【ノーベル化学賞】田中耕一先生の研究-分子を壊さずにタンパク質の質量を測定する技術を開発

2002年化学賞 田中耕一先生(島津製作所主任研究員※肩書は受賞当時

 物質の質量は、レーザー光線を当ててイオン化した物質の移動によって測定されてきました。物質が軽ければより速く移動するので、移動する時間を基準に物質の質量を測定することができるのですが、私たちの体を形づくるタンパク質は、強いレーザー光線を当てると簡単に分解してしまうため、タンパク質の質量を正確に測定することはできませんでした。

 そこで田中耕一博士はタンパク質を含む試料に分解を防ぐ物質を加えることにしたのですが、実験を繰り返すもタンパク質の分解を防ぐ物質を見つけることはできませんでした。ある日、誤ってグリセリンを混ぜてしまったコバルトの粉末を試料に加えたところ、タンパク質を分解させずにイオン化することに成功。検出器に到達するまでの時間からタンパク質の質量を正確に測定できるようになりました。

 遺伝子の働きを明らかにするには、遺伝子に記された情報に則って合成されるタンパク質について詳しく調べる必要があります。そのため生命科学の研究では田中博士が考案した技術を取り入れた質量分析計が広く利用されています。

 こうした功績をたたえて、2002年に田中博士にノーベル化学賞が贈られました。

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サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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