【ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え! vol.30 最終回】嘘と科学は逆の存在 つづき【子供の科学2月号】

 『子供の科学2026年2月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。

イラスト/obak(@oobakk

 さてさて、本誌でも話をしたように、今回でこの連載も最終回です。

 本誌では「嘘を見抜く」話をいろいろしてきた締めくくりとして、そもそも「嘘」ってなんでこんなに強いの? という話をして、それゆえ反則技なんだという話をしました。

 その続きとして、ここではよくある「科学っぽい嘘」がどういう構造でできているのか、ざっくりまとめてみました。もちろん、嘘はそこら中にあって、さまざまなバリエーションがあるので、全部を紹介することはできないのですが、嘘のつくり方にはある程度パターンがあるので、それを知っておくだけで、「そうかも?」と思えるようになるはずです。

善悪で紹介する

 「添加物」は悪なので、「無添加」がいい。「人工」のものは体に悪いので「天然」のものがよい、「ワクチン」は毒なので「打たない方がいい」といった、まず頭から、極端に善悪を決めてしまうというのが嘘科学には多く見られます。

 よくないものもあるかもしれないけど、全部が悪いわけじゃないだろ……と思うかもしれませんが、世の中には「これはいい、これは悪い」と決めつけてスッキリしたい……と思う人がいます。そういう人は、テレビゲームは脳や教育に悪いからダメ、ネットは嘘しか書いてない、天然のものの方が人工のものよりいい……といった例外を認めない考え方になりがちです。

 嘘科学は、そういう人を狙い撃ちして「そうなんですよ、だからこの天然塩を買いましょう、たったの1万円ですよ」と商売ができるわけです。

 天然も人工も線引きは曖昧ですし、そもそも「いい/悪い」というのも、何に対してなのか、どう影響するのかを考えないで「いい・悪い」だけで考えると、大事な判断を他人に任せる、つまり嘘つきにのっとらせてしまうということができるわけです。

 だから、はっきりと「これは悪・これは善」といってるような話をみかけたら、気をつけないといけないわけです。例えば、怪しい健康食品を売る悪いやつは「医者はみんな悪事をして儲けてる悪いやつだから、信用するな」というわけです。そうすれば、怪しい健康食品を買ってくれる人が増えるし、その商品が嘘であることを説明する人から騙された人を切り離すことができるからです。

 だから、ネットには「〜〜という薬は危険」とか「医者は実はXXを使ってません」みたいな、嘘情報がバンバンアップされるわけです。これらも、善悪で騙すタイプの嘘の基本です。

恐怖を煽る 恐怖を利用する

 次に、恐怖を煽ると人は騙されやすくなります。そして、怖い自然現象や事故が起こってしまうと、そこにつけこんで怪しい情報がSNSでぶわっと出てくるのは、嘘つきが獲物を探し回っているからです。

 それくらい非常時というのは、人間は判断力が鈍くなります。ちゃんと勉強をしている専門家でさえ騙されてしまうことが多々あるくらい、非常事態は嘘つきの本領発揮の世界になります。

 実際に、数年前のコロナ禍では、戦後最大の未曾有の病禍が起こり、反ワクチンや反医療の団体は、着実に指示を集め、力を増してしまいました。ここで厄介なのは、「怖いこと」が起きたとき、人は“正しさ”より先に“納得”を欲しくなることです。

 不安だと、頭の中はこうなります。

何が起きているのか分からない(不確実)→でも、今すぐ安心したい(即効性)→単純で、強いいい切りが心地いい(白黒)

 ようするに「嘘でもいい安心させてくれ!」と心が叫ぶわけです。すると、「原因はこれだ!」みたいな断言が強く見えてしまいます。

 「政府が隠してる」、「医者は儲けたいだけ」、「あの成分が全部悪い」みたいな“犯人探し”は、理解じゃなくて“感情の整理”として効いてしまいます。

 嘘つきはそこに入り込んで、「あなたは騙されてる」、「私だけが真実を知ってる」と、恐怖と安心をセットで売ります。恐怖を煽っておいて、最後に「出口(商品・宗教勧誘・セミナー勧誘等)」を提示する。これが普段はうまくいかなくても、非常時にはサクっと決まってしまうわけです。嘘つきからすればウハウハですよね。

 で、非常時の嘘が強い理由はもう1つあって、外れたときに検証されにくいんです。

 「たまたま助かった」→「ほら私のいった通り」
 「悪化した」→「あなたがいうことを守らなかった」

 みたいに、結果を全部「後出しで説明」できてしまう。
 こうなると、正しさの勝負じゃなくて、言い逃れの勝負になるので、嘘つきの独壇場です。どこかの先生が1つでも間違っていたらボロカスに叩き、「だから信用ならない」と決めつけるわけです。その結果、何千時間も勉強した専門家より、SNSでなんか偉そうに発言してる人を信用しちゃうわけです。

 だから非常時ほど大事なのは、「いったん待つ」、「確かめる」、「すぐ決めつけない」。そして「間違ってた」ときは、間違ってたと考えを修正することです。意地をはるとドツボにはまってしまいがちです。

「今すぐ答えが欲しい」って気持ちが強くなってるときほど、自分の脳は混乱してるんだ……、落ち着かないと騙される……と気をつけないといけないのです。……まぁこれが難しいのですが(笑)

承認欲求に訴える

 次に多いのがこれです。承認欲求、つまり「すごいと思われたい」、「仲間に入りたい」、「自分は特別だと思いたい」という気持ちを嘘つきは狙い撃ちします。

 例えば、こういういい回し、ネットでよく見かけるでしょう。

「気づいた人だけがわかる」
「目覚めた人はもうやめられない」
「99%の人は騙されるがあなたは見抜いた」
「“本当の情報”を知ってるのは少数派」

 これ、内容の正しさとは無関係に、聞いた瞬間ちょっと気持ちよくなるんですよね。人は自分が他人よりちょっと優れている、変わっていると思われたいものです。

 例えば、SNSとかで「このパズルが解けたらIQ130超え」みたいなの。見たことありませんか?

 人間って「自分が多数派じゃない」と不安になることもあるけど、逆に「少数派のエリート」って形で提示されると、急に「そうかも」って思いたい習性があります。そしてそれは悲しいことに、現実社会でうまくいってない人、友達が少ない人ほど、これを求めてしまいます。

 そして嘘つき側は、この心理をよく知ってる。貴方は選ばれた人だから、僕たちの仲間にならないか? そう誘われるとついていきたくなるかもしれませんね。

 そうしてゾンビの群れに貴方を加えた後は、「あなたの家族は貴方の才能を認めない」みたいに身近な人間関係まで分断させようとします。そうすればその人の居場所はそのゾンビコミュニティだけになって、離れられなくなるからです。

 こうなると、正しい情報を持ってきても通じなくなります。なぜなら、情報の問題じゃなくて、所属とプライドの問題になっているからです。

 承認欲求を嘘つきに捕まれてしまった人を戻すのは本当に難しいといえます。ゆえに大規模詐欺とかはうまくいくわけですが……。

 現実は厳しくて、誰も褒めてくれないかもしれないけれど、インチキ科学の世界に行けば、簡単に「賢者」になれる。この心地よさが、一度ハマると抜け出せない嘘の沼です。

 本当の科学は、地味で、難しくて、なかなか「正解」をくれないものですが、嘘はいつでも、あなたを気持ちよくさせる「甘い答え」を用意しているのです。

 そして次に来るのが、「証拠」っぽいものです。人は証拠に弱い。弱いというか、証拠が出てくると、安心して思考を止めてしまいがちです。

騙すための証拠をつくる

 さて、ここまで来て、ようやく科学的な嘘の話です。

 科学的な嘘も、いくつかのパターンがあります。ただし、これらのパターンがあるんだ程度に留めて、実際は後半で説明する考え方の方が、より騙されにくくなります。とはいえ、まずは科学的な嘘の構成を紹介しておきましょう。

 人は、感情だけの主張よりも、数字やグラフや“論文っぽいもの”が出てきた瞬間に、急に安心してしまいます。「あ、これはちゃんとしてるやつだ」と思って、そこで思考が止まりがちです。だって、それがホンモノなのか、疑うべきかはわからないからです。ここが科学っぽい嘘の恐ろしいところで、嘘のつき方次第では現実を曲げてつたえることができるからです。

 でも、ここが落とし穴です。
 科学っぽい嘘の多くは、「証拠をゼロから捏造する」というより、「本物のデータの使い方をわざと間違える」、「都合のいいところだけ切り抜く」、「因果関係がないものを因果っぽく見せる」ことでつくられます。だから見抜くコツは、難しい統計を解くことじゃなくて、「その見せ方、ズルしてない?」と気づくことです。

 この「嘘の証拠づくり」にはある程度の型があります。

 例えば「添加物の使用量が多い国ほどがんが多い! ほらグラフが右肩上がり!」という話。

 その国が「高齢化している」、「検診で見つかる率が高い」、「食習慣や喫煙率が違う」、「医療アクセスが違う」など、病気に影響する要因はいくらでもあります。

 グラフがはっきり示していても、「だから添加物が原因」とは1つもいえないのに、関係性があるように嘯くわけです。「交通事故死者の大半はシートベルトをしていた。だからシートベルトは危険だ」といっているのと同じになるのですが、こういわれても「そうかも?」ってなってる人はいるかもしれません。

 そう、それくらいこの嘘は強いセットプレイなんです。「コロナ死者のうち70%がワクチン接種済みだ! ワクチンは逆効果だ!」とかも高齢者の90%以上が接種済みであれば、確率論的に死者の大半が接種済みになるのは「当たり前」ですが、こうやってひっくり返すだけで「っぽい嘘」ができあがるわけです。

 ワクチン接種が始まった時期に、「超過死亡が急増している!」といってグラフの急上昇部分だけを見せるとかの手法です。実際はその時期に「感染の波(第〇波)」が来ていたり、「季節性インフルエンザ」や「熱中症」の時期が重なっていたりする外部要因があり、そこだけを切り抜くことでむりやり因果関係を結びつけるという感じです。

 次に多く見られるのは「危険って書いてある論文がある!」の一点突破型。実際に、危険性を論じている論文はいくつもあります。もちろん、ちゃんと現実を評価するために、多くの専門家がやってるものです。ただ、その中から都合のいいことだけを抜き出しても、多くの人は論文(ましてや英語だったり)を読む人は希です。ですからいろいろな論文や発表の一部だけを切り抜いて、「っぽく」加工すれば簡単にいい伏せようとできてしまいます。

 現実離れした条件を、現実の話としてすり替えるというのもあります。「ある研究で、この添加物を投与されたマウスは死んだ!」とかいうもの。その研究を見ると「人間に換算するとバケツ一杯分の量を毎日食べさせた分量」や「血管に直接ありえない濃度で注入している」など、現実離れした条件で行われている毒性調査の話だったりします。

 ものによっては査読に通っていないプレプリント(未査読論文)や、すでに撤回された論文を「真実」として持ち出しているパターンもあります。

 でもこうした論文が信用出来るのかどうかなんて、多くの人にはわかりませんし、専門家でさえ、別の専門分野になったら、それこそどこのジャーナルが信用できるのかさえわかりません。

嘘の多くは、中学くらいの理科の範囲で冷静に考えればわかる

 じゃあどうするんだ……となると思いますよね。

 でもこれ、意外なほど当たり前の考え方で、だいたいの嘘からは身を守ることができるのです。それは嘘つきが一番してほしくないことでもあります。

1:学校の教科書に書いてある内容を信じる

2:専門家はすごい勉強をして専門家になっている、身近な専門家を信じよう

3:常識は簡単には変わらない

 この3つです。簡単だって思ったでしょう? 簡単ですが、ちゃんと根拠を持ってこの3つを信じることが大事です。じゃないとコロっと騙されてしまいます。

 まず、1。特に小中学校で習う理科に書いてある話は地球が丸いくらいの話です、教科書にのってる話を全部覚えている必要もないのですが、例えば「人間は食べ物を食べて 消化して栄養にしている」という文章から「食べたことがなかったことになるサプリメント」は怪しいと思えるかどうかです。でも、小中学校くらいの科学リテラシーを持つことで、「これなんか変じゃない?」と思えるだけでいいのです。

 逆にいえば、「なんかわからんけど疑う」という根拠無き疑念は、ただのめんどくさい人にしかなりません。

 そして2番目。この世界は多くの人がとんでもない勉強をして専門家になって、そしてその仕事に誇りと責任をもってやっているということです。しかし専門的な勉強や真面目に学んだことがない人ほど、そうした努力の重さがわからないので、軽視してしまうわけです。

 例えば、頼りないなーって思う程度の町のお医者さんも、学年トップクラスの成績を取り続け、医学部に入り、6年間のとんでもない勉強を経て、そんな成績トップの賢い人が受けても1〜2割落ちる国家試験を乗り越え、さらに2年の研修期間、なんとか専門医を名乗ってるなら、数年間の専門医としての経験を積んできた、少なく見積もっても2万時間以上勉強してきた人なんだな……ということは頭の片隅においておくといいのです。別に、だからエラいとか、尊敬しろとかではなく「いうことにはその勉強と信用が乗っている」ということです。もちろん、駄目なお医者さんや、医師免許があるのに嘘事業で儲けているような悪事に手を染めている人もいます。

 でも、全体から見ればやはり少数なので、ソレを見て、「信用ならない」と決めてしまうのは、先にも危険だと説明したばかりです。

 もちろん、医師以外も、携帯の電波の安全性を測定し、決める人、水道水の安全性を守るために検査を毎日する人、電気の安定供給のために……と、家でなにげなく水道水を使って、スマホで動画をみて楽しんでいられるのも、途方もない数の専門家ががんばっているからこそ、成り立ってます。

 3番目の常識はそうそう変わらない。そうなのです、変わらないのです。

 もちろん、この世界は今まで常識だったことがひっくり返ることもあります。でもそれには、その常識が出来るまで繰り返された途方もない実験や観察結果を、ひっくり返すくらいの同じくらいの実験や観察結果を積み重ねて、長い年月をかけてようやく成されます。

 なので、「〜は悪」みたいな言説を流すなら、SNSで騒ぐ前に、きちんとした学会や団体、企業が、ちゃんと真摯に目を向けて見直すくらいの膨大な観察結果や実験データを提出し、同じくらいの時間をかけて説得していかないといけないわけです。専門家でもない人達に何かを吹き込んでセミナーをやってる場合じゃないのです。

 そしてこの世の当たり前を疑い出すとそもそも生活ができないということです。

 例えば、添加物は悪だ……という人は、添加物は疑うのに、スマホの電波が有害かも……とは疑わない、ワクチンは毒だといってる人も水道水まで疑ってる人はいない……と、そもそもの「疑い」自体がチグハグなのです。その人はすべてを理解できる勉強をしてきた人なのでしょうか?

 そうではないはずです。

 世の中は複雑で嘘だらけです。そんな嘘の中を、騙される回数を減らして生きていくのに、なんか役立つことがあればいいな……と、この連載を締めくくりたいと思います。

子供の科学2026年2月号

世界有数の降雪地帯である日本の雪の謎や結晶の観察法を特集。また、進化するチョークの製造工程やシャープペン「クルトガ」の機構など、文房具の技術も紹介します。美しい雪の結晶ポスターの付録付きです。

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くられ先生 著者の記事一覧

自称、不良科学者。サイエンス作家、科学監修、大学講師と多岐にわたって活躍。YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」での配信や、『アリエナイ理科ノ大事典』シリーズ(三才ブックス)、『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』(ソシム)などの著書も多数。

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