《コカデミア カガクノ英語》 第10回 花粉を運ぶポリネーターの新発見

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

夜行性ポリネーターの重要性 

 蜜や花粉を求めて花を訪れる昆虫たち。その昆虫の体についた花粉が花から花へと運ばれると、タネが実ります。このような花の受粉にまつわる研究が、今回のテーマです。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

 花から花へと花粉を運ぶ昆虫などをポリネーター(花粉媒介者)といいます。ポリネーターのおかげで、作物や野菜には果実やタネができます。ところが、近年では、その大切なポリネーターが減少しているという報告が相次いでいます。
 これまでの研究で注目されてきたポリネーターは、マルハナバチやミツバチなどのハチ類でした。しかし、実際には、ハチ類の他にも多くの昆虫がポリネーターとして働いています。とくに夜行性のポリネーターの重要性は広く知られていますが、その実態は謎だらけです。その主な原因として、夜間の観察が難しいことが挙げられます。
 このほど、オーフス大学(デンマーク)などの研究グループは、ムラサキツメクサの花には、日中はマルハナバチが訪花するものの、夜間はヤガ科のガが訪花していることを発見しました。これは「ムラサキツメクサのポリネーターはハチだけ」という100年来の通説を覆す、画期的な成果となりました。
 この研究では、2021年6月~8月に、15台のタイムラプスカメラを用いて、スイスアルプスの草原に生育するムラサキツメクサのポリネーターを開花期に昼夜にわたって追跡調査しました。これらのカメラで、合計36個の花が撮影されました。
 その結果、主にヤガ科を中心とするガ類が、全訪花回数の34%に達することがわかりました。マルハナバチは61%でした。家畜の飼料として重要な作物でもあるムラサキツメクサの受粉には、夜間に活動するガが重要な役割を果たしていたわけです。

 このニュースの元になった論文タイトルは『Moths complement bumblebee pollination of red clover: a case for day-and-night insect surveillance』です。ざっくり訳すと『ムラサキツメクサ(red clover)でのマルハナバチ(bumblebee)による送受粉(pollination)を補うガたち(moths):昼夜にわたり(day-and-night)昆虫を観察(insect surveillance)した事例(case)』となります。

ここに注目① bee

 まずは、1つめのセンテンスを読んでみましょう。

What is the relative visitation rate of bumblebees, moths and other insects to Trifolium pratense?

 直訳すると「ムラサキツメクサ(Trifolium pratense)での、マルハナバチ類やガ類、その他の昆虫たちの相対的な(relative)訪花率(visitation rate)はどのくらいか?」となります。Trifolium pratense はムラサキツメクサの学名です。「訪花率」というのは、花を訪れる割合のことです。

 論文のタイトルにもあるように、ムラサキツメクサの英名は red clover です。日本ではアカツメクサとも呼ばれます。ちなみに、似た植物のシロツメクサは white clover です。日本でも、「クローバー」という名称はおなじみですね。

 さて、ハチといえばbeeという言葉をまず習うと思いますが、beeはふつうハチの中でも 「ハナバチ類」のことを指します。ハナバチというのは、幼虫のエサとして花粉や蜜を集めるハチの総称で、ミツバチ (honeybee) やマルハナバチ (bumblebee)の仲間からなるグループです。一方、スズメバチのように、狩りで幼虫のエサをとる狩りバチは、hunting wasp といいます。

 ハチの仲間にはたくさんの種類がいるので、日本語と英語で名前を調べてみるとおもしろいですよ。

bee ハナバチ類
honeybee ミツバチ
bumblebee マルハナバチ
hunting wasp 狩りバチ

 ちなみに、今回の研究で夜の重要なポリネーターとして注目された「ガ」は、英語では moth です。ちょっと紛らわしいのが moss です。moss は「コケ植物」のことで、もっと正確にはコケ植物の中でも、スギゴケなどの「セン類」を意味します。この機会に、セットで覚えておくとよいかもしれませんね。

ここに注目② pollinator

 では、2つめのセンテンスをみてみましょう。

Recent decades have seen a surge in awareness about insect pollinator declines.

 ざっくりとした意味は「ここ数十年(Recent decades)、昆虫(insect)のポリネーター(pollinator)の減少(declines)に関する認識(awareness)が急速に高まっている」となります。surge は「急に高まること」を表します。

 この論文にたくさん登場するのが pollination という単語です。pollination とは、花の雄しべでできた花粉が、雌しべの柱頭に運ばれることを意味します。日本語では、「受粉」「送粉」「ポリネーション」などと訳されます。

 そして、ポリネーションを担う動物を pollinator といいます。 pollinator は「花粉媒介者」「送粉者」「ポリネーター」などと訳されます。花によって、さまざまな pollinator がいて、ハチやガなどの昆虫だけでなく、コウモリや鳥なども知られています。今回の研究で、ムラサキツメクサの pollinator として、マルハナバチやミツバチなどのハナバチ類だけでなく、夜性のガも重要な働きをしていることがわかったわけです。

 ムラサキツメクサは、日本各地に生えている身近な草花です。pollinator との関わりを想像しながら、この花を眺めてみたら、また違った世界が広がりそうですね。

参考論文
タイトル
Moths complement bumblebee pollination of red clover: a case for day-and-night
insect surveillance.
著者
Alison J. et al.
論文情報
Biology Letters. (2022) Vol. 18: 20220187.
https://doi.org/10.1098/rsbl.2022.0187


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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