《コカデミア カガクノ英語》 第11回 ウマはウマでも

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

アブはシマウマの縞模様を視覚で感知

 シマウマには美しい縞模様があります。近年、その模様には、ある大切な役割があることがわかってきました。今回はシマウマの縞模様をめぐるニュースを紹介します。このニュースは『子供の科学』2023年5月号の「コカトピ」でも掲載しています。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

 シマウマの縞模様の役割について、長らく議論が続いています。天敵へのカムフラージュや体表温度の調節などの仮説が提唱されてきましたが、どれも実験による証拠が乏しいとされます。その中で、ここ10年ほど、「シマウマの縞模様には、吸血性アブの着地を妨げる働きがある」という証拠が増えています。
 吸血性アブに刺されると、感染症にかかり、ときには死に至ると予想されます。そのため、アブを寄せつけない縞模様はシマウマにとって命を守る働きがあると考えられます。しかし、アブが縞模様を嫌うメカニズムについては、未解明でした。
 そこで、ブリストル大学(イギリス)などの研究グループは、家畜のウマにさまざまな縞模様のコートを着せて、アブがどのような縞模様を嫌うのかを調べました。
 その結果、アブは縞模様のコントラストが強いと着地しないが、コントラストが弱いと着地することがわかりました。つまり、アブは視覚で縞模様を感知していることが確かめられたのです。シマウマの謎解きがどんどん進んでいきます。

 このニュースの元になった論文タイトルは、『Why don’t horseflies land on zebras? 』です。直訳すれば、「なぜアブはシマウマにとまらないのか?」となります。horsefly は、アブの仲間のこと。zebra はシマウマのことですね。

ここに注目① horse

 まずは、次のセンテンスを読んでみましょう。

For all these experiments we used domestic horses on which we placed differently patterned coats.

 これは実験の方法に関する記述ですが、直訳すれば「これらすべての実験には (For all these experiments)、異なる柄のコート (differently patterned coats)を着せた家畜ウマ (domestic horses)を使用した」といった意味になります。

 ウマが英語で「horse」というのは知っている人が多いと思いますが、みなさんはウマといえばどんなウマをイメージするでしょうか?

 哺乳類のウマ科に属するhorseの仲間には、ロバ(donkey)や、今回論文で注目されているシマウマ (zebra) も含まれます。上のセンテンスでは、身近によく見かけるdomestic horse(家畜ウマ)が登場していますね。おそらく、みなさんがウマときいて思い浮かべるのもこの家畜ウマでしょう。論文では、それがどのような種類のウマなのかよくわかるように表現されています。

 ちなみに、雄のロバ と雌のウマの交雑種がラバ(Mule) です。また、シマウマは実は、ウマよりもロバに近縁だとされます。

ここに注目② fly

 では、次のセンテンスをみてみましょう。

Stripes deter horseflies from landing on zebras.

 直訳すると「縞模様 (Stripes) は、アブ (horseflies) がシマウマにとまる(landing on)のを防ぐ(deter from)」といった意味になります。

 ハエといえば、 fly と習いますね。ハエ目(双翅目)の仲間には、意外に感じるかもしれませんが、ハエのほか、ブユ、アブなども含まれます。

 身近なハエといえば、やはりイエバエ科のイエバエ (housefly) ですね。家の中を飛び回ったり、気がついたらごはんの上にとまっていたりします。今回の論文に登場したhorsefly はアブ科のアブ類で、ヒトや動物を吸血します。吸血性のハエ目には、ほかにブユ科のブユ(blackfly) もいます。どれも厄介者とされがちなハエ目の昆虫ですね。一方で、ハナアブ (hoverfly) は、花の蜜や花粉をエサにするハエ目の昆虫です。このように、ハエを表す fly には、いろいろなハエ目の昆虫が含まれているわけです。

 なお、fly には飛行や飛ぶこと、野球のフライ、魚釣りの疑似餌につかうフライなど、さまざまな意味があります。

 今回はウマとハエの話を紹介しました。horse や fly にも、いろいろな種類がいましたね。特にハエ類は、コウチュウ類、ハチ類、チョウ類と並んで、昆虫の中で種類が多いグループです。ハエ類にはどのような種類がいるのか、調べてみると楽しいですよ。

参考論文
タイトル
Why don’t horseflies land on zebras?
著者
Caro T. et al.
論文情報
Journal of Experimental Biology. (2023) 226 (4): jeb244778.
https://doi.org/10.1098/rsbl.2022.0187


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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