10年後に社会に出て仕事に就く、小中学生のみなさんへ

――12月1日(火)に『こども手に職図鑑』が発売されます。本書は、「将来性があり」「長く続けれられ」「AIに取って代わられない」現代の“手に職”を100種集めた新しい時代の職業図鑑です。ここでは『こども手に職図鑑』の刊行を記念して、本書に付属する「一生モノの職業が一目でわかるマップ」を監修してくれた、ジャーナリストの渡邉正裕
わたなべまさひろ
さんに、10年後に社会に出るコカネット読者に向けて、このさき人間の仕事はどう変わっていくのか、解説していただきました(編集部)。

こども手に職図鑑

AIに取って代わられない仕事100 一生モノの職業が一目でわかるマップ付

保育士からYouTuberまで 消えてしまう仕事とは? 憧れのあの職にはどうやったらなれる? 親も先生も知らない、人生100年&AI時代の「手に職」を掲載。2020年12月1日発売。2860円(税込)

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 デジタル化(つまりITや人工知能、ロボット技術の進化)によって、人間の仕事はどう変わるのか? どのようなポイントを抑えて、将来の仕事を選ぶべきか。

 わかりやすいよう、身の回りの事例で説明したいと思います。みなさんが社会で活躍し始める約10年後から、メインプレイヤーとして社会を動かすようになる20~30年後の世界を考える参考にしてください。

 この変化は、昔からずっと一定方向、すなわちアナログ→デジタルに進んでいます。技術は確実に進歩し、退歩しないからです。だから30年前と今を比較する視点にも意味があります。ことデジタル化に関しては、未来は過去の延長線上にあるわけです。

顧客志向
こきゃくしこう
で進化していく

 小中学生なら、漫画を読む人が多いでしょう。日本が世界に誇る文化で、有望な仕事です。僕が中学生だった1980年代、都内の最寄り駅周辺には本屋が3軒あり、授業で感想文の提出を求められる課題図書(今と同じで、岩波文庫『君たちはどう生きるか』や、夏目漱石の著作など中学生にとっては退屈な作品)だけでなく、『コロコロコミック』『少年ジャンプ』のような漫画雑誌も、単行本漫画も、よく買っていました。

 当時は『キン肉マン』『ドラゴンボール』の初期で、出るたび全巻揃えて本棚に飾るわけですが、何度も読み返すでもなく、かさばって場所をとるので、色々もったいない気はしていました。「自分に子供ができたら読ませればいいや」などと考えて40冊も50冊も並べていました。

 それから30年、3軒のうち2軒は食品スーパーと居酒屋に代わり、今では一番小さかった本屋が1軒残るのみ。人々は本屋ではなく、「Amazon.com」で紙の本を買い、電子書籍を買うようになったからです。デジタル化が原因です。

 みなさんも、スマホやタブレット、PC画面でデジタル形式の漫画を読むでしょう。私が本屋で漫画を買っていたのは、当時は紙しかなかったから。世の中は、お客さんが便利だと思う方向に技術革新
ぎじゅつかくしん
が進み、変化して行きます。キーワードは、プロフェッショナル、日本語でいうと「顧客志向
こきゃくしこう
」です。

◇創造、信用、感情を使うA

『こども手に職図鑑』に収録している「一生モノの職業が一目でわかるマップ」。縦軸は上が「頭脳労働」、下は「身体労働」を示しています。横軸は左が「機械が強く」、右は「人間が強い」を示しています。この2つを軸に、2020年現在の日本にある職業を示したのがこのマップです。※すべての職業が入っているわけではありません。※職業名の並びは順不同です。

 そうなると、漫画という産業に関わる職業は、どうなるでしょうか? まず、漫画家の存在価値
そんざいかち
は、変わりません。物語を産み出す創造力
そうぞうりょく
(クリエイティビティ)は人間の絶対的な強みで、ITやAI(人工知能)にその代わりはできないからです。

 上の図を見てみましょう。主に頭を使い、人間のほうが得意な職業が、右上のエリアAになります。人間の強みは、創造できること、信用があること、感情を持っていること。この3つに集約されます。

 近年の漫画制作は、紙に描かず、ITの力を借りて、いきなり画面上の編集ソフトにデジタル形式で描くことも一般的です。AI化が進むと、たとえば主人公の輪郭
りんかく
だけ描いたら、自動で着色されたり、候補
こうほ
となる最適な表情が出てくるようになる可能性は高いです。このように、「人間+AI」のコラボレーションで、まるで半人半馬
はんじんはんば
のケンタウロスのように、半人+半AIで、どんどんパワーアップして効率よく仕事ができるようになるのが、エリアAの職業群です。

◇手先と体が武器となるB

 連載を持っているような漫画家は、チームで仕事をします。アシスタントを常時3~4人雇うのが普通です。まずは漫画家が、「ネーム」と呼ばれる1話の全体像(物語のあらすじ、ページ内のコマ割り、キャラの顔やセリフなど)を考え、アシスタントが背景や効果線など細かいところを仕上げる、という役割分担になります。大半の漫画家は、このアシスタントを経験しています。

 アシスタントは、雇用主
こようぬし
である漫画家の指示に従って、ひたすら作業をします。クリエイティビティー(創造性)は求められず、正確・迅速
じんそく
に期日までに終えることが重要で、これを「労働集約型
ろうどうしゅうやくがた
」の仕事と言います。人間の手先による作業が必須となる「職人」的な仕事で、機械化は不可能。このように、主に手先や体を使う仕事で、人間にしかできない職業群
しょくぎょうぐん
が、エリアBになります。

 人間のほうが得意な理由は、手先が必須だから。AIは頭脳部分だけなので、そこがいくら進化しても、その手や体にあたるロボット技術が必要な仕事には役立ちません。ロボット技術は、まだ小学生レベルにも進化していませんし、たとえば階段を昇ってドアを開ける程度の動きでも、人間の子どもには勝てません。今後も難しいでしょう。

 エリアBには、前述の創造信用感情に加え、手先が武器となる職業が入ります。この5つが、AIより人間のほうが強みを発揮する要素だと考えてください。

◇編集者はA

 漫画家は、担当編集者とコミュニケーションをとって、その意見も参考にしながら、物語を考えます。だから編集者にも創造力は必要です。編集者はフリーで働く人もいますが、通常、出版社などの社員です。

 編集者はAIに置き換わりません。『少年ジャンプ』なら、ジャンプのクオリティー、ブランド力を維持
いじ
する人が必要で、そのために、漫画の面白さだけでなく、差別表現
さべつひょうげん
がないか、名誉棄損
めいよきそん
になるデマが描かれていないか等もチェックします。問題ある作品を掲載すると、信用に関わるからです。信用判断は、人間にしかできません。実にグレーゾーンが広く、流動的
りゅうどうてき
だからです。

 ジャンプなら面白い、ジャンプなら安心だ、という信用があるから、読者が購読
こうどく
するわけです。また、担当編集者は、長い連載のなかで、心が折れそうになった漫画家を応援し、元気づけます。感情を持つ人間にしかできない仕事です。手先や体というより、創造信用感情が重要となるため、編集者はエリアAです。30年後も残っている職業でしょう。

◇書店員や印刷職はD

 では、AIや機械のほうが得意なものは、何でしょうか? つまり、消えていく仕事のほうです。書店の数が過去20年で約半分に減ったため、書店員や書店経営者という職業は、どんどん消えて行っています。

 書店員さんの仕事のなかで、たとえば本を書棚に並べたり、撤去して返送するといった作業はなくなっていくでしょう。プロフェッショナル(顧客志向)という点から考えてみてください。お金を払うお客さん(本を買う人)は、そこにあまり価値を感じていません。欲しい漫画が決まっている人は、紙本でもアマゾンならボタン1つで翌日届きますし、デジタル版なら一瞬で入手できます。

 アマゾンのAIは、購買履歴のビッグデータに
もと
づいて、「あなたへのおすすめタイトル」をリコメンドしてきます。こうした、情報をデジタル形式で取得できるものについてはAIが圧倒的に強く、人間には勝ちめがありません(逆に、感情や信用や創造はデジタル形式で取得できないため人間にしかできません)。

 書店員さんが、莫大
ばくだい
な数にのぼる漫画のなかから、好みに合った漫画をズバリおすすめしてくれるなら、そこで説明を受けて買いたい人もいるでしょう。つまり、漫画コンサルタントや漫画アドバイザーといったコンシェルジュ職は、ありえます。これらは、来客の感情を読み取り、信用を勝ち得ておすすめするわけですから、もちろん人間にしかできない、エリアAの職業になります。

 つまり書店員は、モデルチェンジしない限り、左側のエリアDです。AIや機械のほうが得意な職業群に入ります。本を印刷する印刷業の人たちも、説明するまでもなく、エリアDです。漫画を読みたい人は、紙であろうとデジタル版であろうと構わないので、デジタル版が増えれば紙のニーズは減ります。

 同じ「漫画に関わる仕事」をしたいと思っても、今から、これらの職業群(書店関連・印刷関連)を目指す人は、従来とは違うアプローチによって、エリアAやエリアBの職業にモデルチェンジする必要がある、ということです。

◇多様化・二極化で、生まれる仕事

 今ある仕事をベースに考えると以上のようになりますが、未来が長い若者は、今はまだない仕事に就く可能性が高いわけです。だから、今ある仕事のなかから選ぶのではなく、「デジタル化でどんな新しい仕事が生まれるか?」を考えたほうがよいでしょう。

 デジタル化・機械化が進むと、あらゆる職業が、多様化
たようか
二極化
にきょくか
します。たとえば、エリアBの寿司職人。寿司屋は、昔はちょっと高級なイメージがあり、どこの街にも何軒かあったものですが、今や回転寿司チェーンが1個100円で提供し、中の職人は流れ作業です。

 シャリを握るのは人間ではなくロボット。注文を受け付けるのは人間ではなくパネル。寿司を運ぶのも人間ではなく自動レーン。一方で、昔ながらの街の寿司屋も、人気店はしっかり残り、味も価格も中途半端な「普通の寿司屋」は消えつつあります。これが二極化です。

 つまり、ITコンサルタントのような、寿司屋のIT化を進める職業(エリアA)は伸びています。今の回る寿司屋は、お会計(支払い)がまだ集中レジで、列に並ぶこともありますが、今後は注文パネル上で席にいながら各自がQRコード決済できるようになるでしょう。顔認証で、アマゾンのように、パネル上でAIがおすすめしてくるかもしれません。まだまだ進化の途上
とじょう
です。

 パティシエにしても、以前は街のケーキ屋さん、つまり洋菓子店がそこかしこにあり、朝10時の販売開始に間に合うよう、朝6時出社でカスタードクリームを
くなど仕込みを始め、夕方まで働いていました。生クリームは、作り立てでないと味が落ちるからです。

 これが技術革新
ぎじゅつかくしん
によって、わかりやすい例でいえば、劇的
げきてき
においしい「コンビニスイーツ」が登場。「世の中の7割がたの人は、機械化されたケーキで満足すると思います」と私が取材したパティシエの女性も言っていました。

 そうなると、ホンモノ志向のお客さんは残り3割で、この人たち向けに、記念日用の
ったケーキや、高級店で出すホンモノのケーキを作ることになります。残りのパティシエは、コンビニスイーツの開発や、工場で大量生産する際の生産指導、家庭用制作キットの開発・監修などにあたるわけですが、工場はマニュアルに基づくライン作業なので、パティシエの人数は最小人数で済み、残りはパートさんになりますから、大半は失業します。二極化、多様化というのは、こういうことです。

◇デジタル化を進める側になる

 では、漫画を取り巻く業界では、デジタル化でどうなるでしょうか。漫画家全体では、かなりプラスの効果が期待できます。たとえば今人気の『鬼滅
きめつ

やいば
』も、翻訳されたデジタル版(英題『Demon Slayer』)が、アマゾンのキンドル版で世界中に配信され、読まれています。デジタル化で、海外顧客
かいがいこきゃく
とも容易につながれるようになりました。

 電子書籍市場では、漫画がなんとシェア8割超を占めています。漫画は、文字が多いビジネス書に比べ密度が低く、すぐに読み終えられ、あまりじっくり読み込んだり、そうそう再読もしないので、かさばる紙である必要性が低いのです。

 『LINEマンガ』などは無料の作品も多く、無名の漫画家でも、どんどん作品を発表しやすくなりました。つまり、漫画家になるハードルが下がり、「漫画家」という職業を名乗れる人数が増えたのです。デジタル化以前は、紙を印刷する費用がかさみ、作品を発表する少年誌にもページ数に限りがあるため、同人誌くらいしか発表の場がなかったのですが、今では無限のデジタル空間が世界中に広がり、実力さえあれば、どんどんキャリアアップできる環境です。職業の裾野が広がるのは、大変よいことです。

 逆に、ほとんど趣味レベルで、細々と続ける漫画家も増えています。世界で読まれる作品を描く漫画家との間で、やはり二極化が拡大しています。

 「漫画は好きだけど描くほどではない」という人なら、AI化を進めるほうの仕事を目指すのが近道です。まずはプログラミングに興味を持ち、ITエンジニアを目指しましょう。たとえば、LINEマンガというプラットフォームを作って管理するエンジニア。ドコモやソフトバンクなどの通信キャリアでも、もっと漫画を幅広い層に届けることができるはずです。前述の、漫画コンシェルジュ的な機能も、AIを活用したらどんどん進化しそうです。漫画は、あまりにも作品数が多いため、自分にぴったりのものが見つけられず、お互いもったいない状態になっています。

◇プロフェッショナルだけが残っていく

 デジタル化(AI化・機械化)は、その職業の本質(エッセンス)、純粋な付加価値を浮かび上がらせ、純度を高めます。技術の進歩で制約条件が解消していくことによって、中途半端なものは市場原理によって消え、本質的な価値だけが残ることになります。価値の提供先は常にお客さんですから、プロフェッショナル(顧客志向)だけが残る、ということです。

 前述のとおり、街の寿司屋、街のケーキ屋、街の本屋は、この30年でどんどん
すた
れ、中途半端な店が
つぶ
れていきました。デジタル技術が未発達だった時代は、お客さんが「仕方なく」利用していた店が多かった、ということです。選択肢が増えれば、本当にお客さんから求められている店だけが残ります。

 これは言い換えると、プラトン哲学でいうイデア=「ものごとの真の姿」、だけが残り続けるということを意味します。いま現在、人間の眼に見えている形は、決してイデアではありません。たとえば漫画本は、たまたま現在は紙を素材として作られ、その格好をしているけれど、その真の姿は、「様々な架空のキャラクターが
りなす面白く感動的なストーリーを創作して消費者に届けること」であって、その点では、静止画でなくても、アニメーション(動画)でも、その本質は同じです。

 紙である理由は何もありませんし、3Dホログラム映像でもよいわけです。未来の漫画は、VRヘッドマウントディスプレイをかけて、立体的に迫力ある絵がタブレット画面から飛び出て動きまわるかもしれません。

 そういった「漫画のイデア」から考えたとき、日本語で紙に
って日本国内の書店に並べることは、全体のごくごく一部でしかないことがわかるでしょう。

◇日本人は半減し、世界は100億人に迫る

 デジタル化と同時に、「グローバル化」の視点も、常に考えておく必要があります。みなさんが生きている間に、日本の人口は半分に減り、世界の人口は40年後に100億人に迫るまで増え続けると予想されています。

 となると、漫画一つとっても、巨大な海外市場に売り込むエージェントのような仕事が、有望になるかもしれません。翻訳し、著作権
ちょさくけん
の知識を持ち、違法コピーを防ぐ手立てを講じ、版権
はんけん
を管理し、漫画家が創作に専念できるようにする重要な役割を持ちます。

 以上と同様のことを、寿司職人のイデア、パティシエのイデア、漫画家のイデア、書店経営者のイデア……と、あらゆる職業について、グローバル化する社会を前提に、考えをめぐらせてみましょう。

 余計な制約条件
せいやくじょうけん

いでプロフェッショナル(顧客志向)に徹していったとき、最後に残る仕事内容は何か? デジタル化で新たに実現できること、生まれそうな職業は? グローバル化でどのようなチャンスが生まれるか? これを考え続ける習慣を、みなさんにはぜひ、身につけてほしいと思うのです。

 より大人向けになりますが、ぜひ以下の単行本(AI化編、グローバル化編)も読んでみてください。

10年後に食える仕事 食えない仕事

http://www.mynewsjapan.com/projects/48#section1

こども手に職図鑑

AIに取って代わられない仕事100 一生モノの職業が一目でわかるマップ付

保育士からYouTuberまで 消えてしまう仕事とは? 憧れのあの職にはどうやったらなれる? 親も先生も知らない、人生100年&AI時代の「手に職」を掲載。2020年12月1日発売。2860円(税込)

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渡邉正裕 著者の記事一覧

広告ゼロ、完全独立ニュースサイトMyNewsJapanのオーナー/編集長/ジャーナリスト。SFC→日経新聞記者→IBMコンサルを経て、ジャーナリズムのみのネット新聞社を創業(2004年)。著書『35歳までに読むキャリアの教科書』『トヨタの闇』『10年後に食える仕事 食えない仕事』(グローバル編とAI編)など多数。 広告ゼロ、完全独立ニュースサイトMyNewsJapanのオーナー/編集長/ジャーナリスト。SFC→日経新聞記者→IBMコンサルを経て、ジャーナリズムのみのネット新聞社を創業(2004年)。著書『35歳までに読むキャリアの教科書』『トヨタの闇』『10年後に食える仕事 食えない仕事』(グローバル編とAI編)など多数。

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