2023年の春に、徳島県の神山町に誕生した学校「神山まるごと高等専門学校」(神山高専)は、オリジナルの教え方と、入りたい人がとても多いことで注目されています。この学校は、入学者数の9〜10倍もの志願者がいる、入学難関校です。
お話を聞いたのは、神山高専の3年生で、テクノロジーとモノづくりに日々夢中になっている福田晴さん(ふくだ・はる 高専3年生 17歳)。福田さんは、小学2年生くらいから小学6年生まで、小中学生のための才能発掘研究所「NEST LAB.」に通っていました。そこで育んだ「モノづくりへの情熱」と「自分で進む力(自走力)」が、難しい試験に合格できた一番大事なことだったそうです。
神山高専が探している「モノをつくる力」って、どんな力なんだろう?
神山高専は、テクノロジー、デザイン、そしてアントレプレナーシップ(起業家精神)を育てることに力を入れたオリジナルの授業計画を持っています。この学校が目指しているのは、「モノをつくる力で、コトを起こす人」になること。
福田さんは、モノづくりは、自分だけが満足するものじゃなくて、「世の中でどう使ってもらい、どんな影響を与えるか」を考えて、「誰かから感謝されるモノづくりやコト起こしをする」という学校の考え方に強く賛同して、この学校に入りたいと思ったそうです。
神山高専の入試(一般のテスト)では、国語・数学のテストのほかに、「課題レポート」や「ワークショップ」、「面接」など、色々なやり方で受験生の得意なことや考えをチェックします。テストで一番大事にしているのは、学校が探している人にぴったりかどうかという「マッチング」なのだそうです。
求められている学生像の一つは「モノづくりに興味がある人」ですが、プログラミングの経験は必須なわけではないそう。それよりも、知らないことに挑戦する中で「必要な学習を継続していくやる気があり、学んだことを活かせる人」が求められているそうです。
NEST LAB.で育んだ「探究心と自分で進む力」
福田さんがNEST LAB.に通っていたのは、小学校の時。いまの「ロボットAIテクノロジー専攻」や「ナレッジエンジニアリング専攻」に相当するクラスで、ホバークラフトのようなモノづくりを体験したり、LEDが光るのを見て電気の基本的なことを学びました。「プラスとマイナスといった基本的なことは、いま、新しく学ぶときの土台になっています」と福田さん。この経験が、いま神山高専で学んでいるIoT(モノのインターネット)などの授業で学ぶベースになっているそうです。

NEST LAB.時代に作った作品「電子トロンボーン」
“自分で進む力“を示す折り紙作品
小さい頃からトロンボーンを演奏していた福田さんは、NEST LAB.で学んだ電子工作の基本的なことを活かして、自分で「電子トロンボーン」を製作。サマースクールや面接で自分をアピールするのにもとても役に立ったそうです。
それから、福田さんは、人に頼らずに自分でとことん極める「自分で進む力(自走力)」がNEST.LABでの経験で培われたそう。その力は折り紙の技術を自分で身につけたことでも証明しています。図書館で見つけた本がきっかけで自分で技術を身につけ、今では自分でデザインして作品を作れるくらいに上達しました。とても細かく折った形は「もう紙の限界を超えてる」と周囲に言われるほど。折り紙のレベルを超えた探究心がよくわかります。コインほどの大きさの小さいバラは、細かいところまで作り込む集中力と、手先を動かす正確さが作品に表れています。
神山高専が大事にしているのは、「口だけではなく、手を動かす人」と、「正解がない問題に、自分だけの答えを出せる人」といった“力”。折り紙を自分で極めて、デザインまでできるようになった経験は、福田さんに、自分で進む力=自走力を育みました。


受験で役立った「モノづくりの経験の積み重ね」
神山高専の入試では、自分が探究したことの道のりを紹介するための「動画で自分をアピールする課題」などがあります。福田さんは、NEST LAB.での経験、自分で学んだ折り紙の作品、小さいころから続けていたトロンボーン演奏など、色々な経験を組み合わせてアピールしました。
特に、推薦してくれる人を学校の先生などに限らない、という神山高専の推薦状の仕組みは、学校外での活動が多かった福田さんにとって「モノをつくる力」を公平な目で見てもらうための、大きなチャンスになりました。

いま、そして未来への挑戦
高専3年生になった福田さんは、情報やIoT(モノのインターネット)の基本的なことを勉強しながら、3Dの形を作るソフト「Blender(ブレンダー)」で、コイキングなどのモデリング(形を作ること)に夢中とのことです。
「いま、作りたいものを作っているんだけど、それをどうやったらお金にしたり、社会の役に立てたりできるかを考えなきゃいけないんだ」と話す福田さん。モノづくりを社会の役に立つものに変えていくことを考えています。
小学生のころにNEST LAB.で育まれた「モノづくりの基本的なことや楽しさ」、「自分でとことん極める力」は、福田晴さんの挑戦をずっと支え続けています。
