《子供の科学 深ボリ講座》卵化石の研究最前線!

「子供の科学」2023年4月号の「“最強”の恐竜」特集で取材したのは、筑波大学の田中康平先生。実は田中先生は、大学院生のころから恐竜の卵の研究を続けてきました。本誌では「大型恐竜の卵の温め方」の研究について紹介しています。ここでは、日本で発見された世界最小の恐竜卵化石について見ていきましょう。

お話を伺った筑波大学生命環境系の田中康平先生。

 恐竜の卵を研究するため中国やモンゴルにまで出かけていく田中先生。日本国内でも卵化石の発掘調査を行っています。

 2019年1月~3月に兵庫県丹波市で行われた発掘では、約1300点もの卵殻化石を発見し、詳しく調べた結果、トロオドン類など、小型恐竜の卵殻が4種類含まれていることがわかりました。

 恐竜の卵化石は親がわからないため、新たに発見された卵がこれまでに知られている卵と異なる場合は、卵の新種(新卵種)として報告され、学名がつけられます。

 丹波市での調査で見つかった4種の卵種のうち、2種の新卵種が報告され、そのうちの1種「ヒメウーリサス・ムラカミイ」はわずか4.5cm×2cmしかない小ささでした。ウズラの卵ほどの大きさ、世界で最も小さな恐竜卵と考えられています。

「ヒメウーリサス・ムラカミイ」の卵化石。左から、標本実物、μCT画像、復元された卵の模式図(画像提供/筑波大学、兵庫県立人と自然の博物館)

「ヒメウーリサス・ムラカミイ」という学名は、ヒメ(hime)は「小さい、かわいらしい」、ウーリサス(oolithus)は「卵の石」を意味するギリシャ語からつけられました。ムラカミ(murakamii)は兵庫県で見つかった国内最大級の恐竜「丹波竜」の第一発見者、村上茂氏に由来しています。

 この卵殻化石は親の種類がわからなかったため、コンピューター解析が行われました。その結果、ティラノサウルスなどと同じ獣脚類で、鳥に近い種類(非鳥類型獣脚類恐竜)の可能性が高いことがわかりました。兵庫県には当時、これらの小型の恐竜がたくさんいたのではないかと推定されます。

「ヒメウーリサス・ムラカミイ」と推定されるその親恐竜の復元図。姫君は大きさ比較のためのイメージ。(画像提供/筑波大学、兵庫県立人と自然の博物館、復元画/長手彩夏)

「海外に比べたら、日本はあまり恐竜の化石が見つからないと思っている人もいるかもしれません。でも、近年は日本各地で大発見が相次いでいます。世界最小の恐竜卵化石もそのひとつです。日本からも世界に誇れるような恐竜化石、世界一の恐竜化石が見つかるんです。今後も、日本のどこかで世界一といえるような化石が発見されると確信しています。もし『子供の科学』の読者で将来、恐竜を研究したいと思う人がいたら、海外はもちろんのこと、日本の恐竜研究でも成果をあげてほしいですね」と田中先生は語ってくれました。


斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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