《コカデミア カガクノ英語》 第7回 霊長類もいろいろ 目の色もいろいろ

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

霊長類の目の色が多様なのはなぜ?

 「サルの目ってどんな目?」と聞かれたら、どんな色や形を想像しますか? サルの仲間では、目の色や形が多様であることが以前から知られていました。今回は、その目の多様性をもたらすものは何か、というニュースを紹介します。このニュースは2023年1月号本誌の「コカトピ」でも掲載しました。まずは、記事の内容を見てみましょう。

 霊長類の目の色には多様性があり、種によって異なります。目の色の違いは、コミュニケーションに役立つという可能性が唱えられていますが、その可能性についてヒト以外の霊長類では未確認であり、どうして霊長類の目が多様なのか、多くの謎が残されています。
 このほど、シンガポール国立大学(シンガポール)などの研究グループは、霊長類の目の色の多様性が生じるひとつの要因として、生息地における光の質が関わっていることを明らかにしました。
 研究チームは、77種の霊長類について目の各部分の色などを測定しました。その結果、いわゆる白目の部分は、赤道付近に棲む種では色素が濃く、赤道から遠い地域に棲む種では薄くなる傾向があるとわかりました。これは、ヒトの皮膚の色素と同じで、太陽光に対する防御の働きがあると考えられます。また、眼球の虹彩という部分は、赤道付近の種では褐色になり、赤道から遠い地域の種では青色や緑色になる傾向があったのです。北半球に棲むヒトの祖先についても、同様の要因で目の色の違いを説明できる可能性があると研究グループでは考えています。

 この記事の元になった論文のタイトルは、「Ecological factors are likely drivers of eye shape and colour pattern variations across anthropoid primates」です。ざっくりと訳すと、「生態的な要因(Ecological factors)が、真猿類(anthropoid primates)にみられる目の形や色調(eye shape and colour pattern)の多様性(variations、あるいは変異ともいう)を生みだしている可能性が高い」となります。

 論文タイトルに出てくる「真猿類」とは、「霊長類」の仲間のひとまとまりのグループのことです。霊長類ほどには聞きなれない言葉ですね。霊長類は私たち人類も含むグループですが、どんな仲間がいて、どんな特徴があるのでしょうか? 英語の言い方と合わせて、整理してみましょう。

ここに注目① primates

 私たちがふだん「サル」とよぶ動物は、生物学では「霊長類」(Primates) といいます。サルは種類が豊富で、現生の霊長類は450種ほどが知られています。

 霊長類は哺乳類(Mammalia) のグループですが、他の哺乳類と違っているのは、霊長類は「親指が手のひらと向かいあっていて、モノをつかむことができること」、「ふたつの目が顔の正面を向いていること」などの特徴があることです。

 さて、今回の論文で登場するのは「真猿類」(anthropoid primates)でしたね。真猿類というのは、霊長類の中でも、ヒトやチンパンジー、ゴリラ、オランウータンなどの類人猿(ape) や、オナガザルの仲間、クモザルやオマキザルなどの仲間を含むグループのことです。

論文より引用。多様な種を含む真猿類。

 なお、霊長類の中には、キツネザルやメガネザルなどのグループもありますが、これらは真猿類には含まれないので、今回の論文では登場しません。

哺乳類 Mammalia
霊長類 Primates
真猿類 anthropoid primates
類人猿 ape

 ちなみに、より一般的な言葉でmonkey という言い方がありますが、英語の辞書で調べると「サル。とくに小型で尾の長いサル」とあります。このことから、生物学的な視点からは、monkey には、ヒトやチンパンジーなどの類人猿(ape)は含まれないことになります。類人猿には尾がないからです。なお、広辞苑で日本語のモンキーを調べると「猿」となっていますので、日本語と英語では微妙にニュアンスが違うようです。

 冒頭で紹介したニュースの中で「霊長類」と書かれている部分は、もう少し詳しく訳すと、霊長類の中の真猿類ということになります。文字数の制限のある一般向けのニュース記事などでは、今回のようにあえてわかりやすい言葉を選んで、イメージしやすいように工夫することがあります。

ここに注目② eye

 さて次に、論文のテーマでもある「目」についての言葉も注目してみましょう。論文中で、目の多様性について触れているセンテンスがありますが、その中に以下の文章があります。

This diversity includes variation in shape of the eye outline, in conjunctival and iridial colouration.

  ざっくりと訳すと、「この多様性(This diversity ※ここでは真猿類の目の多様性のこと)には、目の輪郭の形(shape of the eye outline)、結膜(conjunctival:結膜の)や虹彩(iridial:虹彩の)の色(colouration)の変異(variation)が含まれる」となります。

 結膜はおもに白目の部分、瞳孔は眼球の真ん中にある黒い部分、虹彩は瞳孔の周りの色のついた部分を指します。虹彩の色は、ヒトでもブラウンやグレー、グリーン、ブルーなどがありますが、真猿類についても、多様な色があるというわけです。目にもさまざまなパーツがあります。英語と合わせて、まとめてみましょう。

結膜  conjunctiva
虹彩  iris 
瞳孔  pupil
まぶた (眼瞼) eyelid

眼球  eyeball

 ここで、これらの情報をもとに、もう一度記事をふりかえってみましょう。今回の研究によって、赤道付近に棲む霊長類の中の真猿類では、ヒトでいうところの、いわゆる白目の部分、つまり結膜の色素が濃いという傾向がみつかりました。これらの特徴は太陽光の防御の働きがあると研究グループでは考えています。その一方で、赤道から遠いところ、つまり高緯度の地域に棲む真猿類では、虹彩の色がより青くなる傾向が見つかったということになります。

論文より引用。一番下写真(b)の2が「結膜」、5が「虹彩」の部分。

 一言でまとめてしまいがちな「サル」とか「目」といった言葉ですが、より細かく掘り下げていくと、そこには多様な世界が広がっているというわけです。

参考論文 
タイトル
Ecological factors are likely drivers of eye shape and colour pattern variations across anthropoid primates
著者
Perea-García J.O. et al.
論文情報
Scientific Reports (2022) 12. 17240.


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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