《コカデミア カガクノ英語》 第4回 世界一大きな花を咲かせる寄生生物

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

寄生植物ラフレシアの保全

 みなさんは、世界で一番大きな花は?と聞かれたら、どんな花を思い浮かべますか? そう、あの赤くて白っぽい斑点の入った巨大な花を思い浮かべますよね。今回紹介するのは、その生息地に関する新しい論文です。

 ラフレシア・アルノルディ(以下、ラフレシアと記します)の花は、単一の花としては世界最大です。ラフレシアはスマトラ島やボルネオ島の熱帯雨林に生育しますが、生育地の多くが失われている可能性があります。スマトラ島では森林破壊が急速に進み、ここ40年間ほどで森林の半分が失われてしまったからです。    
 このため、ラフレシアを保全するための対策が急がれます。しかし、花が咲いていないと、ラフレシアを見つけるのは困難です。なぜなら、ラフレシアは寄生植物で、すべての栄養を宿主となる植物から得ており、自らの根、茎、葉が退化しているため、花以外には、見つける手がかりが少ないからです。宿主となるのはブドウ科ミツバカズラ属のツル植物ですが、そもそも宿主植物がどこに生育しているのか、どのような状態のツル植物にラフレシアが寄生しているのかなど、多くの謎が残されています。
 そこで、インドネシアの国立研究改革庁の研究グループは、宿主のミツバカズラ属植物やラフレシアの既存の分布情報に加えて、地形、土壌、気候などの環境データをもとに、ラフレシアの生育地を予測しました。それによると、ラフレシアとその宿主植物の生育地の多くは保護区の外にあると予測され、保全すべき生育地が46カ所あることがわかったのです。これらの成果は、インドネシアの国花であるラフレシアを保全するのに役立つと期待されます。

 論文のタイトルは「Assessing potential habitat suitability of parasitic plant: A case study of Rafflesia arnoldii and its host plants」です。ざっくり訳すと、「寄生植物(parasitic plant)の潜在的な生育適地(habitat suitability)の評価(Assessing):ラフレシア・アルノルディ(Rafflesia arnoldii)とその宿主植物(host plants)の事例研究(case study)」となります。要するに、「ラフレシア・アルノルディとその宿主植物が分布している可能性の高い生育環境を推定する研究」といったことになります。

  habitat という単語は、生物学でよく使われる単語です。「棲んでいる場所」を意味します。少し細かいのですが、植物なら生育地、動物なら生息地と訳すとよいでしょう。「habitat suitability」は、ここでは、ラフレシアの「生育に適した場所」ということで、生物学では「生育適地」と訳します。

ここに注目① parasiteとhost

 今回のトピックに関して、ラフレシアが寄生植物だということを意外に思った人も多いのではないでしょうか。宿主植物から一方的に栄養を得て、つまり寄生して、世界一大きな花を咲かせているというのですから、興味深いですよね。論文には、次のような文章があります。

Parasites exist in all types of life forms including plants.
「寄生生物(Parasites)は植物を含むあらゆる生命体に存在する。」

 寄生というと特殊な現象に感じられるかもしれません。しかし、実際には、あらゆる生物には、微生物を含めた、さまざまな寄生生物が棲みついているということなのです。パラサイト(parasite)は、映画や小説のタイトルにも使われていて、広く知られた単語ですが、今回はこの言葉を手掛かりに深掘りしていきましょう。

 parasiteには寄生生物という意味がありますが、それに対して寄生生物に寄生される側は何と呼ばれるでしょうか? 答えはhostです。日本語では、宿主・ホストと訳されます。

 また、寄生生物と宿主の関係を見てみましょう。2種の生物がいて深いつながりがあり、生存や繁殖の点で、一方が得をして、他方が損をする関係のことを「parasitism」(寄生)というのに対して、両方がともに得をする関係は「mutualism」(相利共生)といいます。

parasitism 寄生
  parasite 
寄生生物(得する方) 
  host
 宿主生物(損する方)

mutualism 相利共生 

ここに注目② shootとroot

 ところで、ラフレシアは、宿主からどのように栄養を得ているのでしょうか? 論文に書かれている、次の文章をみてみましょう。

Parasitic plants obtain water and nutrients through the haustorium, which is attached to shoots or roots of their host plant.

 直訳すると、「寄生植物(Parasitic plants)は、宿主植物(host plant)のシュート(shoots) や根(roots)に付着する吸器(haustorium)を通じて、水や栄養分を得ている。」となります。とても興味深いことですが、寄生植物は、宿主となる植物に付着して、その組織に侵入するための特別な器官「吸器」を発達させているのです。

 植物の体を表す用語として、「shoot」 と 「root」 があります。shoot には、サッカーのシュートやロケットの打ち上げなどの意味だけでなく、たくさんの他の意味がありますので、ぜひ辞書で調べてみてください。さて、植物学で使われる shoot には、1本の茎とその茎につく葉をひとまとめにしたものという意味があり、いわゆる地上部を指します。shoot は、根を意味する root とセットで使われることも多いので、覚えておくと便利です。

 世界一大きな花をつけるラフレシアは、どんなところに生育しているのか? どうやって栄養を得ているのか? などなど、知りたいことがたくさんある寄生植物です。しっかりと保全していきたい植物ですね。

参考論文 
タイトル
Assessing potential habitat suitability of parasitic plant: A case study of Rafflesia arnoldii and its host plants
著者
Renjana E. et al.
論文情報
Global Ecology and Conservation (2022) 34: e02063.
https://doi.org/10.1016/j.gecco.2022.e02063


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文筆家。博士(学術)。主な著書は『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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