宇宙線ミュオンで、気象津波の観測に成功

 東京大学・九州大学・NECおよび海外の大学の研究者からなる研究グループが、宇宙線の一種であるミュオンを利用して気象津波を観測することに世界で初めて成功しました。

 ミュオンというのは、宇宙からやってくる宇宙線が地球の高層大気中の酸素や窒素の原子核にぶつかったことによって飛び出してくる粒子のこと。二次宇宙線とも呼ばれるものです。貫通力が強く岩石を通過するため、ピラミッドの内部構造、原子炉・火山の内部の様子などの観測に使われた実績があります。

 気象津波とは気圧の変化を伴う大気の振動が海面の波の振動と共鳴して生じるもので、今年1月にトンガ海底火山の大噴火によって発生した津波が記憶に新しいところです。大噴火によって引き起こされた空気の振動と海面の振動が共鳴しあうことで、海面を伝わってくる通常の津波より早く日本に到達しました。

ミュオンは、海水の厚さを測定するのに適した透過率を持ちます。海の深度が深くなるほど透過してくるミュオンの数が減少するため、これを計測することで、厚さの変化、つまり海面の振動の様子がわかるのです。

 今回の研究で観測対象となったのは、昨年9月末から10月にかけて、日本列島の南を北東に進んでいった台風16号による海面振動の推移です。

 研究グループは、東京湾アクアラインの地下トンネルに、100mにわたってミュオンを検知する海底ミュオグラフィセンサーアレイ(HKMSDD)を設置。海水の厚さの変化から海面の振動を調べ、気象津波の進み具合を解析しました。

東京湾アクアラインの地下トンネルにミュオグラフィセンサーアレイを設置(「東京湾海底HKMSDD」)し、海面の振動の様子を観測した。(画像/© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix)

 その結果、台風の大気擾乱
じょうらん
による気圧の振動の移動速度と海面振動の伝播
でんぱん
速度が関連していることがわかりました。これに東京湾の深さによる津波の進行速度への影響といった要素を考慮すると、東京湾において気象津波が起こっていた可能性が高いという結論が得られました。

今回とらえられた東京湾の気象津波。約3時間の周期で減衰振動していることがわかる。水深の深いレマン湖(緑色の線)に比べて、浅い東京湾(オレンジ色の線)では減衰の度合いが大きい。(画像/© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix)

 今後ミュオグラフィセンサーが世界の海に数多く設置されれば、従来の地震動由来の津波だけでなく、気象津波の予想にも役立つと考えられます。

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サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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