“後発”地震ってなんだ?/新しく運用が始まった地震注意情報

国の新しい地震注意情報である「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用が、2022年12月16日から始まりました。ちょっと耳慣れない「後発地震」という言葉の意味とともに、この地震情報について解説します。

後発地震注意情報とは?

 12年前の2011年3月11日、東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震が発生しました。この地震の規模は観測史上最大のマグニチュード9.0でしたが、実はこの直前の3月9日にもマグニチュード7.3の大きな地震が起きています。

 このように、大きな地震が「同じ地域で比較的短時間に連続して発生」したとき、先に発生した地震を「先発地震」、その後の地震を「後発地震」と呼びます。

 北海道~東日本の東側(択捉島の東方沖から三陸海岸、房総半島の東方沖)には千島海溝と日本海溝という海溝(特に深い海底のみぞ)があり、周辺ではマグニチュード7~9クラスの大きな地震がしばしば発生しています。なかには短時間で連続した発生も何度かあり、また今後にも同じように起きることが考えられます。

過去起こった後発地震の2つの事例と、今回の後発地震注意報の対象地域(黄色い枠内)。(内閣府「防災情報のページ」の画像を参考に作成)

 そこで国は、北海道~東日本の太平洋沿岸地域に対し、大きな地震の発生後に「連続して大きな地震が起きる可能性がありますよ」という注意情報を出すことにしました。これが今回の「北海道・三陸沖後発地震注意情報」です。

常にたまり続ける地震のエネルギー

 そもそも大きな地震はどのようにして起きるのでしょうか。地震のもとになるエネルギーは、地球内部で起きているプレート運動によって発生します。

 日本列島の地下では4つのプレートがぶつかりあい、巨大な力が生まれてたまっています。地下の岩盤はたまった力に耐えきれなくなると壊れ、ある面(断層)を境にして大きくずれ動きます。これが地震です。このとき、たまっていた力の一部が放出されます。

日本列島は4つのプレートの上に位置している。

 しかし、プレートはほぼ一定の速度で何万年もずっと動き続けているので、地震のエネルギーも常にたまり続けます。その膨大なエネルギーは1回の地震ですべて放出されるとは限りません。また、壊れた岩盤は断層ができて弱くなっているので、続いて壊れて別の地震が起きることもあります。つまり地震は、特定の場所やその近くで連続して発生しやすいのです。

 ひとつの地震で地面の土砂が緩んだり建物が壊れかけたりすると、次の地震で斜面が崩れたり建物が壊れる可能性が高くなります。だから後発地震にも十分な注意が必要なのです。

大きな地震発生後の2時間以内に発信

 後発地震注意情報の発信は、次のように行われます。

 大きな地震の直後には緊急地震速報や津波警報・津波注意報、避難情報が出され、該当する地域での避難などが促されます。そして観測結果などをもとにより詳しく地震の規模を計算し、後発地震が心配される場合に「最初の地震発生から約2時間後までに」出されるのが、この後発地震注意情報です。

 その後、防災体制をとりつづけて1週間の間に問題がなければ、特に注意すべき期間が終了したことが内閣府から自治体を通じて知らされるしくみです。

 この注意情報の発信によって防災対策をとるべきエリアとして内閣府が整理したのは、北海道から千葉県までの「震度6弱以上、津波高3m以上となる市町村」です。もちろんこのエリア以外でも、強い揺れや高い津波の可能性がありうるので後発地震への備えは必要です。

「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発信された場合に防災対応をとるべきエリア(ピンク色の地域)。(内閣府「「防災情報のページ」の画像を参考に作成)

後発地震注意情報で注意すること

 後発地震注意情報が発信されたからといって、必ず後発地震があるとは限りません。むしろ空振りとなる可能性が高く、実際に後発地震が起きる確率は世界中の過去の地震を見ても、100回に1回程度とされています。

 しかし、最初の地震(先発地震)の後に災害対策を緩めると、それに続く地震(後発地震)の被害が大きくなることも。ですから、地震が過ぎ去っても「まだ次があるかも」と警戒を怠らないことが大切なのです。

 なお、先発地震がなくても大きな地震がいきなり発生することもありますし、対象となるエリアの外側でも、連続した地震が発生する可能性があります。これらにも注意が必要です。

その他の地域は大丈夫?

 今回運用が開始された注意情報は「北海道・三陸沖」の地域についてのものです。このため、これ以外の地域では大丈夫と感じるかもしれません。しかし、大きな地震の後発地震が他の地域で起こらないとはいえません。たとえば西日本で警戒されている南海トラフ地震でも、1週間以内に後発地震が発生する確率が高くなるという計算結果も発表されており、事前の注意を呼びかけるしくみが導入されています。

 日本の周辺は、世界でもトップクラスの地震が起きやすい地域です。そして現在の段階では、完全な地震予知はできません。ですから私たちは、地震防災を日ごろからつねに心がけることはもちろん、地震は続いて起きうることをはじめとした地震の知識を身につけることも、命や暮らしを守るためにとても大切なことなのです。

●参考になるWEBサイト
・内閣府「防災情報のページ」
https://www.bousai.go.jp/index.html
・文部科学省 地震・防災研究課「地震調査研究推進本部」
https://www.jishin.go.jp/

山村紳一郎 著者の記事一覧

サイエンスライター/和光大学非常勤講師。1956年、東京都生まれ。東海大学海洋学部卒。編集記者、カメラマンを経てライターとなる。現在は自然科学から先端技術までの執筆や、科学館の企画プロデュースなどを行う。天体観測と顕微鏡観察が大好き。

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