《子供の科学深ボリ講座》モルモットの歴史を知ろう

『子供の科学』2022年11月号では、「モルモットの真の姿を追え!」と題して、その生態や特徴を解説。かわいく身近なモルモットの新たな魅力を発見した読者も多いのでは? 深ボリ講座では、一歩踏み込んでモルモットの祖先やペットとして飼育されるようになった歴史、そして「科学の殉教者」としてのモルモットにも触れていきます。

ペットとしての歴史の始まり

 欧米を中心にペットとして人気が高いモルモットですが、もともとの故郷は南アメリカ大陸です。モルモットの祖先についてはまだ定説はありませんが、ペルーテンジクネズミ、またはパンパステンジクネズミだろうといわれています。16世紀のインカ帝国時代から、ペルーではモルモットを食用の家畜として飼育していました。

 ヨーロッパに渡ったのは15世紀のことです。スペイン人航海士によって最初にスペインとポルトガルへ持ち込まれたモルモットは、オランダ人によって中部ヨーロッパへ広く伝えられ、17世紀以降にはヨーロッパ全土で飼育されるようになりました。この頃のモルモットは、ペットとして飼育されるだけでなく、時には食用にされることもあったといいます。

江戸時代に日本に伝わる

 モルモットが日本に伝わったのは江戸時代末期のことです。天保14年(1843年)、日本に交易に訪れていたオランダ人がオスとメスのモルモットをそれぞれ1匹ずつ、長崎に持ち込みました。
 当時の書籍『武家必覧 続泰平年表』には、この時のことが記載されています。

「天保十四年癸卯九月 此月仏蘭察国産モルモットと云獣渡来。胴七寸、背高二寸五分。眼黒。顔鼡の如く、尾無し。面半赤白。全体黒白赤の斑有之。食物大根、ニンジン、サツマ芋等食スと云。至面無事温和なる獣之由也。○因云是ハ当正月御勘定吟味役羽田蔵助長崎表へ為御用罷越、九月右御用済ニ而帰府之節内々献上と云。羽田氏此月下旬品川宿湊屋弥三郎方止宿之節相携居候由。貳友人内々一見せしと云ふ。」

(天保14年9月、この月にフランス産のモルモットという動物がやってきた。胴体は約21cm、背丈は約7.5cm。目は黒い。顔はネズミのようでしっぽはない。顔は赤と白半々の色。体全体には黒白赤の斑模様がある。食べ物はダイコン、ニンジン、サツマイモなどを食べるという。大人しく温和な動物だそうだ。この動物は、今年の正月に御勘定吟味役の羽田蔵助が長崎表へ仕事の関係で出向くこととなり、9月に役目が終わって帰って来た時に内々に献上されたのだそうだ。羽田氏は今月下旬に品川宿の湊屋弥三郎のところに泊まった際に携えてきたそうだ。内々に友人たちにこの動物を見せたという)。

 そのほか、江戸時代後期の医師・本草家である山本亡羊の著作『百品考』第2編にも、「天保十四年癸卯九月の年オランダ持渡る。蛮名モルモット。漢名赤兎。和名ベニウサギ」とあります。なお、持ち込まれたモルモットはイングリッシュの三毛だったと推測されます。この後、モルモットは一部の上流階級のペットとして飼育されていたようです。

 明治に入ると、モルモットは一般の人々の間でもペットとして飼育されるようになりました。同時に、その温和な性格と飼育のしやすさから、生物学や医学のための実験動物として盛んに活用されるようになっていきます。特に、細菌学の世界では必ずと言っていいほど実験動物としてモルモットが用いられました。皮肉なことに、当時の実験結果は人間のためにだけ役立てられたため、それによってモルモットの医療技術が進むことはありませんでした。日本と同じく、実験動物としてモルモットが数多く用いられてきたヨーロッパでは、その犠牲と貢献を称えてモルモットを「科学の殉教者」と呼んでいます。

(文/大崎典子)

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