H3ロケット初号機打ち上げに失敗/第2段エンジンに着火できず、指令破壊信号によって破壊

ショックと大打撃が走る

 3月7日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工業が開発を進めてきたH3ロケット初号機の打ち上げが失敗しました。第2段の「LE5B-3エンジン」が着火しなかったのが原因です。H1ロケット(1986年初打ち上げ)の第2段に使われて以来、計66回に及ぶ成功実績のある「LE5エンジン」の流れを汲む成熟した技術に関わる部分に原因があるとみられるだけに関係者もショックを隠しきれません。

 2022年10月には小型ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げにも失敗しており、高い信頼性を誇ってきた日本の宇宙開発技術にとって大打撃です。日本の宇宙開発計画、ロケット打ち上げビジネスへの影響は避けられません。

第1段の「LE9エンジン」の燃焼開始に続き固体ロケットブースターが点火され、飛び立つH3ロケット初号機。第2段の「LE5B-3エンジン」が着火せず、打ち上げに失敗しました。(©JAXA)

ホッとしたのも束の間、急転直下の失敗に呆然

 固体ロケットブースターが着火しなかったことによる2月17日の打ち上げ中止から仕切り直しとなった、3月7日。電気信号のトラブルの問題を解消し、悪天候を回避して万全の体制で打ち上げに臨んだはずでしたが、残念な結果となりました。

 打上げ執行責任者の岡田匡史まさしプロジェクトマネージャは失敗を認識した瞬間の状況について、「なぜ起きてしまった(LE5B-3エンジンが着火しなかった)のかわからず、ちょっと呆然ぼうぜんとしていた」と語り、急転直下の失敗を現実のものと受け止め切れていない状況がうかがわれました。というのも、その直前まで、2度の年度をまたぐ延期の原因となったH3ロケット第1段の「LE9エンジン」の燃焼が無事に終了して、ホッとひと安心していたからです。

 この日の朝、午前10時37分55秒に打ち上げられたH3ロケットは、1分56秒後に固体ロケットブースター、3分32秒後には先端に搭載した先進光学衛星「だいち3号」を覆う衛星フェアリングの分離に成功。さらにはLE9エンジンは打ち上げから約300秒間の燃焼を無事に終え、第1段の切り離しまでの一連の手順が順調に進んでいて、次は実績のあるLE5エンジンを改良して開発したLE5B-3エンジンにバトンタッチしようというところでした。

 ここまでに打ち上げから5分4秒が経過していました。ところが……その12秒後、LE5B-3エンジンに着火する時刻になっていましたが、岡田プロジェクトマネージャが見つめるモニターからの情報ではLE5B-3エンジン噴射よる飛行コースの変化が見られませんでした。

JAXA発表資料(右下の表)「(6)第2段エンジン第1回推力立ち上がり(SELI)」の部分は、「(参考)予測値」が「316秒 5分16秒」となっているのに対して「打ち上げ後経過時間(フライト結果)」の部分は記載はなく、エンジンが稼動しなかったことを意味しています。(©JAXA)

第一段分離からの12秒間に何が起こらず、何が起きたのかが焦点 

 この瞬間、岡田プロジェクトマネージャの記憶ではH3ロケットは高度400kmに達していましたが、速度が衛星を軌道に投入するには不足していました。エンジン温度などの情報からも、LE5B-3エンジンが燃焼していないのは明らかでした。

 エンジンの着火は、機体から点火信号を送信→点火信号がケーブルを伝達→エンジンに点火信号が到達→エンジンに着火という段階で進む手順になっています。一連の流れは、通常であれば第1段の切り離しから第2段エンジン燃焼開始までの12秒の間に進んでいるはずでしたが、どこかでストップしてしまって先に進まなかったと考えられます。

 果たして、一連の流れの前半にあたる「機体から点火信号を送信→点火信号がケーブルを伝達」に失敗したのか、あるいは後半の「エンジンに点火信号が到達→エンジンに着火」に問題があったのか。JAXAでは打ち上げ失敗の原因究明のために、この12秒間に何が起きて、何が起きていなかったのかを特定する作業を進めています。

LE5エンジンをベースに改良が加えられてきた第2段エンジンはH1、H2、H2A、H2Bに使われ、高い信頼性を誇ってきました。(©JAXA)

 信頼性が高いとはいえ、コストを抑えるために採用した自動車の電子部品が宇宙で不具合を起こしたのか。あるいはエンジンに関係する後半であれば、新規開発の部分はあるとはいえLE5エンジンを含めた実績を裏切る結果となりますし、機体に関係する前半であれば大部分が新開発となったことが影響したことも考えられます。

 とはいえ、これまで繰り返し実施してきたテストでは問題が見つかっていなかったことから、浮かびあがってくるのが、どこかにあったトラブルを見過ごしてしまうような漏れがあったことです。

2017年4月に実施された、開発途中のLE5B-3エンジンの燃焼試験の様子。(©JAXA)

宇宙開発新時代を迎え、激化する競争

 折しもNASA(アメリカ航空宇宙局)を中心に月への人類の再着陸を目指すアルテミス計画が進んでおり、日本も月周回有人拠点「ゲートウエイ」の建設に参加、そして新たな日本人宇宙飛行士の候補者が決まったばかりです。さらには2023年は、スペースX社(アメリカ)の超大型ロケット「スターシップ」、ESA(欧州宇宙機関)の新型ロケット「アリアン6」、そして中国が宇宙ステーションを建設するなど、宇宙開発新時代の競争は激化しています。

 こうしたなか、日本としては、打ち上げ能力ではH2Aロケットを上回り、打ち上げコストではH2Aロケットの2分の1にあたる約50億円に抑えたH3ロケットで打ち上げビジネスにおける国際競争力を高めようと狙っていました。2014年の開発から9年の苦難を経て、ようやく迎えた初号機(開発費約2000億円)打ち上げでした。

 さらには今回の失敗によって失われた「だいち3号」(開発費約280億円)に続く「だいち4号」が2023年度打ち上げ予定のH3ロケット2号機に搭載されていますが、この打ち上げも大幅なスケジュール変更が迫られる結果となりそうです。地球環境の観測にも支障が出る恐れも考えられます。

原因を究明し、これからへ活かす

 世界で日本が科学技術立国として闘っていくには、H3ロケット初号機の失敗原因を特定して再発を防止する以外に道はありません。打ち上げから13分55秒後、指令破壊信号によってH3ロケットは破壊されましたが、LE5B-3エンジンが着火できなかったと判明してからおよそ8分間、JAXAは可能な限り計測データを地上にダウンロードする作業を実施しました。

 宇宙開発計画への影響は必至ですが、開発費、開発に要した時間を無駄にしないためにも、データを解析して原因を究明することが日本の科学技術の底力を示すことになります。

H3ロケット初号機の失敗で失われた先進光学衛星「だいち3号」の想像図。(©JAXA)

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

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