【ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え! vol.28】すべての危険から遠ざけることは、いいことなのか? つづき【子供の科学12月号】

 『子供の科学2025年12月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。

イラスト/obak(@oobakk

リスク体験を 高めていくには?

 今回のテーマはゼロリスク理論では、工作も科学も学びが乏しい……でも、無謀なことに挑戦するのは事故の元……という、危機管理は危険の判断力であり、これもまた積み重ねだという話をしました。

 というわけで続きのこちらでは、ご家族総出で、危険対応力を上げる方法について話をしていこうと思うわけです。

 昔はこうした危険なことを、親や兄弟、近所の大人から“肌感覚”で教わった時代があったのですが、現在は、核家族化や共働き化、一人っ子の増加で、そうした“危険の伝承”が難しくなっていると思います。学校もまた、訴訟リスクや保護者対応の問題を抱え、危険を教えることを避けるようになり、実験が壊滅的になくなったのはみなさんが一番感じていることかと思います。

 では、誰が子供に危険対応を教えるのか……。もう、残っているのは親しかいないというのが現実問題です。親のリテラシーが非常に重要な要素になりつつあります。例えばお母さんが、包丁も怖くて扱えない、カッターは怖いからハサミだけしか使わない……、食事は全部電子レンジで温めるだけ、家にはカッターはおろか、ハサミもない……という家で育った子は、はじめてカッターナイフを触ったときにケガをするであろうというのは想像がつきます。

 これ、実際にあった話で、その子はカッターナイフの刃をどう使うのかわからず、全部の刃を出してぐらぐらした状態で手で押さえながら斬ろうとする、どうみても事故が起こる使い方になっていました。

 そういった危険な使い方をしないよう、子供のころから詳しい人と二人三脚で、リスク体験を覚えていく必要があるわけです。もちろんカッターナイフが使えなくても生きてはいけます。でも簡単に段ボールを開けたり、解体したりできる技術が、その人から消えるわけです。そもそも世界は危険であふれています。街を歩けば、車やわけわからん電動バイクが走り回ってます。

 では、外に行くことはすべて危険だから家に籠もりきりになるのが正解なんでしょうか? 結局「生きること」そのものを狭めてしまっては意味がないわけです。なのでリスク対応力を上げることは、実は生存率を上げる、リスクから遠ざかる行動でもあるわけです。リスクは逃げるではなく、いなす力を付けるが正解です。

 火の怖さ、刃物の切れ味、道具の重み……。それを少しずつ経験しながら、「このくらいまでは大丈夫」という感覚を身につけていく。こういったことがものすごく大事なのですが、親が過剰にリスクを気にしてしまうと、子供には恐怖心しか伝わらず、よりゼロリスク思考になり「危ないならやらない」という可能性を捨てる選択肢を選びやすくなるわけです。

 リスク教育とは「安全な範囲で危険を体験させる」ことの積み重ねです。基本的にケガをしても、そのたびにこれ以上大きなケガをしないようにと気をつける指標でしかなく、また、適正もあります。

 集中力が一切続かない人は危険な電動工具は扱わない方がいいですし、なんでも無謀につっこむだけの人は何も学ばないので、最終的には大事故につながって命まで失いかねません。

 詳しい人がそばについて、「ここは危ない」、「ここまでなら大丈夫」と教えながら、経験値としての安全感覚を育てる。とはいえ、親が全部管理するわけにもいきませんし、親が不器用なのに危険な道具を使って事故っていては意味がありません、どうしたらいいのでしょうか?

学びの場を探す

 近年、そうした「危険の対応力」に対しては、多くのセミナーや授業があちこちで行われています。

 例えば、電動工具の使い方はホームセンターなどが使い方の指導教室をやっていたりします。そうした指導教室で教わることで、家でこんな加工ができるようになるんだ! という学びもあります。

 また、科学館や技術館では学校でやらない実験を実際に子供に教える課外授業的なものを催しているところも多くあります。片田舎の科学館でも、意外としっかりと教えてくれるところもあり、親子で見に行ってみるのも参考になると思います。 

 そして大事なのは、子供の興味を持ったものに、親も可能な限り一緒に興味をもって寄り添うことです。例えば、子供が「火薬を作ってみたい」なんて危ない話をしたとしても、頭ごなしに否定するのではなく、どうして危ないのか? 法律はどうなっているのか? 実際に教えてくれる人は本当にいないのか? 花火師や火薬研究者は実際はどうしてるのか? そうしたことを一緒に調べていって、その上で判断するべきなのです。

 危険なことに対して「逃げる」ではなく「どうすればいいか?」、「それは危険なのかどうか?」だとしたら「どのくらい危険なのか?」、「どうすればいいのか?」を積み上げて考えて判断する能力を養うことができるチャンスでもあるわけです。

 このウェブの記事はお父さんお母さんが読まれていることが多いそうなのですが、お子さんの興味を頭ごなしに否定せず、一緒に正面から学んでいくというのを気にかけてもらえれば……と自分は思ってます。

子供の科学2025年11号

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くられ先生 著者の記事一覧

自称、不良科学者。サイエンス作家、科学監修、大学講師と多岐にわたって活躍。YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」での配信や、『アリエナイ理科ノ大事典』シリーズ(三才ブックス)、『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』(ソシム)などの著書も多数。

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