『子供の科学2026年1月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。
イラスト/obak(@oobakk)
さて、本誌では、原始時代から近代まで、人間一人当たりを家電製品にみたてて、何W(ワット)の存在になったのか……というのを見てきました。1970年代には江戸時代の暮らしの10倍のエネルギーを消費して生活が成り立っていたわけですが、それが現代になるとどうなるのでしょう?
現在──大規模物流と通信(約6000 W以上)
現代の先進国の都市生活者は、一人あたり 1日約150kWh(キロワット時) ≒ 約6,000 W を消費しています。たった50年で1.5倍になっています。
冷暖房、交通、食料生産、物流、通信──そのすべてが「見えない火」に支えられています。IHやエアコンなど、家電によっては直接「炎」を見ないという人もたくさんいるでしょう。身の回りから火が消えたけど、実際に使っているエネルギー量は膨れ上がっています。
例えば交通手段である、車。そして電車に、飛行機と、あらゆるモノが便利に、そして高密度で運用されるようになってきています。さらに、新幹線のエネルギーも膨大です。膨大すぎてイメージがつかないので、東京ー大阪の移動にかかるエネルギーだけで考えましょう。東京と大阪を結ぶ新幹線は、片道およそ500kmですね。
この運行1本あたりの消費電力量は、およそ2万5000kwh前後に達する。これは家庭の6000軒分の1日分の電気にあたります。
つまり、16両編成の車体が時速270kmで走るとき、線路の上ではまるで数千本の焚き火が同時に燃えているようなエネルギーが使われているという計算になります。それでも鉄道は、人間がつくった輸送手段の中で最も効率的な部類というのだから薄ら寒くなります。
飛行機もすごいエネルギーだと思うけど、実際はどうなのでしょう? 空を飛ぶとエネルギースケールは桁違いになってきます。1機の大型旅客機(ボーイング777クラス)が、東京ーサンフランシスコと太平洋を横断するたび、タンクの中ではおよそ100tの燃料を燃やしてジェットエンジンを動かし、大量の人と荷物を載せた金属の塊を空に飛ばします。こんなすごいエネルギーを使う機械が、世界で一日におよそ10万便ある……というともう、わけわからんエネルギーですね。
とはいえ、飛行機も新幹線も半世紀前にはもうあったわけですから、現代といえば、最近の我々の暮らしに加わった新たなインフラを忘れています。
50年前に比べて、我々の暮らしに足されたもの……それは通信でしょう。
今やスマホでネットに接続し、24時間いつでも連絡がとれる状態です。これを可能にするために、すさまじいエネルギーが使われています。その中身は、通信インフラとデータセンターです。通信インフラは無線用のアンテナ基地局であったり、通信に使う電力。いわばネットの血液循環です。
通信ネットワーク(インターネットの基盤を含む)に使われる電力量も、年間約260〜360 TWh という途方もない数字です。データセンターはスマホアプリやウェブサイト、動画、メール、AIの頭脳(サーバー)がたくさん集まっていて、それらを24時間動かし続けるための巨大なコンピュータ部屋です。いわばネットを構成する臓器のような存在です。中には何万台というパソコン(サーバー)がずらっと並び、水や冷房で冷やされながら、年中無休で動いています。この世界のデータセンターが使う電力は、2024年時点で 約415TWh(テラワット時)/年。なんと世界の総発電量の約 1.5% にあたります。
この中でも、生成AIなど新しい用途のためのサーバ・データセンター電力は、2030年までにデータセンター全体で 約945 TWh/年 に倍増する見込みです。 原発1基が生み出すエネルギーが8TWh、1TWhで9万の家を1年まかなうエネルギーですから、いかにすごいエネルギーかがわかるでしょう。
つまり、私たちがスマホでメッセージを打ち、クラウドサービスを使い、AIに質問したものに答えてもらえる……それだけに、背後では巨大なエネルギーが使われているということです。
50年前と比べると、ネットとAIによるこの「見えない火」の増加が、私たち一人あたりの平均出力(約6000 W)をさらに押し上げているといえます。
私たちはもはや、1人あたり「6000W以上の火力」を抱えて暮らしているということになります。江戸時代の15倍、当然、人口は当時より遥かに多いので、人類全体が必要とするエネルギーがいかに膨大になるかおわかりいただけたでしょうか。
では、この便利な暮らしを捨てて、江戸時代のような暮らしに戻れるかといわれたらそれはNOでしょう。人類は、より高い技術を開発して、太陽光をはじめ、多くのエネルギーを得るための方法を模索していくわけです。


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