【ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え! vol.26】ウソと科学 つづき【子供の科学10月号】

 『子供の科学2025年10月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。

イラスト/obak(@oobakk

お化けと文化的背景

 本誌では、お化けは帰納法的にも演繹的にもお化けはいないという、夢もへったくれもない話をしました(笑)。でも科学というのは、そうやって事実を積み重ねて、現実をみる作業なのですから、仕方アリマセン。

 では、どうして人間は「お化けがいる」、「妖怪がいる」と考えてしまうのでしょうか? そこには、人間の不思議な心理が関係しています。科学的にまだ解明されていない現象や、見たり触れたりしたものが説明できないとき、人はそれを「わからない」ではモヤモヤとしてしまうので、科学的にわからないことをひとまず「妖怪」や「お化け」に置き換えて安心したいという気持ちから、こうした怪異は生まれてきたと考えられます。

 例えば、昔の人々が経験した不思議な現象には、実は自然現象が隠れていました。

・スネコスリ
夜中に背中や肩をくすぐられたような感覚を与える妖怪ですが、実はこれはクモの糸が体に絡まった感覚が元になっています。昔の人は、夜に巣を張るクモの生態を知らなかったため、正体不明の不快感を「妖怪のしわざ」と考えたのです。クモが蜘蛛の巣の骨組みとなる糸を出して風にたなびかせているものにひっかかっているだけです。

・カマイタチ
農作業中に手足に小さな切り傷ができる現象を、かつては妖怪のせいだと思われていました。でも実際には、イネ科の植物の葉や茎が鋭く手を切っただけのこと。原因を知らないと、人間の想像力は勝手に「カマイタチ」と名付けて説明したのです。

 このように、人間は未知や不安に対して、「原因があるはずだ」と考え、科学的な理由がわからないときは、物語や妖怪で納得してしまう性質があります。また、不摂生や、健康のために、お腹を冷やさないほうがいい場合は、雷さまにおへそを取られるから布団で隠しなさいという話も、内臓を冷やさないための民間の生きる知恵が怪異となったものです。

 つまり、妖怪やお化けは、人間が自然や不思議な現象を理解しようとする過程で生まれた「心の安全装置」ともいえるわけです。夜道で聞こえる風の音や、庭に張った蜘蛛の糸にびくっとしても、昔の人はそれを妖怪に見立てることで、不安を整理していたのです。

 こう考えると、お化けや妖怪の話は、単なる迷信ではなく、人間の知識や心理の歴史が生み出した知恵の形、ともいえるかもしれません。科学的に説明できるものも多いですが、人間の想像力が生んだ物語としてどうしてその怪異が生まれてきたんだろう……と文化的背景に目を向けてみるのもいいかも知れません。

 近年の怪異だと、「きさらぎ駅」や「八尺様」、「くねくね」などが有名です。これらは、ネットを介して広まるという新しいタイプの怪異です。

 怪異というのは、人間が望んで生み出している。そう考えるとおもしろいですね。

子供の科学2025年10号

今月号の特集は「キノコのミステリー」。とても身近な存在のキノコですが、実はとても不思議な生き物です。いつから地球上にいて、何種類くらいいるのか…キノコの謎を解いていきます。別冊付録ポスターは変わった形や色のキノコを集めました。特集と一緒に楽しんでください。その他、大昔の地球がどんな気候だったかを知る手がかりになる「年稿」について紹介。どんなものが含まれていて、何が示されているのかを解説します。

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自称、不良科学者。サイエンス作家、科学監修、大学講師と多岐にわたって活躍。YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」での配信や、『アリエナイ理科ノ大事典』シリーズ(三才ブックス)、『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』(ソシム)などの著書も多数。

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