【JWST短期連載④】新たな宇宙の姿を届けるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)について語る本連載、今回でひとまずの最終回を迎えます。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線による観測で、これまでとは違う宇宙の姿が明らかになってきています。最新画像から、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のここまでの成果の一部を紹介します。

赤外線の観測で明らかになる天体の新たな姿

 第3回で紹介したように、近赤外線カメラ(NIRCam)や中間赤外線観測装置(MIRI)などを搭載しているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。赤外線領域の波長の光を観測することで、新しい宇宙の姿が開けてきています。

タランチュラ星雲

 まずは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影したタランチュラ星雲の画像を見てみましょう。タランチュラ星雲は星形成が活発に行われていて、望遠鏡で塵のようなフィラメントが見えたことからこの名前がつけられました。私たちが所属する天の川銀河に最も近い局所銀河群の中で最も大きく、地球から16万1000光年の距離、大マゼラン雲の中にあります。下の左右の画像は同じ領域のものですが、観測装置によってまったく異なる天体のように見えてきます。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影したタランチュラ星雲。左が近赤外線カメラ(NIRCam)による画像、右が中間赤外線観測装置(MIRI)による画像。それぞれから、異なる情報を得ることができる。(画像/NASA, ESA, CSA, and STScI)

 近赤外線カメラ(NIRCam)では名前の由来通り、毒蜘蛛のタランチュラの巣のような領域が見えてきます。輝いて見えるのは、若い大質量星による星団や明るい星などです。若い星は青、塵に覆われた星は赤い点として映り、若い大質量星の恒星風によって刻まれた星雲が複雑に入り組んでいるのがわかります。

近赤外線カメラ(NIRCam)によるタランチュラ星雲の画像。(提供/NASA, ESA, CSA, and STScI)

 一方の中間赤外線観測装置(MIRI)による観測では、高温の若い星が消え、低温のガスが見えています。幽霊のように見えるのが星雲で、このように観察できるようになったのは、塵の雲を突き抜けてきた波長の長い光を捉えられるようになったから。これまで見えなかった気泡や塵に埋もれた星も見えます。

中間赤外線観測装置(MIRI)によるタランチュラ星雲の画像。(提供/NASA, ESA, CSA, and STScI)

ワシ星雲「創造の柱」

 次は、ハッブル宇宙望遠鏡と戸でジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とでどのように異なって見えるかの比較をしてみましょう。

 下の画像は、ワシ星雲にある「創造の柱」(Pillars of Creation)と呼ばれる領域です。地球からへび座の方向に6500光年ほど離れていて、ガスと塵の高密度の雲の中で新しい星が形成されています。

 ハッブル宇宙望遠鏡が1995年と2014年にも撮影していますが、岩の柱がそそり立っているように見えますね(左)。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)の画像の方では(右)、生まれたばかりの原始星や雲のように見える先端付近に赤い領域があるのがわかります。これは、生まれてから数十万年しか経過していない若い星が噴き出すジェットが分子雲と衝突。それによって発生したエネルギーで励起された水素分子から赤外線が放射され、赤く輝いて見えていると考えられています。

左がハッブル宇宙望遠鏡の可視光、右がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラによるワシ星雲「創造の柱」の画像。細部の見え方が異なっている点に注目。(画像/NASA, ESA, CSA, STScI; J. DePasquale, A. Koekemoer, A. Pagan (STScI).)

渦巻き銀河「IC5332」

 次は、地球から2900万光年以上の距離にある渦巻き銀河「IC5332」の画像です(下)。直径は天の川銀河の3分の1ほどの6万6000光年です。銀河面が地球からの視線とほぼ垂直となった正対の位置関係にあることから、渦巻銀河の腕が広がっている様子を観察できます。ハッブル宇宙望遠鏡では腕の間を隔てる暗い領域が見えますが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡では、腕に付属するような構造のもつれが見えます。

上がハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3、下がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)による渦巻き銀河IC5332。(画像/ESA/Webb, NASA & CSA, J. Lee and the PHANGS-JWST and PHANGS-HST Teams)

木星や海王星の新たな姿

 ここまでに挙げた画像は遠く離れた天体を観測したものでしたが、太陽系の惑星もこれまでとは異なった姿となって見えています。下はガス惑星の木星の画像ですが、見慣れたオレンジがかった色とは印象がまったく異なっていますね。近赤外線カメラ(NIRCam)のデータを赤、黄緑、シアンの3つのフィルターで色分けしたものです。赤外線は人間の目には見えないため、波長の長いものはより赤く、波長の短いものはより青く変換されて表示されています。

近赤外線カメラ(NIRCam)の赤、黄緑、シアンの3つのフィルターで撮影した木星。(画像/NASA, ESA, CSA, Jupiter ERS Team)

 木星の北極と南極のオーロラは赤色に色付けされ、下層の雲や上層の靄からの反射光も強調されています。黄緑色のフィルターでは北極と南極に渦巻く靄が見えます。シアンのフィルターで得られた情報は青色に色付けされ、より深い主雲からの反射光を映し出ています。

こちらは、近赤外線カメラ(NIRCam)のオレンジ、シアンの2つのフィルターで撮影。北極と南極のオーロラ、オーロラの回折光や衛星イオからの回折スパイク、衛星のアマルテアとアドラステア、環も写っている。(画像/NASA, ESA, CSA, Jupiter ERS Team)

 海王星も幻想的な姿となって捉えられています。海王星といえば探査機ボイジャーが撮影した青色の姿が印象的ですが、下のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)の画像では、海王星は青色ではなく白く見えています。海王星のメタンガスは赤や赤外線を吸収するため、近赤外線の波長ではかなり暗くなって見え、太陽からの反射光などで白く写った姿は深海に漂うクラゲのようでもあり不思議な感じがします。

白く見える明るい筋や点はメタンガスの雲からの太陽の反射光を捉えたもの。リングも白く写っている。(画像/NASA, ESA, CSA, STScI)

 探査機ボイジャー2号が1989年に最接近した際に初めて存在が確認されたリングも白く見えるほか、14個ある衛星のうち上部の青色っぽいトリトンなど計7個の衛星も写っています。

探査機ボイジャー2号が1989年に最接近した際に捉えた海王星の青色。(画像/NASA/JPL)

太陽系外惑星の知られざる姿

 太陽系外惑星の観測でも、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は成果を挙げています。

 系外惑星は地球から遠く離れていることもあり、中心にある主星と分離した姿をとらえるのは容易ではありません。しかしながら、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、系外惑星HIP65426bを主星HIP65426と区別して直接撮像することに成功しました。異なる波長で撮影したのが下の画像で、紫色が近赤外線カメラ(NIRCam)の3.00μmの画像、青色が4.44μmの画像、黄色が中間赤外線観測装置(MIRI)11.4μmの画像、赤色が15.5μmの画像です。

白色の星印は主星HIP65426で、コロナグラフと呼ばれる明るい部分を遮光する装置で主星を隠すことで系外惑星HIP65426bが見えている。HIP65426bは木星の約6倍から12倍の質量があり、主星との距離は地球と太陽の距離の約100倍。HIP65426と地球は350光年ほど離れている。(画像/NASA, ESA, CSA, Alyssa Pagan (STScI))

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽系外惑星の大気も調べることができます。これまでにも、ハッブル宇宙望遠鏡などでさまざまな系外惑星の大気が調べられていて、水蒸気、ナトリウム、カリウムが含まれていることが確認されていますが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって、系外惑星WASP-39bの大気に二酸化炭素が存在することが初めて確認されました。

背景は系外惑星WASP-39bの想像図。手前のグラフは二酸化炭素の存在を示している。(画像/NASA, ESA, CSA, and L. Hustak (STScI))

 地球から700光年ほど離れた主星WASP-39の周りを回る系外惑星WASP-39bは質量が木星の約4分の1、直径が木星の1.3倍の高温ガス惑星です。太陽と水星の距離の約8分の1という非常に近い軌道を4日強で1周しています。

5つのテーマで解き明かす宇宙の姿

 すでにさまざまな成果を挙げているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。最後に、何を調べることができるか改めて整理しましょう。ここまでで取り上げたさまざな画像から、星が誕生しつつある現場や銀河、太陽系の惑星、太陽系外の惑星の新たな姿が明らかになっていますが、下の画像にあるように、大きく分けて5つのテーマで宇宙を調べようとしています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測対象は左から順に、(1)初期宇宙、(2)銀河やブラックホール、(3)星の誕生から死までのライフサイクル、(4)太陽系はもちろん恒星の周りを回る惑星系、(5)太陽系外惑星とその大気について、と多岐にわたる。(画像/ESA)

初期宇宙

 ハッブル宇宙望遠鏡によって宇宙初期に誕生した星や銀河を直接観察できるようになりましたが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡なら、ビッグバンによって宇宙が誕生してから間もない135億年以上前の過去までタイムマシンとなって遡ることができます。ハッブル宇宙望遠鏡は「幼児期」の銀河を見ていたのに対し、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は「赤ちゃん期」の銀河を観察できると期待されます。

銀河の時間経過

 宇宙で銀河がどのように進化してきたのかも調べます。銀河の大きさや形は千差万別で、宇宙誕生から数十億年間は、銀河の合体や分裂、寿命が短い大質量星による超新星爆発などがあったと考えられており、その宇宙のダイナミックな姿を明らかにします。ブラックホールや直接観測できない暗黒物質、さらには宇宙の加速膨張をもたらすダークエネルギーを調べることもできます。

星のライフサイクル

 銀河を形づくる星がどこで、どのように形成されるのか、どのような質量になるのか、そしてどのようにして死に至り、死んだ後に周囲にどのような物質を供給するのかを調べます。

 星の高温高圧の環境で起こる核融合反応によって、宇宙に存在する軽い元素の水素やヘリウムは鉄などより重い元素に変換されます。そして、星の内部でつくられたさまざまな元素が超新星爆発によって、宇宙全体に拡散していきます。生まれたばかりの星の周りにある塵を観察することで、原始星を観測。塵やガスの雲からどのように星がつくられるのか、あるいはガス惑星、恒星になるには十分な質量を持っていない褐色矮星などの星の誕生の秘密を探ります。

太陽系と異なる惑星系の世界

 これまでに発見されている太陽系外惑星の研究が急速に進んでいます。 最大の関心事は、地球が所属する太陽系と同じような惑星系は他にあるのか? これらの惑星系に生命は存在・誕生しているのか? ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽系外惑星の大気を詳しく観測し、地球と同じような大気があるかどうか、メタン、水、酸素、二酸化炭素、複雑な有機分子などの重要な物質があるかどうか調べます。生命の構成要素の存在を確認できるかもしれないと期待が集まっています。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の活躍は、まだまだこれからです。連載はいったん終わりますが、コカネットではこれからも引き続き、その活躍を追い続けます。

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

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