大学の入学試験が、ここ何年かで大きく変わっているのを知っているでしょうか? かつてのようにテストの点数だけで合否が決まる時代は終わり、「色々な力をみる入試(総合型選抜)」という、受験者の得意なことや頑張りをしっかり見てくれる入試が増えています。
特に大学が求めているのは、「自分で考えて、他の人たちと協力して、最後までやりぬく力」といった、テストだけではわからない「大事な3つの力」です。
最近のAI(例えば、作文をつくってくれるAI)はとても賢いので、簡単なまとめの文章や、短い作文などだけでは、その受験生が本当に自分で考えたのかどうかを見分けることが難しく、受験生の「実力」や「やる気」を判断するのが難しくなってきました。だからこそ、大学の先生たちは、簡単には準備できない、1年、2年をかけて本気で取り組んだ「本当に大切な調べる活動で得られたもの」、つまり「研究の実績」を強く求めるようになっています。
実際、「色々な力をみる入試」を行っている大学は2015年度から2024年の間に2倍に増えています。この入試で力を発揮することが、合格するための大きな要素になっています。
近藤さんの研究:「シミュレーションで六本木ヒルズの人ごみを改善できる?」
近藤さんがNEST LAB. で取り組んだ研究のテーマは、「六本木ヒルズの横断歩道の人ごみをどうにかするシミュレーションプログラム」を作ることでした。この研究の始まりは、六本木ヒルズのイルミネーションが輝く時期に、横断歩道で写真を撮るために立ち止まってしまう人が多く、道がとても混んでしまうこと。その原因は、東京タワーとイルミネーションの両方を画面に収まる写真や動画を撮影するために、横断歩道の途中で立ち止まる人が多いことでした。近藤さんは、自分でシミュレーションプログラムをつくり、写真を撮る人や、横断歩道を渡るだけの人の動きを決め、どうしたら人ごみを減らせるかを探しました。近藤さんはPythonというプログラムの言葉の「mesa」や「matplotlib」という道具を使って、計算したり、結果をグラフでわかるようにしました。
研究の結果から、「場所を区切ったり、一方通行にしたりするのは、人ごみを減らすのに役に立つ」という答えを出しました。近藤さんは、この効果を街全体の人ごみを減らすことや警備にかかるお金を減らすこと、安全を守ることにつなげる、というように、今後の研究の目標も立てています。


研究のテーマを広げると、これから進む道のチャンスがぐんとアップする!
近藤さんの研究活動は、中学2年生のころに取り組み始めた『木をエネルギーに変えること』の研究。その研究を進める中で家族と地方へ行く活動を通し、やがて『観光』という分野に興味を持つようになったそうです。
また、近藤さんの研究『人の流れのシミュレーションをするプログラム』は、近藤さんの進む道の選択肢を幅広く与えてくれたそうです。
人の流れのシミュレーションをするプログラムというテーマは、「交通」という視点であれば、ものづくりを学ぶ学部へ、「街の作り方や場所の使い方」の視点では建物を学ぶ学部へ、プログラミング技術自体を深めたいならコンピューターの知識を学ぶ分野へと、色々な勉強につながる広さを持っています。
近藤さんが受験して合格したのは、立命館アジア太平洋大学(APU)のサステイナビリティ観光学部。この学部では、上記のすべてをいろいろな形で結び付けて学べる場所です。特に近藤さんの研究テーマである人の流れに対する考え方は、デジタル技術を使った観光(観光DX)を進める上でとても大事な見方として受験時にも認められました。
中学2年生のときの木のエネルギーの研究から、いろいろな勉強をしていくなかで、人の流れのシミュレーションをするプログラムへと変わっていき、そのことが大学の入学試験突破へつながりました。

海外で「自信」という受験の最強のチケットを手に入れた!
近藤さんは、高校時代に「サイエンスキャッスルフィリピン」という大会に挑戦しました。海外の大会に出場するのは、それだけで大きなハードルでしたが、近藤さんにとって本当に大事だったのは、参加したという事実と、そこで得た「自分を信じる気持ち」でした。
また、この海外での挑戦で、近藤さんが英語を話すことへの自信も得て、大きく成長できました。 得意な分野(理科系)で使う英語は、ふだんの会話ほど難しい言葉をたくさん知らなくても、なんとか自分の考えを伝えられる、ということがわかり、その結果、通訳の機械にほとんど頼らずに最後までやり遂げることができました。その経験から「自分の力以上のことでも、やってみようと思える自信」が生まれ、これが海外から来た学生が約半分を占め、世界とつながる、立命館アジア太平洋大学へ進むことを強く助けてくれました。

近藤さんは、このフィリピンでの大会で、現地の人ごみの例である「ブラックナザレ祭」に興味を持つなど、研究のきっかけとなった社会の問題を直接感じることもできました。また、日本の大会とは違う、約90秒のPR「SPLASH」にもチャレンジし、準備に大変な思いをしつつも、とても大切な経験をしたそうです。


合格のヒケツ:準備と作戦が大切!
近藤さんは、「色々な力をみる入試」という試験のやり方をよくわかった上で合格を手に入れました。
近藤さんのご家族は、お姉さんが大学に進学した時の経験から、近年の入試の変化に気づき、高校入学前から本人の興味を中心にして、幅広く大学のことを考えるために、いろいろ調べ始めていたそうです。本当にやりたいことができる大学を探す準備は、NEST LAB. での研究、家庭で自分の興味を広げる活動、学校での学びという3つの要素がうまく連動して進められたそうです。
「色々な力をみる入試」で受験した人のなかには、大学の先生と行った研究などで「専門家がチェックした まとめの文章」を出して合格した学生もいます。こうした文章づくりは高校生ではあまり行う機会は少ないですが、今後は、このような特別な助けの仕組みが大切になる試験も増えるかもしれません。
近藤さんは、大学について家族と一緒に調べたり、海外に行って初めてわかった経験をしたことなどが、変わりゆく大学の試験をやり抜いた、とても重要な要素となりました。
このように、自分の好きなことが、どこにつながっていくのかを探すことや、挑戦を続けることが、君の未来を大きく開くパスポートになるはずです。