《連載ドクターズ・リレー》2022年8月号 – 岡田百合香先生「泌尿器科ってどんな病気を診るの?」

さまざまな分野で活躍する医師に、お仕事の内容や魅力を語ってもらう連載「ドクターズ・リレー」。子供の科学2022年8月号では、泌尿器科医の岡田百合香先生に取材。主な仕事内容の他、泌尿器科医を選んだ理由についても紹介しました。ここでは、誌面で紹介しきれなかったインタビューの全様をお届けします。

岡田百合香(泌尿器科医)
愛知県在住。総合病院の泌尿器科に勤務するかたわら、乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や、思春期の学生向けの性に関する授業などを行う。2022年7月にはこれらの情報をまとめた本『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)を出版。

泌尿器科ではどんな病気を診る?

──── 泌尿器科では、何を診察するのでしょうか?

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  泌尿器科が診察するのは、おしっこに関わる臓器(尿路)と、性行為や子供をつくることに関わる臓器(生殖器)です。具体的には、おしっこがうまく出せない(排尿障害)や、漏れてしまうといったおしっこに関する病気、おしっこが体の外に出るまでの通り道に石ができてしまう「尿路結石
にょうろけっせき
」、「悪性腫瘍
あくせいしゅよう
(がん)」、子供をつくるための機能に問題がある「男性不妊症
だんせいふにんしょう
」などがあります。

 また、交通事故に遭ったり、運動や遊んでいるときにけがをしたりして、泌尿器が傷ついたときにも治療をします。泌尿器科は、みなさんが風邪などをひいたときに行く内科などに比べると、外科的な手術や処置をすることも多いのが特徴です。

──── 子供だと、どういったときに泌尿器科にかかりますか?

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 泌尿器科にくる子供の患者さんに多い病気として、「亀頭包皮炎
きとうほうひえん
」があります。これは細菌が原因でおちんちんが腫れてかゆみや痛みが出たりするものです。程度によって、清潔を保つだけで自然に治るものから、抗生剤という菌を殺す薬を使って治療するものまでありますが、ほとんどが問題なく治癒します。

 他の泌尿器科の病気でとくに注意が必要なものに「精巣捻転
せいそうねんてん
」があります。陰嚢(精巣が入っている袋)の内部で精巣がねじれて痛みを感じる病気で、すぐに病院に行って治療をしないと、ねじれたところに血液が流れずに壊死(細胞が壊れること)してしまいます。タマタマ(精巣)だけでなく「お腹が痛い」と感じることもあり、精巣捻転と気づきにくいケースもありますが、少しでもタマタマに痛みを感じたらすぐに救急病院へ行ってください。

小学生以降のおもらしは受診を

──── 他に気をつけたい病気はありますか?

 男の子だけでなく女の子でもみられる症状が、「尿失禁」、つまり「おもらし」です。

 誰しも小さい頃にはおもらしやおねしょをすることがありますよね。これは、子供のときは膀胱(おしっこを溜める臓器)が小さく、貯める機能も不十分だからです。また、「おしっこに行きたい」という感覚(尿意)をつかむのが難しいのも理由です。成長とともにおしっこを膀胱に溜める機能が備わり、神経系統が発達することで、徐々に尿意を感じる力がつくと、おしっこをトイレまで我慢できるようになります。

おしっこが出るしくみ。大脳から「おしっこをしよう」という指令が出ると、膀胱が収縮し、膀胱と尿道をつなぐ尿道括約筋がゆるんで尿が押し出される。
『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)より。

 これらの機能が整う時期は個人差が非常に大きく、ほとんどの場合成長とともに改善していきます。また、生活習慣の見直しだけでよくなるケースも多いです。最近は「便秘」がおしっこのトラブルに強く関係していることが分かっています。

 一方で、おもらしで困っている子の中には、治療が必要な病気が隠れていることもあるため注意が必要です。

 目安として、昼間のおもらしについては、小学校入学後も続くようであれば、一度泌尿器科を受診してほしいと思います。寝ている間のおねしょについては、小学3、4年生以降も続くようであれば受診してください。また、その年齢より前でも、学校や友達の家でのお泊まりなど、普段の生活で気になったり、不安に思ったり、困っていたりするようであれば泌尿器科(かかりつけの小児科でもいいですよ)で相談してほしいと思います。

 ──── 泌尿器科に関するケガもありますか?

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 男の子だと、サッカーなどのスポーツをしているときなどにおちんちんやタマタマを蹴られたり、自転車に乗っていてぶつけたりしてケガをすることがよくあります。精巣を包んでいる膜(白膜)に傷がつくと、手術で修復しなければいけません。蹴られたりぶつけたりして、タマタマに異常を感じたときはすぐに受診してください。また、ふざけて男の子のタマタマを強く触ったり蹴ったりするのは絶対にやめてください。

 女の子だと、女性器まわりの病気やケガについては、まず婦人科や小児科に行くことが多いため、泌尿器科に直接来る人は多くありません。例えば「血尿(けつにょう)」といって血が混じった赤いおしっこが尿道から出る場合は、泌尿器科が診療する範囲なのですが、その血が尿道から出ているものか、性器から出ているものなのか、区別がつきにくいんです。もちろん、最初に泌尿器科を受診してもらってもいいのですが、ほとんどの場合は、婦人科や小児科に行って性器から出ている血ではないことがわかってから、泌尿器科にかかる人が多いですね。

おしっこを我慢しても膀胱炎にはならない⁉

 ──── 女の子が気をつけたほうがいい病気はありますか?

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 年齢にかかわらず女性に多いと言われるのは、「膀胱炎
ぼうこうえん
」です。膀胱炎は、すぐおしっこに行きたくなってトイレへ行く回数が増えたり、おしっこをするときに痛みを感じたり、血尿が出たりする病気です。細菌が尿道から膀胱に入り、増えてしまうことが原因でかかります。

 膀胱炎が女性に多いのは、男性に比べて肛門と尿道が近いため、大腸菌が入りやすいからです。
 よく「おしっこを我慢すると膀胱炎になる」と言われますが、実は医学的にはそういった証拠はありません。健康な人であれば、細菌が尿道から膀胱に入っても、おしっこを出すときに洗い流されます。「おしっこを我慢すると膀胱炎になる」と言われるのは、おしっこを我慢することで細菌を洗い流す回数が減り、菌が増えやすいというイメージがあるからだと思います。

 実際には、おしっこを我慢することと膀胱炎に直接の関係はないと考えます。

 「膀胱内に細菌がいる=膀胱炎」でないことは医師の間では有名です。特に年配の女性では、健康な人でも尿検査をするとおしっこの中に細菌が検出されることがよくあります。しかし、何の悪さもせずに「いる」だけであれば、細菌を殺す治療はせずそのままにしておきます。

 基本的に清潔を保ち、疲労やストレスをためないようにしていれば、健康な人が少々おしっこを我慢したくらいでは膀胱炎にはなりませんので、ご安心くださいね。ただし、日常的に尿意を我慢しすぎると、尿意を感じにくくなり、膀胱を傷める原因になります。また尿意を感じる前にこまめにおしっこに行き過ぎるのも、これまた膀胱にとってよくありません。

 こんなふうに、一般的によく言われていることや、みんなが当たり前のように言っていることでも、実は医学的には根拠がないこともあります。科学的根拠があるのか、信頼できるデータに基づいているのかを調べるのは大切です。私も引き続き、自分で調べたりアンケートを取ったりして、医学の知識を分かりやすくみなさんに伝えていけるよう、頑張りたいと思います。

泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書

0才からの正しいお手入れと性の話

【著】岡田百合香(誠文堂新光社) 1760円(税込)

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原口結(ハユマ) 著者の記事一覧

編集者、ライター。児童書、図鑑、学習教材などを中心とした書籍の企画・編集、取材、DTPを行う。子供の科学サイエンスブックスNEXT『科学捜査』、『単位と記号 パーフェクトガイド』(いずれも誠文堂新光社)などを手がける。

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