を頼りに山中を移動します。そこで求められるのが、地図を正しく読み解く力と最適なルートを導く判断力です。例えば、縮尺を確認し、目的地までの距離を計算したり、コンパスが示す方位や見える周囲の景色、地図情報を照らし合わせながら自分の正確な居場所を掴んだり、等高線が示す山の起伏を読んで、最適なルートを考えたりといった具合です。もちろん、山の中のポイントを移動するので、道に迷うことも。十分な体力が必要ですし、大会中の移動は一人なので、やり遂げる責任感も養われます。

 一方で、普段、生物部が行うムササビなどの野生生物の調査活動にスポットをあてると、主戦場は同じ山の中! 険しい山道の調査ルートを決めたり、どの場所に野生生物のフンや食痕などの痕跡があったかなどを地図に記録したりと、地図を正しく読み解く能力と最適ルートを導く判断力はここで活きてきます。もちろん、調査活動には山道でへばらない旺盛な体力や自主的に行おうとする心持ち・責任感なども求められます。とくに普段はチームで行動するクラブ活動。部員が多い分、地図読みなどもついついできる人にまかせてしまいがちに。だからこそ、オリエンテーリングを自分一人で行い、自信をつける経験が大切と顧問の岡崎先生は考えています。

生物の研究大会とオリエンテーリングの大会、双方で活躍

 このように生物調査の土台となる能力を鍛える目的でスタートした中央大学附属高等学校生物部のオリエンテーリング大会への参加ですが、アジアユース選手権大会など、海外の大会で活躍する部員まで登場し、校内では“走れる生物部”、“アクティブな文化部”を経て、今では“生物部は運動部“とまで言われているそう。ただし、主軸の生物分野を疎かにしているわけではありません。ムササビの研究では全国のスーパーサイエンススクール(SSH)に通う生徒が集った「令和3年度SSH研究発表会(全国大会)」の生物分野で奨励賞を受賞する部員がいるなど、目覚ましい成績を納めています。部員たちは文化部的な側面と運動部的な側面の両方を体験できることこそ、この生物部の魅力と考えているのです。

オリエンテーリングで身につけた力をテーマパークで応用⁉

 今回、オリエンテーリングのことを取材した生物部の部員の皆さんは、地図が読めることを始め、サバイバル能力が高く、人としての“生きる力”に長けている印象! 顧問の岡﨑先生も、生物部の活動を通して、生徒たちがどんどんたくましくなっていくのを日々目の当たりにしているそう。ここで得た力は調査研究にはもちろん、どんな分野においても応用できそうですね。生物部の皆さんは、テーマパークの地図を見ながら、人気のアトラクションの効率的な周り方をプランニングするのも上手らしいですよ!

 読者の皆さんもオリエンテーリングに興味があったら、ぜひ調べてみてください。大会に参加することで、中央大学附属高校生物部の先輩のように、科学に役立つさまざまな能力が身に付くことは間違いありません。

取材・文

江原めぐみ 著者の記事一覧

フリーの編集・ライター。育児、健康、暮らし、ファッションなど幅広い分野で活動。「子供の科学」では、連載「教えてセンパイ!」を担当。

生物部ってどんなことするの?➁「ムササビの調査活動を紹介!」

コカネットプレミアム(DX)会員は、雑誌『子供の科学』バックナンバー電子版が読み放題! 以下をクリック☆

中高生の科学『コカデミア』TOPに戻る

最新号好評発売中!

子供の科学 2025年 1月号

CTR IMG