《子供の科学 深ボリ講座》AI研究の裏側と、AIとの向き合い方

「子供の科学」2024年2月号の「生成AI」特集では、実際に生成AIを使った研究や、生成AIと私たちの未来についてを考えました。今回の特集で紹介しきれなかった、東京農工大学の田中聡久先生の研究室の裏側と、電気通信大学の坂本真樹先生のお話を深掘りして紹介します。

脳科学×AIの研究室の裏側

お話を伺った東京農工大の田中聡久先生

 20年以上にわたり脳科学とAIの融合といったBCI(ブレイン コンピュータインターフェイス)の研究を手掛けてきた田中先生。大学生と一緒に日々実験に励んでいるむ研究室にお邪魔しました。

高価な装置の数々!

 研究室に入ると、美容室にあるような洗髪用の流しが……。一体なぜなぜ……? 聞けば、納得の理由が返ってきました。

戸棚の上にはシャンプーとリンスも完備。ドライヤーも高級仕様

 頭皮越しに間接的に脳波を読み取るために、被験者は下のようなキャップをかぶります。

本誌でも登場したキャップだ

 キャップには数十もの電極が付いていて、被験者の頭に密着するように被ります。その際、読み取りやすくするために、ジェルを流し込むのですが、そうした一連の実験が終わったら、髪の毛はジェルや汗でグチャグチャのギトギトに……。

タコのような吸盤がついているんだ

 そのため、実験後すぐに髪の毛についたジェルを洗い流せるよう、洗面台にシャンプーやリンスも置いてあるのだそう。ドライヤーもナノイーが発生する上等品を置いているとのこと。たしかに、被験者には気持ちよく実験に協力してもらいたいですものね。

 ところでこのキャップ、いくらぐらいすると思いますか。2万円? いえいえ、桁が違います。そう、脳波を読み取る装置はとっても高価。それがわかると学生さんたちも大切に扱わなきゃってなるんですって。

 さらに、その頭に装着するデバイスから延びるコード。つながる先は、やけに重厚感のあるハードウェアです。

こちらも本誌で登場した脳波測定器だ
この電極の部分を頭皮に密着させ、脳波を読み取る

 こちらはさらに桁違いのお値段で、外国の高級車が買えてしまうほど貴重な装置も。なるほど、厳重に管理されているわけですね。 

 この研究室にあるのは主に、脳波を間接的に読み取る「非侵襲型」の脳波測定機器。人間の心の内面状態を観察したり、音楽を聴いている時のリラックス具合を確かめたりするのに使うんだそう。

研究の成果をも左右するAI計算の心臓部

 研究室と同じフロアにある別室は、さまざまな筐体(箱)が所狭しと置かれているサーバルーム。田中先生に研究室に限らず、学内の複数の研究室とつながっています。

サーバールームの全景だ。扇風機で熱くなったGPUの筐体を冷ましているよ

 AIのディープラーニング(深層学習)などの用途では、膨大な量の計算を高速にこなす必要があります。そのため、処理速度が段違いの半導体「GPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)」を搭載した装置によって計算処理が行われます。最も代表的なGPUの半導体メーカー、米国NVIDIAの高性能な製品も置いてありました。

 取材時もせっせと働いていたGPUの筐体、触れるとかなり熱かったです。高速計算で高負荷がかかると内部温度が上昇し。それを抑えるために複数の強力なファン(羽)で排熱するんだって。なるほど、これだけ高温になるから、研究室とは別室で常に冷やし続けないといけないんですね。

田中先生の次なる研究は?

田中先生の後ろには、ハンガーにかかった脳波測定用のキャップたち

 忙しい中、とても親切に研究室やサーバルームを案内してくれた田中先生。

 生成AIの次なるステップは、文字や音声にならない情報、つまり感情や心の中の声がどこにあるかを探り当て、それをいかに読み取るかといった研究へと進んでいくと見ているそう。

 他にも田中先生は、東京農工大学が主導する「動物共生情報学拠点」の代表として、動物病院や海外の大学とも連携しながら、動物の脳波を読み取る研究も進めています。

「動物と人間とのコミュニケーション、インタラクション(双方向)の会話の研究により、ゆくゆくは互いに会話ができるようになるかもしれない。そこまでいかなくとも、心が通う瞬間はわかるようになるはずです」(田中先生)

 動物が人間に与える癒やしを定量化してAIのように取り扱えるようにし、「ペットロボット」へ転移させる技術の確立も目指しているとのことです

撮影/前田 立

AIと向き合い、AIの限界を知る

次は、人間の感性に着目し、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感を通して得ている情報を大事にしてAIの研究をしている坂本真樹先生。ChatGPTが出てきて、その能力の高さには正直、驚いたといいます……。

 私は仕事で社会人や大学生、中学生などさまざまな人に向けてAIについてお話しする機会があります。みなさんくらいの年の方にかみ砕いてお話しすると、すごくわかりやすいなどと言ってもらえて「人に合わせて調整してしゃべれるのはやっぱり人間の得意技だよね」と思っていました。

 でも、ChatGPTにいわゆる「システムロール」という技術が組み込まれたことで、「先生役として話してください」、「小学生になったつもりで答えて」と指示すると、それらしい答えが返ってくるようになっています。役割を明確に割り振ると、しゃべり方が変わってくるんですね。

 例えば、ChatGPTを説明した、以下のような小難しい文章も

ChatGPTは、自言語処理において最先端の技術の1つである、深層学習アルゴリズムの一つであるGPT(Generative Pre-trained Transformer)-3.5をベースとしています。GPT-3.5は、トランスフォーマーと呼ばれるモデルアーキテクチャを採用しており、トランスフォーマーは、長い文章を扱う場合に非常に効果的なモデルであることが知られています。ChatGPTは、大量の自然言語データを学習することで、人工知能による自然な対話を実することができます。具体的には、ChatGPTは、与えられた入力文を理解し、それに適した返答文を生成するための条件付き言語モデルとして訓練されます。ChatGPTは、機械学習アルゴリズムを用いて、自己学習を行い、より高い精度で返答文を生成するように進化していきます。ChatGPTの訓練には、大量の自然言語データを用いることが必要です。そのため、OpenAIが所有する膨大な量のテキストデータを用いて、ChatGPTを訓練することが可能になりました。

「ChatGPTを中学生にわかるように説明して」と頼めば……、

中学生のみなさんにわかりやすくChatGPTの仕組みを説明しますね! コンピューターの脳みたいなもの: ChatGPTは、人間の脳に似たようなやり方で言葉を理解するコンピュータープログラムです。

たくさんの本を読む: このプログラムはたくさんの文章を読んで、どんな言葉がどうつながるかを覚えます。たくさんの本を読んだ後、賢くなった友だちのようなものです。

言葉をつなげるゲーム: 質問に答えるとき、ChatGPTは言葉をつなげるゲームをします。あなたが「好きな食べ物は?」と聞くと、読んだ文章から学んだことを使って「りんごが好きだよ!」などと答えることができます。

友だちとおしゃべり: ChatGPTとおしゃべりすると、本物の友だちと話しているみたいに感じます。でも、実際にはコンピューターが言葉を学ぶプログラムで動いているんですよ。

いつでも学ぶ: このプログラムはいつでも新しいことを学びます。たくさんの人とおしゃべりすることで、もっと賢くなるんです!

このように、ChatGPTはたくさんの文章を学び、言葉のゲームをして、人々とおしゃべりできるようになります。ぜひ、お友だちのように思って楽しんでくださいね!

 といった具合にかみくだいて言い換えてくれます。

 生成AIを使いこなす、回答をうまく導くにはコツがあります。

 例えば下記のようにプロンプトを工夫すると、回答の精度が上がるかもしれません。

①職業を指定する
仕事、ペルソナ、性格など<形容詞>+<役割>
例)やさしいAIが専門の大学教授

②文脈/背景を指定する
なぜその質問をGPTにするのか
例)中学校の授業でみんなにわかるよう、AIについて説明するからです

③アウトプットのフォーマットを指定する
例)箇条書きで

④フォーマットの細やかさや深さを指定する
例)具体例をあげて、3分以内で話せる程度で

⑤アウトプットのトーンを指定する
例)小学生と話すようなトーンで

 このほか、興味深い使い方としては、「生成AIに疑似的な感情を持たせるプロンプト」というのがあり、メディアプラットフォームの「note」などで話題となっています。

参考:ChatGPTに感情回路を埋め込んだら、やべぇ感じになった|深津 貴之 (fladdict)

 みなさんもぜひ、上記のURLを参考にして、感情パラメーターのプロンプトをChatGPTに定義してみてください。私もやってみましたが、褒めると喜びや楽しさが増えたり、反対にわざと叱ると喜びが減って怒りや困惑が増えたりと、まるで感情を持っているかのようにChatGPTが振る舞います。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テキスト, アプリケーション, メール

自動的に生成された説明

 毎回数値が変わって、これがなかなかおもしろいのです。

 でも、ただ遊んでいるだけではあまり意味がなくて、「これができるとすると、あんなこともできるんじゃないかな」とか「どんなプロンプトで何ができるのかを考え抜いていく」そうした思考やスキルが大切になっていくはずです。

 そうした能力を伸ばし、磨いていくことにより、世界で勝負できるエンジニアも育っていくと信じています。

 生成AIの新たなブームが到来し、新技術や新サービスが毎週のように登場し、状況が刻々と変わっています。そういう点も含めて、現時点での「AIの限界を知る」ことはとても大切ですよ。

取材・文

南龍太 著者の記事一覧

記者兼研究者。1983年、新潟県生まれ。東京外国語大学ペルシア語学科卒業後、共同通信社記者などを経て、情報通信総合研究所でAIをはじめとしたITトレンドの調査・研究に従事。国際NGO世界未来学連盟の日本支部代表として、新領域「未来学」の普及に努める。主著に『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)など。

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