《コカデミア カガクノ英語》 第2回 植物の防御術「毒」と「毛」

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

猛毒植物ギンピ・ギンピの毒素を解明!

 今回、紹介するのは、『子供の科学』2020年12月号の「コカトピ!」でも掲載した「植物の毒」についてのニュースです。

 参考にしたのは、クイーンズランド大学(オーストラリア)を中心とする研究グループが発表した”Neurotoxic peptides from the venom of the giant Australian stinging tree”という論文です。直訳すると「ギンピ・ギンピ(the giant Australian stinging tree)の毒(venom)の中から[見つかった]ペプチド性の神経毒(Neurotoxic peptides)」というタイトルです。

 まずは、論文の概要をまとめてみます。ギンピ・ギンピというのは、オーストラリアに生えているイラクサ科(イラノキ属)の植物です。

 ギンピ・ギンピの葉や茎などは、強力な毒を含む、細く小さなトゲ(刺毛)で覆われています。そのトゲが人の皮膚に刺さると、焼けるような強い痛みを引き起こし、その後も数日から数週間ひどい痛みが続きます。ギンピ・ギンピの毒は非常に激しい症状を引き起こしますが、痛みが長く続くしくみや、その成分は謎に包まれていました。
 
 今回の研究では、その原因となる毒成分をギンピ・ギンピから発見して、「ギンピタイド」と名づけました。ギンピタイドには、感覚神経の働きを長期的に抑える作用があり、それによって痛みが持続するようです。また、ギンピタイドの分子の形や作用のしくみは、猛毒を持つ毒グモやイモガイの毒素とよく似ていることもわかりました。この発見は、ギンピ・ギンピ被害に対する治療法の開発につながることが期待されています。

 ギンピ・ギンピには、ずいぶんと恐ろしい毒が含まれているようですね(ちなみに日本にも、刺毛のあるイラクサ科の草が自生しています。刺毛に触れると、ピリピリと痛み、腫れることもあるので注意しましょう)。

英語のココに注目①「venom」

 まずは、「毒」について注目してみましょう。日本語で「毒」を意味する英語には3種類あります。poison、toxin、venomです。この3つの単語には、微妙に異なる「毒」の意味があります。poisonには、人工の毒と自然の毒を含めた毒全体を表す意味があります。一方、動物や植物、微生物が生産する毒のことをtoxinといいます。さらに動物の毒の中でも、ヘビやサソリの毒など、毒腺から分泌されるような毒をvenomといいます。

poision より広い範囲の毒を表す
toxin   動物や植物、微生物などの毒を表す
venom 一部の毒腺をもつ動物の毒を表す

 ところで、この論文のタイトルには、venomという単語があります。これは新たに見つかったギンピタイドという植物の毒が、毒グモやイモガイなどの毒(=venom)によく似た構造だったということを強調するために使われているのだと想像されます。

英語のココに注目②「hair」

 次は毛の話です。この論文には、以下のような文章があります。

“The leaves and stems of Dendrocnide excelsa are covered with needle-shaped trichomes resembling a covering of deceptively benign felt-like hairs.”

※読みやすいように文章を一部改変してあります

 ざっくりと訳すと、次のようになります。

「ギンピ・ギンピの葉と茎(The leaves and stems of Dendrocnide excelsa※)は、針の形をしたトライコーム(needle-shaped trichomes )で覆われていて、それは一見すると無害な、フェルトのような毛(felt-like hairs)にみえる」

Dendrocnide excelsaはギンピ・ギンピの学名。Dendrocnideはイラノキ属を表します

 ここで注目するのは、毛(hair)です。毛といえば、ヒトの髪の毛や体毛、あるいはイヌやネコなど哺乳類の毛をイメージすることが多いかもしれません。しかし、辞書で調べると、hairには、植物や昆虫などに生えている「毛のようなもの」という意味もあります。

 実際に、ほとんどの植物には、葉や茎の表面にうぶ毛のようなものが生えています。これらの「植物の毛」は生物学では「毛状突起」や「トライコーム」といいます。ちょっと難しい用語ですが、トライコームという用語は、ギリシャ語で「毛」を意味する “trichos “に由来します。

hairを甘く見てはダメ?

 ようするに、ギンピ・ギンピの葉や茎に生えているフェルトのような毛(felt-like hairs)というのは、じつは、針の形をしたトライコーム(needle-shaped trichomes )だったというわけです。そして、このギンピ・ギンピに生えている小さな針のような毛を、生物学では刺毛
しもう
といい、英語ではstinging hairといいます。stingingには「刺す」という意味があります。

 刺毛はまさに刺すために特殊化した毛で、ヒトの皮膚などに刺さると刺毛が折れて、刺毛の内部に蓄えられている、さまざまな毒が注入されることになります。その毒には、ヒスタミンやアセチルコリンなどに加えて、今回の研究で発見されたギンピタイドなどが含まれています。

 植物の毛の一種である刺毛には、草食動物などから葉や茎を守るのに役立ちます。ところで、毛(hair)には、「毛ほどのもの」「わずか」「少し」といった意味もありますが、植物の「毛」を軽く考えると痛い目にあうかもしれません。毛には注意しましょう。

参考論文https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abb8828
タイトル
Neurotoxic peptides from the venom of the giant Australian stinging tree
著者
Edward K. Gilding et al.
論文情報
Science Advances 6 (38): eabb8828
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abb8828


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保谷彰彦 著者の記事一覧

文筆家。博士(学術)。主な著書は『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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