『子供の科学2025年10月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。
イラスト/obak(@oobakk)
お化けと文化的背景
本誌では、お化けは帰納法的にも演繹的にもお化けはいないという、夢もへったくれもない話をしました(笑)。でも科学というのは、そうやって事実を積み重ねて、現実をみる作業なのですから、仕方アリマセン。
では、どうして人間は「お化けがいる」、「妖怪がいる」と考えてしまうのでしょうか? そこには、人間の不思議な心理が関係しています。科学的にまだ解明されていない現象や、見たり触れたりしたものが説明できないとき、人はそれを「わからない」ではモヤモヤとしてしまうので、科学的にわからないことをひとまず「妖怪」や「お化け」に置き換えて安心したいという気持ちから、こうした怪異は生まれてきたと考えられます。
例えば、昔の人々が経験した不思議な現象には、実は自然現象が隠れていました。
・スネコスリ
夜中に背中や肩をくすぐられたような感覚を与える妖怪ですが、実はこれはクモの糸が体に絡まった感覚が元になっています。昔の人は、夜に巣を張るクモの生態を知らなかったため、正体不明の不快感を「妖怪のしわざ」と考えたのです。クモが蜘蛛の巣の骨組みとなる糸を出して風にたなびかせているものにひっかかっているだけです。
・カマイタチ
農作業中に手足に小さな切り傷ができる現象を、かつては妖怪のせいだと思われていました。でも実際には、イネ科の植物の葉や茎が鋭く手を切っただけのこと。原因を知らないと、人間の想像力は勝手に「カマイタチ」と名付けて説明したのです。
このように、人間は未知や不安に対して、「原因があるはずだ」と考え、科学的な理由がわからないときは、物語や妖怪で納得してしまう性質があります。また、不摂生や、健康のために、お腹を冷やさないほうがいい場合は、雷さまにおへそを取られるから布団で隠しなさいという話も、内臓を冷やさないための民間の生きる知恵が怪異となったものです。
つまり、妖怪やお化けは、人間が自然や不思議な現象を理解しようとする過程で生まれた「心の安全装置」ともいえるわけです。夜道で聞こえる風の音や、庭に張った蜘蛛の糸にびくっとしても、昔の人はそれを妖怪に見立てることで、不安を整理していたのです。
こう考えると、お化けや妖怪の話は、単なる迷信ではなく、人間の知識や心理の歴史が生み出した知恵の形、ともいえるかもしれません。科学的に説明できるものも多いですが、人間の想像力が生んだ物語としてどうしてその怪異が生まれてきたんだろう……と文化的背景に目を向けてみるのもいいかも知れません。
近年の怪異だと、「きさらぎ駅」や「八尺様」、「くねくね」などが有名です。これらは、ネットを介して広まるという新しいタイプの怪異です。
怪異というのは、人間が望んで生み出している。そう考えるとおもしろいですね。


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